第178話 眠る希望(大谷光司)(5/3)

次の日、昼頃になって最後尾である冴賢さんがいるグループが到着した。


メンバーはサイコ部隊員と最後まで小学校に残っていた明日奈さん、莉子さん、武田真理さん、明日奈さんの弟の明人さん、小学校グループの遠藤雄二さんの十人だ。


虎太郎さん、明人さん、雄二さんが交代でずっと意識を失っている冴賢さんをかついで運んで来たという事だった。


急いで冴賢さんを脱出先に建ててある倉庫内に運んでアルミシートをいた上に寝かせ、関係者を呼び集める。


僕の他には明日奈さん、莉子さん、武田真理さん、荒井家のママさん、玲奈さん、虎太郎さん達サイコ部隊員、明人さん、遠藤雄二さん、平坂家の母、小谷静香さん、元自衛官の佐々木さんがいて心配そうに周りを取り囲む。


元自衛官の一条さんはゾンビが山側に来ないか監視してくれている。

今は川上京子先生が冴賢さんの怪我の状態を見てくれているところだ。


「川上先生、冴賢くんの怪我は……」

「あれから、ずっと眠ったまま目を覚まさないし……」


明日奈さんと莉子さんが泣きそうな顔で川上先生に尋ねる。

武田真理さんも同じような感じに見える。


「そうね……肩の傷は深いけど出血はもう止まっているし、脈拍みゃくはくがかなり低いけど安定していて呼吸もちゃんとあるから、直ぐに命の危険は無いと思うわ」


「良かった……」

「うん……」


良かった、冴賢さんの怪我は大丈夫みたいだ。

それからサイコ部隊の怪我の治療も始まった。


虎太郎さんは左腕の骨にヒビがはいっていたみたいで腕を吊るし、細井悠里さんは太腿ふとももを弾丸で貫かれてていた為、消毒して包帯を巻く。

冴賢さんの力に守られていたせいか、幸いにも感染はしていないらしい。


平坂姉妹も打撲痕が多数あったので酷い箇所は治療されていった。





ーーーーー





「でも冴賢君、なんで目を覚まさないんだろう。あれから24時間以上は経ってるし……」

「そうですよね、僕も運んでいる時に全然目を覚まさないんで、おかしいと思ってたんです……」


遠藤雄二さんと明人さんが、冴賢さんが目を覚まさない事をいぶかしんで話した。


「冴賢殿は私達を守るために、あの鬼の黒い爪に貫かれました。あれのせいでは無いでしょうか? 何やら禍々まがまがしい気を感じましたし……」


「隊長……」

「私達が弱かったから……」

「くそっ!」


綾音さんが冴賢さんが受けた攻撃の事を話し、悠里さん、茜さん、虎太郎さんが悔しそうに呟く。


「お兄ちゃん、起きてよ……」

「あの人も死んでしまって……冴賢までこんな……これからどうしたらいいの……」


玲奈さんと荒井家のママさんが、冴賢さんに触れて悲しむ。

皆が途方に暮れた様に沈み込んだ。





ーーーーー





やっと脱出した全員が揃ったと思ったけど、肝心の冴賢さんが目覚めない。


こんな事は想定してなかった……


僕達はリーダーの荒井さんや守備隊の皆さんの命という尊い犠牲のお陰で、一旦は山側に逃れる事ができたけどゾンビは未だに多数存在していて、いつこちらに迫って来るか分からない状況だ。


でも冴賢さんが目覚めない。

これからどうすればいいのか……


何もしないでいても刻一刻と状況は悪くなって行くような気がする。

今、僕達の取れる選択肢は大きく分けて二つだ。


まず第一にここから動かずに冴賢さんの回復を待つ事。

だけど、いつ冴賢さんが目覚めるか分からないし、ここに留まっている間にゾンビ達によって山狩りが行われるかもしれない。


次にあるのが山を越えて日本海側に逃れる事。

これだとある程度直ぐに行けるけど、このまま徒歩で山を越えるのは物資も足りないし、お年寄りや子供もいるので難しいかも知れない。


しかし物資といえば、確かめておかないと……


「明日奈さん、今後の為に確かめたい事があります……冴賢さんが眠っている今の状況でもアイテムボックスが使えるかどうかを見てもらえませんか?」


「えっ。いいけど……あっ! 使えるみたい」


明日奈さんがそう言うと冴賢さんの手を握り、実際に毛布を一枚取り出して冴賢さんに優しく掛ける。


良かった! アイテムボックスが使えるって事は物資の心配が無いって事だ。

少し光明が見えて来たかもしれない。


僕は考えていた案を皆さんに相談して小一時間ほど議論した結果、最終的にはアイテムボックスから出した物資で山を越え、まずは新潟に出ようと言う事になった。


眠っている冴賢さんは僕達の唯一の希望だ。


今は僕達が冴賢さんを守り、前に進むしかないんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る