第5話 招待状の行方

 松村に呼び出され、一之瀬と仲川は本部へ向かった。

「松村先輩、お呼びでしょうか!」

「実は、ついさっきという電話が来た。家族3人で行ったのだが、子供が小さいからと出禁を食らったそうだ。まぁ、そのおかげで被害から逃れたんだが。」

「という事は、その3名を合わせて招待客は200名だったんですね。」

「そういう事だ。だが、本当は招待された訳ではなく、被害にあった197名の中にいる伊藤千寿子から、奥さんが譲ってもらったそうだ。伊藤千寿子と同じマンションに住んでいる、富永慶介。そこに行って詳しい事情を聞いて来てくれ。伊藤千寿子の持っていた3名分の招待状は、本当は誰の分だったのか。」

「了解です!」


 

 古めかしい門から200メートル先の正面に、国立築附大学こくりつちくぶだいがくがある。入ってすぐ右側に購買部があり、お弁当や菓子、本や参考書、文房具などという感じで品揃えが良い。

 また左側に総務事務の建物があり、来館したらここで手続きが済ませるようになっている。その裏側には三棟の研究室がそびえ立ち、またその奥に小さな池と馬小屋が備わっている。


 ゆづりは講義が終わり、本館のテラスで本を読んでいた。椅子は奇妙な形をしているが、座ると隙間が出来ない設計になっており、座っていても疲れ知らずだ。

 ふと誰かが近づく足音がした。

「やぁ、身体の調子はどう?もう大丈夫?」

 見上げると、同じ講義を受けたと思われる男子生徒が声をかけてきた。今まで話した事もなく、名前も知らない。

「同じ講義を受けてたわね。」

「あ、突然話しかけちゃってごめん。僕は一之瀬亮いちのせりょう。神代さんの事は前から知ってたんだけど、話す機会がなくて。」

 一之瀬亮の困った顔が、誰かを思い出させる。一之瀬…そうだ、一之瀬刑事だ。

「警察にお兄さんいらっしゃる?」

「え、どうしてそれを…?」

「事件の時にお話した刑事さんが『一之瀬』って名乗ってて、よく似てるからなんとなく。」

「やっぱり似てるよね、よく言われるんだ。そっか、兄貴が担当してる事件だったんだ。ほら、こういうの機密情報で家族にも話さないからさ。」

「そう、私も一度会っただけだし。そろそろ迎えが来るから。」ゆづりはスッと立ち上がった。

「また、話しかけていい?」

 ゆづりは答えずにその場を去った。


 門の近くで、マーティンが車の横に立って待っていた。

「お迎えありがとう。」

「お安い御用ですよ、ゆづり様。」

 マーティンは後部座席のドアを開けた。

 ゆづりは車に乗り込み、ふぅと溜息ためいきをつく。

「疲れましたかな?」

 マーティンはニッコリと話しかけた。

「いいえ、大丈夫。それより…。」

「はい、もう手は打ってあります。警察もこれ以上は関与かんよ出来ないでしょう。」

「しばらくは静かに暮らせるかしら。」

「帰ったらハーブティーを淹れましょう。」

「お願いするわ、マーティン。」

 


 

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