第17話  公園

 読書をしようとすると決まって邪魔が入る。今日はもう、二回も邪魔をされた。一回目は一之瀬亮に。二回目は男に。なにかやろうとした時に邪魔が入る現象…。カルマの法則?そんな訳がない。けれど、このメモは見過ごせない。


ー君の可愛いナイト君の死体をプレゼントしようー


 悪趣味極まりない。

「マーティン、すぐに来てくれる?」

 ゆづりは本を読むのは諦めた。そしてマーティンに連絡をし、男が去っていった方向へ向かった。


 こうして一之瀬亮を探しまわる自分を不思議に思う。本来なら誰かに関わろうとしなかった。いや、してはいけなかった。けれど彼は私に近づきすぎた。私にかかわろうとしたため、巻き込まれてしまうのだ。そして、これは。組織からの命令ではない。組織はあんな皮肉めいたメッセージはしない。だとしたら…私は一之瀬亮を助けなければいけない。携帯のGPSは発信中だ。ゆづりとマーティンは近いところにいる。

「ゆづり様。一之瀬亮君を見つけました。ちょうどターゲットが正面から近づいてます。」

「マーティンはを。私は一之瀬亮を。」

「御意。」


 橋本はゆづりを甘くみていた。

 今頃メモを読んで、ガタガタと震えてることだろう。どうせなにもできやしない。上から目線の小生意気なお嬢様が!まわりからひとりづつ殺ってやるよ。そして、俺はトップを狙う。俺の方が側近で使存在だってな。

 橋本は、学校の成績も医者としてもレベルもいま一つだった。現在の病院に所属できたのも、橋本の父親がコネを使ったおかげだった。

『橋本先生って…この病院にコネで入ったって噂、本当?』

『本当らしいよ。お父さんがここの理事と友人とかなんとか?だったかなー』

『あー…どうりで。』

『プライドばかり高いのはそのせいかも。』

『それになんだか不気味よね。顔は悪くないのに雰囲気が。』

 いつどこで漏れたのかもわからないが、院内では噂になっている。すれ違うすべての奴らから好奇の目で見られている。そんなある日、から声がかかった。

「貴方はもっとなのに、それがきちんと評価されないのは非常に残念な事だと思わない?私の手伝いをしてくれるなら、貴方の望みを叶えられる。」

 最初はなんの宗教かと相手にしなかった。あの方の命に従い!それが、こんなに楽しいことだったとは!


 目の前に本日のターゲット、一之瀬亮が来た。髪の毛から水を滴らせ、ふらふらと歩いている。こんなのを殺すなんて容易たやすい。もう、やる前から嗤いが止まらない。

 橋本は、一之瀬亮とすれ違った瞬間、ポケットから拳銃を取り出した。ゆっくり振り向き、狙いを定める。一之瀬亮が振り向いたと同時に、目の前から消えた。

「は?」

 一之瀬亮を突き飛ばしたゆづりが、橋本の目の前にいた。そして持っていた拳銃はマーティンに手首を叩かれ地面に転がった。

「っつ!」

 転がった拳銃をゆづりが拾い上げた。

「物騒ね。お医者様が持つものではないでしょう。」

「貴様…」

「これは組織の命令じゃない。あなた自身が企んだものでもない。いったい誰が?」

「話すものか。俺はあの方に忠誠を誓ったんだ。」

「話さなくてもいいわ。あなたが知っているのは大した情報じゃないの、わかってるから。ただ、あなたは放置すると関係のない人が危ないの…だから、さようなら。」

「ま、待て!話す!」

 ゆづりの容赦ない一撃が放たれた。

「安い忠誠心ね。」


 突き飛ばされた一之瀬亮は、脳震盪のうしんとうを起こしていた。

「巻き込んじゃって、ごめんなさい。」

 ゆづりは一之瀬亮の頭を軽く撫でた。

「さて、彼は病院に運びましょうか。」

「そうね、忙しくなるわ。」

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