第158話 モールからの訪問者(2/11)

(マスター、西の外壁に二十名の訪問者がいます。この者達は西にあるショッピングモールに住む者達です)


アイジスが訪問者の存在を僕に思念で伝えて来た。

一瞬放おっておこうかと考えたけど、一応パパに報告しようと思う。


(ありがとうアイジス)


……


「お前を閉じ込めたというモールにいる奴らか?」

「多分そうだよ。確か燃料を凄く欲しがっていたと思う。でもサーチで反応は青色なんで、根っからの悪人じゃなくてこちらを殺そうとまでは思ってないっぽいんだ」


「そうか……そりゃあ逆に始末が悪いな。小悪党のたぐいだろう。まあ、一度会うだけ会ってふざけた事を言ってきたら追い返すか」

「そうだね」


相談して彼らと会う事にした僕とパパは、守備隊の皆と佐々木さん、一条さんに連絡を入れた後、彼らのいるバリケード付近に赴く。


パパは威嚇用にカモフラージュした訓練用の小銃を持って来たみたい。


僕は両手を壁に向け、土操能力グランキネシスで土壁のバリケードに人が二人は通れるぐらいの穴を開けてゆく。


そこを通り抜けると、直ぐにこちらを見つけて駆け寄ってきた彼らと対峙した。

彼らは僕達を威圧する様に取り囲む。


「お前ら二人だけか?」

「持ってるもんを下に置け!」


鉄パイプやナイフなどの武器を持った者達が前に出てきて、僕達を威嚇する。

そして例の小太りで生え際が後退した中年の偉そうな男性が姿を現した。


「パパ、この人が確かリーダーの大津さんだよ」

「ほう、そうか」


「誰が喋っていいと言った!」

「そうだ、ゴラァ!」


僕がパパに以前聞いたリーダーの名前を告げると男達が威嚇して騒ぐ。

それを大津という男性がオーバーに両手を上げて鎮めた。


「まあ待て、騒ぐな。お前は……この前ワシの拠点から高校生達を連れて逃げ出した奴だな。この高い壁は何だ、これを一体どうやって作ったんだ? それに、この辺りのゾンビが殆ど居なくなってるのは何故だ?」


「その問いには俺が答えてやろう。まず俺は、この隣にいる冴賢の父親だ。この壁は感染者に対するバリケードだな。そして、この辺りのゾンビは我々である程度間引いている……コイツでな!」


大津さんの質問にパパが不機嫌そうに答え、事前に布を巻いてカモフラージュしていた小銃を取り出して軽く構えた。


「ひ、ひいっ!」


「うっ!」

「何っ!」

「ヤバいぞ!」


銃口を向けられた事が無いのか、大津さんは短い悲鳴を上げて後ずさって尻もちを付き、武器を持って取り囲んで威嚇していた者達も一斉に二、三歩下がって怯む。


相手がたった二人でも、連射が出来る自動小銃が相手だと流石に分が悪すぎるのが理解出来たらしい。


「お前ら、そんな玩具でコイツとやり合うつもりか? 言っておくが、この壁の向こうにはこれを持った奴が50人はいるぞ。元自衛官を含めてな。死にたく無ければ三秒だけ待ってやるから武器を下に置いて跪け。俺は凄く気が短いんだ。三! 二! 一!」


「「「「は、はいっ!」」」」


それを聞いて心を折られた男達は、パパが早口で数えたカウント一で全員が跪く。

やはりこの男達は命令されて動いているだけに過ぎないらしい。


そして大津さんはと言えば銃口を向けられた恐怖で失禁し、失神していたんだ……





ーーーーー





「で、ここへは何をしに来た? 嘘はくなよ」


あれから少しして気が付いた大津さんにパパが尋ねる。

他の人達は皆が正座させられていた。


大津さんは当初の威張り散らした感じは鳴りを潜め、震えながら答える。


「は、はい……最近、急に小学校付近に高い壁が出来て、ゾンビも少なくなったという報告を受けまして……一度様子を見に……」


「それで、結局何がしたいんだ? お前達はこの小学校にいる身寄のない子供達を養う事を放棄して追放したんだろ。そんな無慈悲な真似をしたお前達を仲間にするつもりは毛頭無いぞ」

「それは……その……私どもは食料と燃料が不足に困っておりまして……」


「食料はともかく、燃料は何に使うんだ?」

「そ、それは……車を動かすのに必要で……」


「冴賢から聞いたが、以前から燃料を欲しがっていたそうだな。こちらに燃料があれば、数の暴力で奪うつもりだったと言う事だろ?」

「いえ! そんな、その……少しだけ分けていただければと……」


「嘘はくなと言ったはずなんだがな……まあいい。お前達をとっちめるのも馬鹿らしい、時間の無駄だ。そちらの情報を教えろ。何人いて、食料はあと何日ぐらい持つんだ?」


大津さんが後ろを振り返って合図すると、そういう情報を管理しているらしき男性がいそいそと前に出てメモを見ながら説明する。


「はい。げ、現在は男性36名、女性45名、中学生以下の子供が10名です。これ以上調達が出来ない場合の食料は、節約して大体ですが一か月分弱となります……」


「もう食料調達の当ては無いのか?」


「……この市街での目ぼしい倉庫や施設、住宅の食料は、あらかた調達済みです……後は車を使って他の地域で調達するしかない状況です。もしくは移住するか……でも、燃料がありません……」


パパが再度質問すると、同じ男性が答える。


「ちょっと二人で相談するから、お前達はそこで待っていろ!」



意気消沈している相手を少し待たせ、僕とパパは少し離れたところで相談する。


「どうする、見殺しに出来るか?」


僕達は恐らくあと二、三か月は生活環境を整えたこの小学校に留まる予定だ。

その間に近くにいる人達が食料不足で餓死されてしまうのは心苦しい。


それに中には大津さんに仕方なく従っているだけの人達もいるかも知れない。

そういえば島田さんだっけ、あの人も見当たらないな。


僕はパパに首を横に振って答えた。


「だろうな」


そしてパパと色々と相談した結果、彼らには燃料と数か月分の食糧を援助する事に決めたのだった。

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