第2話 私が殺しました

 豪雨ごううの中、パトカーのサイレンが響き渡る。現場は最近建てられたばかりの音楽ホール。外観はガラス面が多く、ガラスの城のようだ。


 ここで一体何があったんだ。


 刑事課の一之瀬晃いちのせあきらは白い手袋をはめ、keep out(キープアウト)の黄色いテープをくぐり中に入った。

 入り口から少し離れた場所で、先輩刑事の松村崇志まつむらたかしが指示をしていた。

「松村先輩、お疲れ様です。」

「調べてくれたか。」

「はい。此方です。」

 頼まれた顧客データを渡すと、松村はざっとめを通す。

「招待された197人と奏者の神代ゆづり21歳、そして執事で会場設定を担当してたマーティン・ホフマン57歳。これは事故じゃない、殺人だ。すでにマーティン・ホフマンは重要参考人として事情聴取を受けている。一之瀬、仲川なかがわと一緒に神代ゆづりの容体と、そして意識が戻ったら話が聴けるように医者に許可貰ってこい。」

「了解!」


 密閉されたコンサートホールで197名が死亡、1名が一命を取り止めた。怪しいのは室外にいたマーティン・ホフマン。招待された客は全員、政治家や上流階級だ。だがどうやって?どうやって、を血の海にしたんだ!松村は頭をきむしった。顧客データを眺める。なにか共通する物があるのか…。


 一之瀬は新米の仲川と一緒に、総合大学病院へ向かった。ここに一命を取りとめた、神代ゆづりが搬送はんそうされ入院している。中に入り、総合受付に行きそっと警察手帳を見せる。

「昨日此方に搬送された、神代ゆづりさんのことで担当された先生にお話を伺いたいのですが。」

「少々お待ちください。先生に問い合わせますので。」

 しばらくすると奥の通路を通り、病棟の11階へ行くように案内された。

 エレベーターで11階に降りると、曇りガラスの自動ドアの前に着いた。ICカードがないと入れない仕様になっている。家族でも中々面会は難しい所だろう。ドアの前のインターホンを押し、名前と用件を伝えるとドアのロックが解除された。中で看護師に挨拶すると、患者用のコミュニティルームで待つように言われた。間もなく白衣を来た医者が足早でやって来た。

「お待たせしました。神代ゆづりさんの担当医の橋本です。」

「刑事課の一之瀬と仲川です。神代ゆづりさんの容体はいかがですか。」

「神代さんは、意識を取り戻し回復も早く、あと1週間様子を見て異常がなければ、自宅に帰れます。」

「そうですか!それは良かった。では、神代さんに少しお話を伺うことは出来ますか?」

「本人が大丈夫だと言えば、ですね。聞いて大丈夫であれば連れて来ます。お待ちください。」


 医師の様子から、神代ゆづりは回復しているのだろう。待っていると、車椅子に乗せられた神代ゆづりはやって来た。透き通るような白い肌、まっすぐに腰まである黒い髪。人形のように整った顔立ち。かと言って、整形したわけではないようだ。無表情なせいでより一層、人形かと見間違えそうなくらいだ。

「美しい…」

 隣にいた仲川がつぶやいたので、ひじでこづく。

「こんにちは、神代ゆづりさんですね?刑事課の一之瀬です。」

「同じく刑事課の仲川です!」

「こんにちは。」

「無事で良かったです。昨日の事でお話しを伺いたいのですが…」

「マーティンがやった。」

「え…?」

「そう思われているのでしょう。だって無事だったのはマーティンだけですもの。」

「マーティン・ホフマンさんは今、事情聴取をしています。まだ、犯行したとは…」

「私ですよ。私が会場のお客様を全員、殺しました。」

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