第16話 目撃者
講義が終わり大学から出て、まっすぐな道を歩き門までくると一之瀬晃が立っていた。
「神代ゆづりさん。捜査協力のためご同行をお願いします。」
ゆづりは無言で、まっすぐ一之瀬晃をみつめた。
「詳しいお話は署で話したいと思います。あくまでも任意なのですが、よろしければ…」
「わかりました。」
一之瀬晃が言い終わらぬうちに、ゆづりは答えた。
「橋本が撃たれた時の目撃証言がありました!」
捜査本部に仲川が飛び込みながら叫んだ。
「あんな広くて人気のない公園で、よく目撃者がいたな。
松村が驚いていた。
「いやぁ~僕も苦労した甲斐がありましたよ。たまたま近くで雑草処理のバイトをしていた年配の主婦の方がいて~話を聞きたいと言ったら『見た!』ってね。これって僕のお手柄ですよね!」
「何をみたって?」
「髪が長くてスラっとした若い女性だったと。あの日近くにいたそれらしい女性って、神代ゆづりじゃないですか?」
そばで話を聞いていた一之瀬晃の顔が一瞬曇った。
「神代ゆづりが現場近くにいたのか?」
「見たらわかるかもって言ってましたから、来てもらいましょうか!」
一之瀬晃の問いに答えず、仲川はどんどん話を進めた。
「僕は決まりだと思いますけどねー?僕と先輩で重要参考人としてひっぱってきましょ!」
どうも
「仲川待つんだ。一之瀬、その日の神代ゆづりの行動を調べてくれ。」
「はい。」
「一之瀬先輩、なんで言わないんですか?あの日公園で弟さんが倒れた時に、神代ゆづりがその場にいたじゃないですか。」
「そうなのか?一之瀬。」
「はい、確かに弟が倒れた時に病院へ運んでくれたのは、神代ゆづりとマーティン・ホフマンだと聞きました。ですが…」
「ほら!だから言ってるじゃないですか!」
「ですが、曖昧過ぎます!」
「白にしろ黒にしろ、連れてくればわかる話でしょ?」
「仲川…。」
「まぁ、仕方あるまい。あくまでも任意で捜査協力を求めよう。」
このままでは意見が割れ、捜査に影響が出ると判断した松村が決断した。
神代ゆづりは同乗した車、後部座席の窓から外を眺めていた。
「あの…こんな時についでという形で申し訳ないですが…」
「はい?」
「弟を助けていただいたと聞きました。ありがとうございました。」
「いえ…。」
片言でまるで会話が続かない。ハンドルを握る手に汗が滲んだ。妙な空気だった。
もし、神代ゆづりが橋本を殺していたとしたら…その場で人助けをするだろうか?
一之瀬晃がそんな事を考えているうちに、車は警視庁に着いた。神代ゆづりの表情は落ち着いていた。その時迎えに来た仲川の、神代ゆづりを見る表情に違和感を覚えた。
(仲川…?)
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