第23話 迷宮

 翌日、廃屋のビルの一室で仲川と、身元不明の女性の死体が黒いゴミ袋にバラバラに切り刻まれた状態で発見された。以前、訪ねた篠原昭代のアパート付近で聞き込みをしたところ、やはり殺されたのは篠原昭代で間違いはなかった。篠原昭代の家宅捜査をしたところ、ふろ場から大量の血痕が見つかったことから、篠原昭代は殺された後ここでバラバラにされたのだろう。では、あのアパートにいた女性は一体誰だったのか?僕と松村先輩の証言からモンタージュが公開された。しかし、手掛かりはいっこうに見つからなかった。


 仲川は今、精神科に入院している。そのまま…もう出てくることはないだろう。発見当時、薄暗いコンクリートの壁の隅で汚物にまみれ、うずくまり震えていた。名前を呼んでも声をかけても、以前の仲川ではなかった。いったい何が起こってる?公園で殺された橋本。レストランでの国会議員の夫妻3組の謎の死。偽の証言をした篠原昭代のバラバラ殺人事件と仲川…。


「ほら、これでも飲め。」

 松村がアイスコーヒーを一之瀬のデスクに置いた。

「お前、相当参ってるだろ。言っておくけどな、俺もなんだ。事件が山積みなのに動きようもない。でもまあ、これからだよ。きっとなにか見つかるさ。」

「仲川に何があったのか聞きたかったです。」

「うん?」

「あんな、すぐにバレる嘘の証言をさせて!とにかく言い訳でもなんでもいいから聞きたかった。」

「一之瀬、少し休め。」

「休めないですよ!こんな、こんな…!」

「ダメだ。今のお前は冷静じゃない。って言ってるんだ。ゆっくりすると、見えてくるかもしれんぞ?」

「わかりました。」



 仄暗く窓がない、空調機だけがカラカラと回っている広い部屋の奥。大きなデスクに座っている人物がいた。まわりに3人。そこへ1人が報告にやってきた。

「使えない。本当に使えない。橋本も仲川も、頭の悪い行動しかしなかった。仲川はもう殺しちゃっていいよ。どうせ廃人も同然だし。しばらく手をひくしかない。まあ、でも、神代ゆづりを追い込む最高の奥の手は残してあるから。とっておきのね。」



 ゆづりは自室でバイオリンを弾いていた。マスネ作曲・タイスの瞑想曲。柔らかく切なく…。そこへノックの音が聞こえた。

「お呼びでしょうか、ゆづり様。」

 ゆづりは演奏をやめ、

「どうぞ。」と返事をした。

「失礼します。」

「マーティン座って。」

 ゆづりはマーティンに椅子を勧めた。

「では、失礼します。」

 ゆづりはまっすぐマーティンを見た。

「マーティン、単刀直入で聞くわね。あなたは誰の味方?」

「もちろん、私の主はゆづり様だけです。ずっとゆづり様の味方ですよ。」

「そう。でも、私に話してないことがあるでしょう?」

 ゆづりとマーティンの間に重い空気が流れた。

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