第14話 2つの事件

 ビル高層階のレストラン。朝の清掃員により、男女6人の死体が発見された。

「全員、国会議員とその妻です。死因はまだ不明ですが、毒物の線が濃いかと思われます。他殺の可能性が濃いですね。」

 発見から現状を聴き、一之瀬晃は遺体を確認する。目、鼻、口、耳…全てから血が流れている。その他の外傷はない。

「事件前後と思われる時間の、建物内や近辺の防犯カメラ、全部あたってくれ。」

 この遺体の状況は、あの時のコンサート会場の事件とよく似ている。だがしかし、空間が違いすぎる。

「この料理を出したシェフや他の従業員は?」

「それが…場所だけ貸し切りで、料理は別だったそうです。」

「この料理の出どころを調べてくれ。」

 ひと通り見てまわった所へ仲川が汗をかきながらやってきた。

「仲川、一旦戻るぞ。」

「えー!せっかく来たのに。」

「じゃあ鑑識の手伝いにまわるか。」

「えー…それは遠慮します。」



「心臓を一発で撃ち抜かれてる、か。」

 松村はしゃがんで、倒れている男の遺体を眺めた。顔はどこかで見たことがある。

「ただいま身元が判明しました!築附総合病院の医師、橋本昴はしもとすばる34歳。」

 名前を聞いて思い出した。捜査本部で、チラッと見ただけの写真の男だ。

「公園の防犯カメラに映ってないか、管理事務所に行ってくれ。あとは目撃者がいないか、付近の聞き込みを頼む。」

 この広い公園だ。目撃証言は難しいだろう。松村はため息をついた。



 目が覚めるとそこに天使が寝ていた。僕は死んで天国に来たのだろうか?前髪から覗く長いまつ毛。人形のように整った顔。白い肌に薄いピンクの唇…。神代ゆづりだ。椅子に座り、壁にもたれかかって寝ている。そうか、これは夢か。いや、これが走馬灯か!こんなにも幸せなら、死んでも悪い気がしない。

「あら、目が覚めたかしら?」

 看護師が入ってきた。同時に、ゆづりも目を覚ます。

「あ、はい!あの、ここは…?どうして僕はここにいるのでしょう?」

「昨日の夕方、あなたが熱射病で倒れたと、神代さんがここに連れてきてくれたのよ。覚えてない?」

「神代さんが僕を抱えて…。」

「安心して。抱えたのは、ウチの執事だから。」

「あ、はい…。」

「神代さん、昨夜からずっと付き添ってくれてたのよ。帰ってもいいって言ったんだけどね。」

「そうなんだ、ありがとう神代さん。」

「大丈夫なら、お家に連絡した方がいいと思う。」

「そうだね。」

 そう言うと一之瀬亮はかばんから携帯を取り出した。

「うわ、ヤバい!母さんから鬼着信が…。」

 くす…

 一瞬だけ。ゆづりが笑った。一之瀬亮は、ゆづりの笑った顔を見逃さなかった。

「じゃ、私は講義があるので帰ります。一之瀬君、お大事に。」

「あ、ありがとう!神代さん!」


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