第176話 脱出(大谷光司)(5/2)
僕は夕方前に山側の出口にたどり着くことが出来た。
美久は途中で疲れてしまったので、なるべく先行する為に他の人に託した。
出口では、既に元自衛官の佐々木さんと一条さんがいて周囲を警戒してくれているのと、細井悠里さんのところの高校生の皆さんも大半が到着していて、疲れた様子でぞれぞれ用意してあった非常食を食べたり休んだりしていた。
皆は総じて元気が無く、倒れ込む様に座っている人が大半だった。
命からがら逃げて来たこの状況じゃ無理もないだろう……
今は、荒井さんや守備隊の皆さんの自己犠牲により何とか逃げられただけの状況だ。
特に今までずっと道を示してくれていたリーダーの荒井さんを失ったことは精神的に大きい。
皆、今後どうなるか凄く不安なんだと思う。
でも、その荒井さんに後を任されたんだ! 今は僕が頑張らないと!
僕は比較的到着が早い方だったけど、お年寄りや小さい子供などもっと体力が少ない人もいるので、これは夜まで掛かるか最悪全員が揃うのは明日になってしまうかも知れない。
そうすると小学校に迫っていたゾンビ達の動きが気になるのと、ここへ着くまでに水分も食事も摂れない状態だと、体力的に危ない人が出てくるかも知れない。
「佐々木さん、一条さん!」
「光司君!」
「着いたか! 良かった」
「はい、ついさっき着きました。敵の動きはどうですか?」
僕は一番気になる事を聞いてみる。
「一度街が見えるところまで偵察に行ったのだけど、街中がゾンビで埋まっていたわ、だいぶ遠くまでね……方向から考えると坂部市も、もう……」
「そうですか……こちらに、山側に来る様子はありませんか?」
「今後はわからないけど、今は無いわね」
「俺達はどうしようか? 荒井さんが君を臨時の指揮官に指定したのは見ていたし、最期の言葉も聞いたからね……」
「そうですか……済みませんが佐々木さんと一条さんは交代で、ゾンビが山側に登って来る動きがないかどうか見張ってもらえますか?」
「そうね……もしゾンビが山に登って来る動きがあったらまずいものね。了解よ!」
「俺も了解だ! とりあえず四時間交代ぐらいで見張ることにするよ」
「ありがとうございます」
これで今後のゾンビの動きによっては、こちらも対応を変えられるだろう。
-----
「すみません。元気な人はここへ集まってもらえますか!」
僕の声掛けで既に到着していた人達、主に細井悠里さんのところの高校生達が集まってくれる。
荒井さんの最期の言葉を聞いて、僕の立ち位置を皆が理解してくれている様だ。
それはとても悲しくもあり、今は有難くもあった。
僕は皆に今の状況を踏まえ、全員を抜け道からここへ到着させる為の案を伝える。
ありがたい事に事前に冴賢さんが用意してくれた物資倉庫に、ある程度必要な物資が揃っていた。
まず抜け道に戻る体力のある人達を選抜して二つのグループに分け、第一陣にペットボトルの水、防災用アルミシート、少量の非常食を持って直ぐに抜け道に戻ってもらう事にした。
水は欲しい人全員に、防災用アルミシートや非常食は夜までにたどり着けないだろう後続の人へ、特に子供を優先する様に伝えて直ぐに準備して出発してもらう。
同時に、少ししたら第二陣が来ることも伝達してもらうように頼んだ。
次にカセットコンロで炊飯した米をおにぎりに加工してもらい、第二陣に追加のペットボトルの水と併せて届けてもらう事にした。
間違っても煙だけは出さない様に注意をお願いし、炊飯とおにぎりの作成は主に高校生の女子達に担当してもらい、第二陣にも二時間遅れぐらいで出発してもらった。
引き続き女子の皆さんには到着した人に提供するご飯と、温かい汁物などの作成を行なってもらう。
到着した人には用意した食事を提供し、展開したテントで休んでもらった。
これで後続まで物資が届けば、遅くとも明日中には全員揃う事が出来るだろうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます