謝罪会見 13
エレベーターは地上一階で男性二人を吐き出した後、地面を突き刺すような勢いで地下へと潜り始めた。
そしてガラス扉の向こうに時折思い出したように明るい空間が現れては一瞬で消えていく。
そして数分が経った頃、エレベーターは急激に速度を落とし始めた。
「はあ、ようやく到着か。しっかしこんな地下深くまでよく穴を掘ったもんだね。私なんてトマトの支柱刺すだけでもめんどくさいのに」
マキタの草刈機を肩に掛けた緋雪氏がドアを睨め付けてそういうと、七倉氏が緊張した面持ちのままナッツを床に下ろし、その意見に同意する。
「ほんと、ほんと。私なんて妖怪一匹に槍を刺すだけでもひと苦労なのに」
「え、妖怪ってなに。冗談やめてよ〜イルカさん、クスクス」
明るくそう返したブロ子さんだったが、その声は震えていた。
そしてエレベーターが止まる。
その急激な停止により大きな負荷を受けた三人はそれぞれに呻きを喉元に押し殺し、次いでその場に膝を着いた。
すると何事もなかったようにその場に立ち尽くす烏丸氏が彼らを横目にして低い声で嗤う。
「フフフ……諸君、へたり込むのはまだ早いよ」
その声に呼応するようにドアは開き始める。
「さあ、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみだねぇ。ほら立って顔を上げな。ショータイムの始まりだ」
そして現れた光景に、けれどさすがの烏丸氏も少しばかり目を瞠いた。
「ほう、これはいきなりなかなかの眺望だ。なるほど、こよみさんが呼びつけるだけのことはある」
次いで緋雪氏たちも立ち上がり、そして生気のこもらない声を漏らす。
「……なに、これ。地底都市?地底人がいるの?」と緋雪氏。
「違うわ、これはきっとメイドインアビスの世界よ。きっとベニクチナワが飛んできたりするのよ」と恐れ慄く七倉氏。
すると二人の後を継ぐようにブロ子さんがひとつ咳払いをする。
「えーこほん。皆様、ご存知でしょうか。中国貴州省に世界最大といわれる巨大洞窟群があります。その中でもミャオティンと呼ばれるひときわ大きな空間。ここはそれに匹敵する巨大さだと思われます。その地域に暮らすミャオ族が『龍の巣』とか『冥府』と呼んで畏れるその地底ドームですが、実は地下水の流れが膨大な時間をかけて地層を削り取ったものだとされています。ですからここも同様に自然が生み出したダイナミック極まる景観で……あ、なるほど、鐘古さんが下北半島を手に入れたのはこの地底空間を観光資源にしようと目論んだため。それなら説明がつきますよ、ね、みなさん」
嬉しそうに両手の拳を胸元で握りしめたブロ子さん。
けれど緋雪氏はその彼女に訝しげな視線を向けた。
「でもさあ、それじゃあなんで私らをここに呼び寄せる必要があったの。観光資源なら関係ないじゃない。那智さんも私らも」
「そうですよ。しかも命のやり取りとかいってたみたいだし」
七倉氏が同調するとブロ子さんはちょっと肩をすくめてはにかんだ。
「えっと、それは。あ、そうそう、サプライズですよ。鐘古さん、きっと私たちを驚かせて楽しむつもりなんですよ、えへへ」
「そうかなあ。そんな悪ふざけする人じゃないと思うけど」
緋雪氏が首を傾げると七倉氏もウンウンとうなずく。
「いや、それは分かんないですよ。だって私たちカクヨムで繋がってるだけで、お互いの性格を詳しく知ってるわけじゃないですもん」
「ま、そりゃそうなんだけどさ。でもそれにしてもおかしくない?ブロ子さん、さっきここは自然にできたものだって云ったけどさ、建物があんなにいっぱいあるじゃない。人が住んでるんだよ、ここ」
そう指摘されてブロ子さんは目をすがめ、ドア向こうの景色をもう一度じっくりと見直し、しばしのちに呆けた声を漏らした。
「……ほんとだ。なにあれ。街じゃん、ここ」
「でしょう。それにさ、真ん中のあの真っ黒なお城みたいなの、ヤバくない。やっぱりここはアビスよ。そしてあそこには黎明卿ボンドルドみたいな悪い奴が住んでるのよ、きっと」
怖気に身を震わせた七倉氏がイケボな悲鳴を上げるとブロ子さんが引き攣った笑顔を向けた。
「いや、いくらなんでもそれはないですよ。ていうかボンボルドって誰ですか。いやいや地底人とかいるわけないじゃないですか。いや、マジでなにいってんですか二人とも。もういい加減にしてください。もしかしてブロ子を怖がらせようとしているんですか。そう簡単に騙されやしませんよ。これでも私は……」
必死に言い募ろうとするブロ子さんの胸もとにそのとき片手が伸びた。
「悪いが呑気におしゃべりしている場合ではなさそうだよ。見てみろ。あそこに誰か倒れている」
そう制した烏丸氏が指差した岩陰に何者かの脚が覗いていた。
つづく
残念、まだ全員合流できませんでした。
ですが鐘古さんも松本さんも那智もいない模様。
いったいなにがあったというのでしょうか。
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