第6話 捜査終了

「はぁ⁉︎犯人が捕まったから捜査終了⁉︎」

 富永慶介の自宅を訪ねてまもなく、松村から連絡が来た。

「仲川、すぐ本部に戻れと命令だ。」

「来たばかりなのに?」

「富永さん、犯人が捕まったそうです。また、お話を伺うかも知れませんが、今日は失礼します。」

「ええ…わかりました。」

 刑事が来たと思ったら、なにも話せないまま犯人が捕まったという事態に、富永紗矢は困惑した。

「仲川、犯人は自首して来たそうだ。」

「え、あれだけの騒動を起こして自首?」

 富永紗矢に軽く会釈をし、一之瀬は車を走らせた。


渡辺剛志わたなべつよし43歳。覚醒剤で何度か務所を出たり入ったりしてるな。今はもう幻覚症状が酷い。動機は、デカい事をやって目立ちたかったそうだ。毒ガスを入手して、会場に忍び込み後ろの出入り口に仕組んだそうだ。」

「毒ガスを仕組んだ形跡はありませんでしたけど…。では、今度は犯行に使用された毒ガスの入手先を調べます。」

「それがな。」

 松村はよく聞けと言わんばかりに間を置いた。

「捜査は犯人が捕まった、で終了だ。」

 一之瀬は松村の顔をじっと見た。

「そういう事だ。」

 これ以上調上層部からの圧力。犯人を適当にでっち上げて、揉み消すらしい。

「それと渡辺が他に三人、ったと自供している。現場には別の奴に行かせて、確認中だ。」

「なにがどうなってるんすか?」仲川がぼやいた。

「終了だって事だよ!」

 一之瀬が仲川の背中をバンッと叩いた。

「イテっ!一之瀬先輩、痛いっすよー!」


 

 コンサート会場での捜査は打ち切り。でも、まだまだ終わらない殺戮さつりく。今回は実験にすぎない。

 殺された両親。人質に取られた妹。この殺戮を断れば、妹はどうなってしまうのか。私は組織かれらの操り人形でしかない。

りん…。どこにいるの。」

 

 マーティンがハーブティーの用意をしていると、ゆづりの部屋からバイオリンの音色が聴こえて来た。曲はヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲の【G線上のアリア】。正確にはアウグスト・ヴィルヘルミが考えた、バッハの原曲のニ長調をハ長調に移調し、G線だけで曲全部が弾けると言う仕掛けがある曲だ。

 (曲が終わるまで、お茶は後にしよう)

 マーティンはゆづりの曲に耳をかたむけた。

 


 留置所では、覚醒剤の切れた渡辺剛志が何かを叫んで暴れていた。

「あいつらが!ブツの代金!代わったんだ!借金が…借金チャラで!あははは!俺がやった!俺が、俺が、俺が?やった?あー、チャラだ。ひひひひひ…。」

 壁に頭突きや体当たりをする。そしてズボンを脱ぎ、ひねりロープを作った。


「なぜ拘束こうそくしてないんだ!」

 知らせを聞いた松村は怒鳴り散らした。見回りの警察官が来た時には、渡辺剛志は捻ったズボンで首を締めた為、意識不明だった。

「来た時は、拘束確認しました。」

「どうなってるんだ、一体…。」

 首に指を当たると、まだ息はある。

「救急車だ!病院に運べ!」

 渡辺剛志は病院に運ばれた。救急入口で待っていたのはだった。


 しばらくして、橋本が集中治療室から出てきた。

「残念ですが…」

「くそっ!」松村は壁を殴った。

「ここは病院です。乱暴はおやめください。」

「ああ、すまない。」

「看護師に書類を持って来させます。では。」

 松村を後にし、橋本はわらった。

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