第129話 逆制圧(1/16)

(ホワイトフォート内の強制武装解除が完了しました。現在、住民で生命の危機にある者は一人もおりません)


「ありがとう、アイジス!」


ホワイトフォート内の自衛官や民兵の無力化を確認してパパの家の前に戻ると、サイコスレッジハンマーを携えた虎太郎さんの前に、何人かの自衛官達が手を頭の後ろに組んで跪いていた。


数人ほどは少し遠くに仰向けで倒れているので、状況から察するに虎太郎さんが自衛官相手に少し暴れた様子だった。

パッと見だけど死んではいないみたいなので手加減はしてくれた様子だ。


悠里さんや綾音さん、茜さんもそれぞれアイジスの誘導で集約店舗などの現場に行ってくれており、強制排除した者達を拘束してくれている様だ。


「大将、早かったな」

「はい。これからパパ達と話してきます。引き続き警戒をお願いします」


「わかった」


虎太郎さんに警戒を頼み、僕はパパの家に入って行く。





ーーーーー





「おう帰ったな、ご苦労さん。ホワイトフォート内の被害は無線で連絡して、いま守備隊の方で調べてもらってるぞ」

「うん。わかったよ。アイジスからの情報だと住民の命は無事みたいだけどね」


僕はとりあえず副大臣とかは無視してパパと被害についての相談をする。


「な、何て事をしてくれたんですか! 冴賢君!」

「君のその力は一体……だが、これは大変な事になる。日本国への国家反逆罪だ! 重大な犯罪者になるぞ! そうならない為には政府の為にその力を……」


「ふざけるな! お前ら根本的な事を勘違いしてる様だがな、ここホワイトフォートは日本政府や自衛隊の助けなんか必要としてないんだよ! そもそも、日本はもう国家としての体を成していないだろ? 自衛隊だって恐らく無事な拠点はもう少ないはずだ! お前らはここが安全そうだからとタダ乗りしようとしている寄生虫に過ぎない!」


「き、寄生虫とは何だ! 私は日本国政府の副大臣だぞ!」


「何度でも言ってやる! 政治家なんざ自分達が選挙に当選する事しか頭にない社会の寄生虫だ! それを自覚しろ! お前だって大勢死んだ一般国民の事なんか気にしてないはずだ。その証拠にここに住む民衆の心配なんか一言も口にしていないだろ? そんな人間はもうこの世界は必要としてないんだよ!」


「お、落ち着いて下さい! 荒井さん、副大臣も!」


パパと副大臣が言い合い、栗山さんが慌てて仲裁に入る。


「とにかく自衛隊や民兵は一箇所に集めろ! 事件を起こした以上、このホワイトフォート内をうろちょろするのは禁止する。これに応じない場合は敵とみなして実力で排除する! 自衛隊や民兵でここを制圧出来ると思っていたようだが、もう無理だという事はわかっただろ?」


「……分かりました。副大臣もそれで良いですね?」

「……」


栗山さんが副大臣に確認すると、副大臣は苦虫を噛み潰したような顔で頷く。

そして栗山さんが自衛官達に、ヘリの着陸地点の道路に自衛隊や民兵を全員集めるように指示していた。


「パパ、僕もこの人達と一緒に行って、一箇所に集まるのを見ておくよ」


「ああ、分かった。飯の面倒は見なくて良いぞ。あんた達も一旦帰って出直して来な。自分達の立場を少し考えてから来い」





ーーーーー





僕は先に家を出て虎太郎さんに状況を少しだけ説明し、自衛官達を立たせる。


その後、栗山さんと副大臣が解放された自衛官達に、パパから要請された様に一箇所に集まるよう指示していた。


僕は今の状況を他の救助隊に精神感応テレパシーで共有し、虎太郎さんには一旦自分の家に戻ってもらうように言って自衛官達の後ろを歩いていく。

そうすると例の真理の避難所にいた女性自衛官が、僕と並んで歩き出した。


「あの時以来ね。さっきは大臣達の前だったからごめんなさい」

「いいえ、あれから無事拠点に帰れていたみたいで良かったです」


「ええ。でも悪いわね。ここがあなたの街だったなんて、上層部にはあなたの事は言っていないのだけど……」

「これだけ大規模に街をバリケードで囲っていますからね、見つかるのは時間の問題だと思っていました」


「そう……民間人への暴行については、ごめんなさいね。あまり内情は話せないのだけど自衛隊の拠点でもパンデミック騒ぎがあって……人手不足で民間の人達にも手伝ってもらってるから、中には規律を守れない人も多いのよ。こんな世の中だしね」

「そうですか。このホワイトフォートで何かあれば僕には直ぐにわかるので、下手な事はしない様に注意を促して貰えれば良いです」


「わかったわ。まだ名前を言っていなかったけど、私は佐々木智代ささきともよ。よろしく」

「僕は荒井冴賢です。よろしくお願いします」


それから僕は自衛隊ヘリの着立地点まで着き、集合する彼らの監視を続けるのだった。


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