第159話 物資の提供(2/12)

ショッピングモールから来た大津さんと男性達には、後から燃料を含む物資を渡すつもりである事を伝え、一旦帰ってもらっていた。


大津さんも皆さんも、物資を貰えるという喜びよりも命の危険から開放された事の方が強いみたいで、その表情はほっとした感じに見えた。


本来は小学校グループの子供達を見捨てていた彼らに援助する価値は無い。

だけど、近くに居る彼らモールグループが飢えていると思うと、こちらの気が休まらないだろうし、中には反対でも言い出せなかった者がいるかも知れない。


それに小さい子供もいると聞く。


いずれにせよ、モールグループへの援助は今回一回限りとして、後は自分達で生存への道筋を考えてもらうしか無いだろう。


次の日、僕はアイジスになるべく大きな車という注文で、巨大なコンテナを搭載したトレーラーをアイテムボックスから出してもらい、コンテナ内に保存が効く食料と医薬品等を配置していった。


殆どはお米と乾麺類とし、後は少しの医薬品と調味料系を用意した。

100人ぐらいなら節約すれば半年以上持ちそうな量だ。

水までは面倒をみれないので川で汲んでもらうしか無いだろう。


燃料も軽油、ガソリン、灯油をそれぞれドラム缶10本ずつ渡す事にした。

一缶に1バレル=約160L分入れたので、それぞれが合計で1600Lぐらいだから、当分は移動用の燃料にも困らないだろうし、灯油があれば石油ストーブで暖もとれるだろう。


ちなみに石油ストーブは点火時に電池を使うぐらいで電源が不要な為、灯油が確保できる、してある環境なら暖をとるには最適なアイテムだ。

僕は念の為、物資の中に数台の石油ストーブを紛れ込ませておく事にした。


最後に直近の食事用に生卵50パック、各種の野菜100kg、各種の肉類500kg分を追加でコンテナに積んでギュウギュウ詰めにした状態で、虎太郎さんと一緒にモールまでトレーラーを運転していった。





ーーーーー





トレーラーがモールの前に着くと、虎太郎さんが面白がってトレーラーのクラクションを鳴らした。


大きいからなのか、このクラクションは凄い音量だ!

近くから少し遠くにいる感染者まで集まってくるのがサーチで分かる。


「虎太郎さん、遊ばないで下さいよ……」

「拳銃ばかり撃って少し腕がなまってきた。訓練を兼ねた暇潰しに行ってくる!」


虎太郎さんはそう言うと、サイコスレッジハンマーを展開して近付いてくる感染者に突っ込んでいった。


虎太郎さんも慣れない銃の訓練でストレスが溜まっているみたいだ。


その間に、僕はトレーラーの陰になっている部分に燃料の入ったドラム缶を配置して、モールの中から人が出てくるのを待った。


少しすると見張り役が呼んだのか、大津さんと何人かの男性が慌てて出てきた。

僕は軽く挨拶すると持ってきた物資を説明する。


「こ、こんなに沢山! ありがとうございます!」


「凄い量の食料だ!」

「本当だ、すっげえ!」

「卵もあるじゃないか!」

「おおお、肉だ!」

「薬まであるぞ!」


「物資はコンテナトレーラーごと差し上げます。僕達があなた方に援助出来るのはこれ一回切りなので注意して下さい。それから、もし移動を考えているなら都内はゾンビの大群が蠢いているので絶対に近付か無いで下さい。それと、少し南に行くと高い壁に囲まれた日本政府が管理する坂部市という街があるのを共有しておきます。ここには自衛隊も駐留していますので、防御面では一番安全かも知れません」


「わ、分かりました。本当にありがとうございます! 荒井様にも是非お礼をお伝え下さい!」

「分かりました。それでは」


僕は大津さん達に一通り説明を終え、最後にトレーラーの鍵を渡した。

そして、いつの間にか戻っていた虎太郎さんを連れて帰ろうとすると、声を掛けられた。


「よお。世話になったな」

「あ、どうも」


それは僕達がモールを脱出する時に見逃してくれた男性だった。

確か島田さんという人だったと思う。


「しかし、凄え量の物資だな。ありがたいぜ」

「気にしないで下さい。お裾分けみたいな感じですよ。島田さんはこの前は会わなかったですよね?」


「ああ。俺は行かなかった。あんな壁を築く奴らには、とてもじゃないが勝てないと思ったからな。それに、ここを誰かが守らなきゃならないしな」

「そうなんですか?」


「ああ。俺は今までお世辞にも良い生き方をしてきたとは言えない……いや、完全にアウトローだった。そのせいで家族も失った……だが、ここには老人や子供みたいな弱者も多い。過去のせめてもの償いとして、ここの者達を守りたいんだ。まあ、ただの自己満足みたいなモンだな」

「いえ、良いと思いますよ」


「悪い。帰るところを邪魔したな」

「いえ、それではお元気で!」


そして僕と虎太郎さんは小学校に向けて歩き出した。

背後から、たくさんのお礼の声がまだ聞こえている。


大津さんも、島田さんも、他の男性達も、一度話せばそこまで悪い人じゃ無いんだと言う事が分かる。


きっとパンデミック前は普通に暮らしている普通の大人だったんだろう。


状況が劇的に変化していく中で、そうならなければ、それをやらなければ生き残れなかったという事なのかも知れない。


島田さんは元はアウトローで他の人とは違うみたいだけど、今では改心して弱者を守ろうとしている。


少なくともこうやって話し合えるうちは、人間どうしが殺し合う必要なんか無いんだと思う。

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