第16話 目撃者

 講義が終わり大学から出て、まっすぐな道を歩き門までくると一之瀬晃が立っていた。

「神代ゆづりさん。捜査協力のためご同行をお願いします。」

 ゆづりは無言で、まっすぐ一之瀬晃をみつめた。

「詳しいお話は署で話したいと思います。あくまでも任意なのですが、よろしければ…」

「わかりました。」

 一之瀬晃が言い終わらぬうちに、ゆづりは答えた。


 さかのぼること3時間前。

「橋本が撃たれた時の目撃証言がありました!」

 捜査本部に仲川が飛び込みながら叫んだ。

「あんな広くて人気のない公園で、よく目撃者がいたな。

 松村が驚いていた。

「いやぁ~僕も苦労した甲斐がありましたよ。近くで雑草処理のバイトをしていた年配の主婦の方がいて~話を聞きたいと言ったら『見た!』ってね。これって僕のお手柄ですよね!」

「何をみたって?」

「髪が長くてスラっとした若い女性だったと。あの日近くにいたそれらしい女性って、神代ゆづりじゃないですか?」

 そばで話を聞いていた一之瀬晃の顔が一瞬曇った。

「神代ゆづりが現場近くにいたのか?」

「見たらわかるかもって言ってましたから、来てもらいましょうか!」

 一之瀬晃の問いに答えず、仲川はどんどん話を進めた。

「僕は決まりだと思いますけどねー?僕と先輩で重要参考人としてひっぱってきましょ!」

 どうもに落ちない。

「仲川待つんだ。一之瀬、その日の神代ゆづりの行動を調べてくれ。」

「はい。」

「一之瀬先輩、なんで言わないんですか?あの日公園で弟さんが倒れた時に、神代ゆづりがその場にいたじゃないですか。」

「そうなのか?一之瀬。」

「はい、確かに弟が倒れた時に病院へ運んでくれたのは、神代ゆづりとマーティン・ホフマンだと聞きました。ですが…」

「ほら!だから言ってるじゃないですか!」

「ですが、曖昧過ぎます!」

「白にしろ黒にしろ、連れてくればわかる話でしょ?」

「仲川…。」

「まぁ、仕方あるまい。あくまでも任意で捜査協力を求めよう。」

 このままでは意見が割れ、捜査に影響が出ると判断した松村が決断した。

 


 神代ゆづりは同乗した車、後部座席の窓から外を眺めていた。

「あの…こんな時についでという形で申し訳ないですが…」

「はい?」

「弟を助けていただいたと聞きました。ありがとうございました。」

「いえ…。」

 片言でまるで会話が続かない。ハンドルを握る手に汗が滲んだ。妙な空気だった。


 もし、神代ゆづりが橋本を殺していたとしたら…その場で人助けをするだろうか?


 一之瀬晃がそんな事を考えているうちに、車は警視庁に着いた。神代ゆづりの表情は落ち着いていた。その時迎えに来た仲川の、神代ゆづりを見る表情に違和感を覚えた。

(仲川…?)

 

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