第7話 高嶺の花
それは…
優しいメロディだった。
曲名はわからないけど、昔どこかで聴いたような懐かしい曲。
入学して間もない頃だった。
講義室へ向かう途中、僕は迷子になった。
「ここは…どこだ!僕は誰!いやいや、そうじゃない。誰か…、誰かいないのか⁉︎」
散々走り回ってクタクタになった時、どこからかバイオリンの音色が聴こえた。
音のする方へ向かう。まるで引き込まれるように…。
第二音楽室。そっと覗くと、綺麗な女の子がバイオリンを弾いていた。僕は講義の事を忘れて、聴き入っていた。気がつくと、涙……?
僕は知らず知らずのうちに泣いていた。
バイオリンの音が止まる。
「誰かいるの?」
ヤバい。盗み聴きした上に、涙なんて見せられない。
「ごめんなさい!」
僕は逃げた。
それが初めての出会いだった。
それから毎日、第二音楽室へ通った。
それなのに!彼女の姿は一度も見ることはなかった。あれはなんだったのだろう。もしかして、幻だったのかな。狐か狸に騙されたとか?
でも確かに『タイスの瞑想曲』を聴いた。あの後すぐに曲のタイトルを調べてみた。曲を探すのは結構大変だった。バイオリンの曲を検索して、ひとつひとつ聴いて。でも、また聴きたくて…。次に会ったら声をかけてみよう。そう思ってたのに、学校は迷子になるくらい広いし、学科が違えば全く接点もない。
そう諦めてた頃だった。
中庭でケータイゲームで暇つぶしをしている時、急に
なんだろう?ゲームの手を止め、皆の視線の先を見た。
カツン…カツン…
実際には、こんな音は聞こえてない。僕の脳内に響き渡る音だ。揺れる水色のスカート。黒くふわっと揺れるブラウス。風に流れる長い髪。ビスクドールのような綺麗な顔立ち。
彼女だ!
『キャッ!ゆづり様だわ。』
『今日はなんてラッキーなの!』
『今日も美しい…』
『綺麗ねぇ。』
彼女を取り巻いて皆が口々にする。
もしかして、芸能人なのか⁉︎
近くにいる人に声をかけてみた。
「あのさ、彼女って有名人なの?」
「知らねぇの?神代ゆづり。天才バイオリニストで子供の頃から有名だよ。」
「そうなんだ。」
「綺麗なんだけど、完璧でさ。俺らには高嶺の花だよな。」
「うん、そうだね。」
声はかけられなかった。あまりにも遠い存在のような気がして…。
その後も時々、彼女を見かけるようになった。探してる時は見つからなかったのに。
月日は経ち、僕は進級し2年になり…
ーその事件は起こったー
大学内はもちろん、その話で持ちきりだった。大学の有名な生徒が巻き込まれたのだから。どこにいても、その話は絶え間なく僕の耳に入ってきた。噂はどんどん尾ひれがつき『神代ゆづりは亡くなった』『神代ゆづりは犯人だった』などと言うデマも
その2週間後くらいだったろうか。講義室に入ると、偶然にも彼女はそこにいた。僕はしれっと彼女の隣に座った。が、それは失敗だった。
彼女の事が気になりすぎて、講義が全く頭に入らなかったのだ。
講義が終わってからテラスに行くと、彼女は座って本を読んでいた。僕は勇気を出して彼女に話しかけてみようと思う。
「やぁ、身体の調子はどう?もう大丈夫?」
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