第4話 コンサートチケット
高層マンションに
その上の階は上層階級の家庭が多く、あまり関わりがない…はずだった。
たまたま
今日は捕まりませんように。そんな紗矢の願いは届く事なく、朝早くから捕まってしまった。ちょっと用事がある、と断っても聞き入れてもられず、「今日は特別なお話があるの。」と結局、強引に誘われてしまった。
千寿子はいつものようにクラシックをBGMに紅茶を淹れ、どこそこの高級なクッキーをブランド物のお皿に綺麗に並べててテーブルに出した。
「あの、お話と言うのは…。」
「そう!それよ。以前にお話した、特別な上流階級の方しか招待されない、神代ゆづりのコンサートの話は覚えてる?」
「ええ、もちろんですわ。とても楽しみにされてましたもの。」天才と言われるバイオリニスト神代ゆづりのコンサートは、政治家、議員、上流階級の主催で行われる事が多いため、一般市民には雲の上の話だ。そのコンサートの招待状が来たと、先週はその話ばかりしていたのだから。
千寿子はテーブルの上に身を乗り出し、紗矢に顔を近づけた。
「それがね、知り合いが行けなくなってしまったの。良かったら、あなた行かない?」
「え⁉︎」
「3枚あるわ。もちろんお金はかかるけど。」
「そんな、我が家は
「でもこんなチャンス、あなたにはもう二度と来ないかも知れないわ。行きましょうよ。」
「あの、ちなみにおいくらでしょう?」
千寿子はソファの背もたれに身体を戻しながら「1枚10万円よ。」と言った。
自宅に戻った紗矢は、手に神代ゆづりのコンサートチケットを握りしめていた。なんだかんだ買わされてしまった…。慶介に叱られてしまうだろう。
紗矢が夕食の準備をしているところへ、慶介は帰ってきた。
「話があるの。」紗矢は、神代ゆづりのコンサートチケットを出しながら切り出した。それを見た慶介は驚いた顔をした。
「実は上階の伊藤の奥様から譲っていただいたのだけど、金額が高かったの。ごめんない。」
しがないサラリーマンでは手に入る事のないチケットだ、という事は慶介もわかっていた。また、紗矢が強引に買わされたことも感じ取った。
「よし、今週の土曜日は家族でコンサートを楽しもう!煌輝も大人しく聴いていられるだろう?」
小さな息子に目をやると「うん!」と元気に返事をした。
「もう気にするな。」
そう言って紗矢の肩に手を置いた。
ーコンサート当日ー
コンサート会場に着いた紗矢は、先に煌輝のお手洗いを済ませた。煌輝は楽しみで仕方ないと言った感じで駆け出した。
「走ったら危ないわよ!」
追いかけると、煌輝が人にぶつかってしまった。慌てて謝罪をし、顔を見ると神代ゆづりだった。
「もうすぐ雨が降ります。小さなお子様連れの方はご遠慮下さい。」
「そんな!やっと手に入れたチケットなんです。子供は静かに音楽を聴くよう
「どうぞご遠慮下さい。では失礼します。」
そんな…そんなことって…
紗矢はガックリと肩を落とした。
「仕方ない。僕達が知らなかったんだ。今日は帰ろう。」
紗矢は泣いた。自分が悪いことをしたのだと煌輝は思い「ママ、ごめんなさい。」と謝った。
3人は会場から出た。今にも雨が降り出しそうな…重い空気だった。
翌日、泣き腫らした目で紗矢は朝食の準備をした。トーストにハムエッグにサラダ。そしてコーヒーを淹れた。
テレビを付けるとニュースが写り、なにか大きな事件でもあったのか、アナウンサーが叫んでいた。カメラはガラス造りの美しいコンサートホールを写していた。どこか見覚えのある場所。まさに、昨日行った場所ではないか。紗矢は持っていたコーヒーカップを落とした。
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