第177話 悲しい犠牲(桑田明日奈)

私達は旧ホワイトフォート、今は改名されて坂部市となった街を追放されてこの街にやってきた。


追放されたのは私の彼氏である冴賢くんとそのご家族だけど、私には一緒に行かないという選択肢は考えられなかった。


冴賢くんは神様に与えられたという凄い力を持っているけど、別にそんな力など無くても私が一生を添い遂げたい人だからだ。


私と同じく冴賢くんと付き合っている親友の莉子ちゃんも、弟の秀彦君と一緒に着いてきてくれた。


私達ふたりと同時にお付き合いしているのは別に冴賢くんが不誠実という訳ではなく、私達の方からそうしてもらえる様にお願いしたからだ。


もう日本の法律に従わなければならない理由は無い。

親友である莉子ちゃんの気持ちもわかるし、私は冴賢くんとお婆ちゃんになるまで一緒にいられればそれで良いから。


それに最近では他にも、もしかしたらという人もいる。

平坂綾音さんだ。


女子同士での冴賢くんの話題には必ずと言っていいほど反応があり、時折冴賢くんと会話していて真っ赤になっている姿も見ているし、私が見る限りだけど冴賢くんを見つめている時間も長い。


それにバレンタインには手作りの凄いチョコを冴賢くんに渡してきて、莉子ちゃんがそれに怒って冴賢くんをつねってしまうという事件もあった。


私としてはサイコ部隊で戦える綾音さんにも、冴賢くんを公私ともに支える立場になってもらっても良いかなと思っているので、今度本人に確認してみようかと考えていた。


そんな最中に小学校への襲撃が発生したの。





ーーーーーー





サイレンで緊急事態が告げられて集まる私達。


私と莉子ちゃんはリーダーである冴賢くんのお父さんの指示で、一部の人しか知らされていない秘密の脱出路に人々を誘導していった。


女性と子供達を優先して逃がしてゆき、私と莉子ちゃんは冴賢くんが心配だった事もあり、最後まで一緒に小学校に残る事になった。


戦いが始まる前の様子を少しだけ見ていたんだけど、襲撃してきた人の中に幼馴染の康太こうたがいたのには驚いた。


見間違いかなと思ったのだけど制服は同じ高校の物だし、顔も間違いなく康太こうただ。

パンデミック初期の頃に別れてからずっと行方不明になっていたけど、まさか人を襲う怪物になっているなんて……


驚きと言えば、相手の鬼の様な者も冴賢くんの知り合いみたい。

よく見ると、あれは冴賢くんの親友の東堂君みたいだった。


死んだと聞いてたのに、一体どういうことなのだろう。


その後、戦いが始まって私達は校舎の中からそれを見守っていたんだけど、冴賢くんがあの鬼から攻撃を受けて倒れてしまったの!


冴賢くんが殺されちゃう!


「嫌ぁ! 冴賢くん!」

「冴賢くん!」


「駄目だ! 姉さん!」

「佐々岡さんも、待つんだ!」


私と莉子ちゃんは冴賢くんが殺されそうになって飛び出そうとしたんだけど、弟の明人と残ってくれていた遠藤雄二さんに止められてしまう。


でも、代わりに武田真理さんが飛び出してゆき、その後に守備隊の皆さんが救援に行ってくれて、少しして怪我をした冴賢くん達が戻ってきたの。


冴賢くんが無事で本当に良かった……





ーーーーー





その後、私達は地下道を通って避難を続けていた。


冴賢くんは動けないので虎太郎さん、私の弟の明人、遠藤雄二さんで運んでもらい、足を怪我している悠里さんは綾音さんと茜さんが両脇で抱えながら進む。


みんなボロボロだ……


途中、冴賢くんのお父さんの声を聞いて、私達を逃がしてくれた守備隊の人達も全員が亡くなってしまった事を知った。


冴賢くんはその後、力尽きた様に眠ってしまったみたい。


とても悲しいけれど、この尊い犠牲を無駄にしないよう残された私達は生き延びなければならない。

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