第130話 揺れる集落(1/17〜1/21)

ホワイトフォートに空からやってきた日本政府の防衛副大臣と自衛隊の一行は、パパの要請で一旦ヘリ近くに全員が集まって野営を行なっていた。


当初は自衛隊や民兵でホワイトフォート各所の制圧を狙っていたようだけど、暴走した民兵が僕達に撃退された事をきっかけに、逆に制圧されてしまったからだ。


流石に規律のある自衛達にはいなかったけど、暴行・略奪行為を行なった少数の民兵はアイジスのサポートもあってサイコバレットで手足を貫いた。

これの治療にはもちろんを手を貸すつもりは無い。


そしてほとんどの者が即時の武装解除を行わなかったので、彼らが持つ小銃などの武器は同じくサイコバレットで壊されて使えなくなっているはずだ。

この生産性が低下した世界でたくさんの武器を失うのは相当の痛手だろうと思う。


武装解除の要請の際、僕を危険視して攻撃を加えてきた者もいたんだけど、これについては不問にした。

僕に銃弾は効かないし、その者達が宣伝してくれればそれが牽制にもなるからだ。


あれから三日ぐらい経つけど、栗山さん達は度々パパのところに押しかけては無駄な問答を繰り返しているらしかった。





ーーーーー





そんな中でパパが救助隊を含めた新井家に近しいメンバーを集めて、昼食後に臨時の会議を行なう事になった。


メンバーはパパ、ママ、僕、明日奈さん、莉子さん、光司君、明人君、小谷静香さん、虎太郎さん、川上京子先生、悠里さん、綾音さん、茜さん、平坂家の母だ。


「集まってもらって済まない。実は今、ホワイトフォート内である噂が広まっている。……冴賢に関する噂だ」


「どの様な噂なのでしょう?」


悠里さんがパパに問う。


「内容は口にするのもバカバカしいが、実は冴賢が人間では無く化け物であり、このパンデミックを引き起こした張本人だと言う物だ……」


「そんな……ここまで暮らしやすくしてくれたのは冴賢くんなのに!」

「そうよ! いつも皆を守っているのに!」

「そうですよ!」


それを聞いた明日奈さんと莉子さん光司君が激昂して憤慨する。


「冴賢さんには凄く助けられてるはずなのに!」

「ふざけやがって!」


明人君と虎太郎さんも怒っている。


「なんと恩知らずな!」

「むかつくわね!」

「陰口とは卑怯な!」


綾音さんと茜さん、平坂家の母も怒り心頭の様子だった。


「実は川上先生から先に少しだけ話を聞いて、小谷さんにも事前に協力してもらって噂を調べてみたんだ。川上先生、お願いします」


パパが川上京子先生に説明を促す。


「はい……私は坂部避難民グループの怪我人を定期的に治療していますが、そこで今回噂されている内容を聞きかじりました。冴賢さんが暴漢を退治して下さった次の日ぐらいからです」


「恐らく、積極的に噂を流しているのは坂部避難民グループだろう。別の筋からの情報だと今来ている日本政府側の者と接触している可能性もある。少し力を見せ過ぎた事もあるが、あまりいい流れじゃないな」


「食堂や集約店舗に来る他の避難民の方も、最近は凄く不安そうにしています」


小谷静香さんが自分が見た避難民の状況を話す。


「まあまだ噂でしかないが、向こうから何か仕掛けて来る可能性もあるので、皆も充分気をつけて欲しい」


パパからは日本政府や自衛隊には早目に退去してもらう方針が伝えられ、以上で解散となった。





ーーーーー





それから二日後、日本政府の防衛副大臣、政府高官の栗山さん、坂部避難民グループをまとめる坂部さん、それと何人かの避難民がパパの家を訪れて来た。


僕も呼ばれていたので一緒に話しを聞いたところ、このホワイトフォートで日本政府を受け入れるかどうかを民主的な選挙で決めたいという事だった。


既に今ホワイトフォートで暮らす人口の約半数に当たる、500名以上もの選挙を求める署名も集めているらしく、こちら側に提示された。


そこにはショッキングな事に、坂部避難民グループだけではなく元からの集落民や街に取り残されていた人や、救助された人の名前も多く見受けられた様だ。


やはり日本政府や自衛隊には今までの運営実績、災害救助活動などでの実績もあるので、簡単には切り捨てられない人が多いのだと思う。


住民の半数近くもの署名があるのに民主的な選挙で代表を決めないのであれば、荒井家の独裁であると日本政府側は糾弾してきた。


パパはそれに対し、坂部避難民グループは正式な住民ではない旨を主張したんだけど、現状暮らしているのは変わらないので理由にはならないと責めてくる。


独裁を糾弾されたパパは、事前に必要があれば選挙を行なうと宣言していた事もあり、ホワイトフォートでの代表選挙を行なう以外の選択肢は残されていなかったみたい。


「これはハメられた様なもんだな……」


パパが呟く。


結果として一週間後に、ホワイトフォートの代表を決める選挙を行なう事になってしまった。

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