第106話 ある学校内の対立2(細井悠里)

私達が身を寄せ合って絶望に涙した時、不意に空から大量の青白い何かが辺り一面に降り注いだ。


(ドガガガガガガガガッ!)


私が頭を庇った腕を下げ瞑っていた目を開くと、そこには動かなくなった大量の感染者の亡骸があった。


「な、何が起こったの……」


思わず呟き、空を見上げると中空に留まる人物が見える。

あれは……人なの? それとも神様?


思わぬ事態に私達が硬直していると、その人物が目の前に舞い降りてきた。

黒いライダースーツを着た、まだ若い男性だ。


「皆さん、大丈夫でしたか?」

「え、ええ。貴方は一体……」


「すみませんが、お話はまた後で。まだ周囲に感染者が残っていますので」


彼がそう言うと、彼の後ろからスッと舞い降りた絨毯から巨漢が降り立つ。

手には2m以上もある巨大な青白いハンマーを携えている。


「虎太郎さんはこの人達の周囲の感染者を! 僕は校門を閉じてきます」

「おう! 了解だ!」


彼はそう言うと、いつの間にか両手に持っていた青白い剣を握り、感染者の中を駆け抜けていった。





ーーーーー





「どおりゃああああ!」


(ドゴオンッ!)


巨漢の大男が凄い勢いで巨大なハンマーを振り回す。

それに巻き込まれた感染者数体が、嘘みたいに纏めて吹き飛んでバラバラになってゆく……


生徒会派の皆も驚愕して目を丸くし、声も出ない。

まるでゲームの◯◯無双みたい!


「そりゃあ! うおりゃああああ!」


その巨漢は私達を護るように縦横無尽に動き、疲れを見せるでもなく破壊的なハンマーを振り下ろして感染者を屠ってゆく。


遠目で見る剣を握った彼も一振り毎に感染者を屠っており、通り道には沈黙した感染者がズラリと倒れ、まるで道の様になっていた。


同時に彼の頭上近くにはいくつもの青白い光が浮かび、何かの兵器の様に距離が離れた感染者を貫いては倒しているようだ。

間違いない! あれだ! あの青白い光がさっき私達を救ってくれた光だ!


この人達、凄い……

これ程の力があればゾンビと化した感染者が何体いようが関係ないだろう。


彼らは一体何者なの? 同じ人間なのだろうか。

私は驚愕しつつも邪魔にならない様、皆を壁側に寄せて状況を見守るのだった。





ーーーーー





全ての対応が終わったのか、私達の前に集まってくる二人。


「一旦落ち着きましたね。虎太郎さんもお疲れ様でした」

「おう。楽勝だったぜ!」


今の立ち回りを何でも無いかの様に会話する二人……


校門付近をみると不自然に土が盛り上がっており、感染者が中に入れない様に封鎖されているみたいだった。

何か不思議な力でバリケードの様な物を作ってくれたみたい。


「あの……私達を助けていただいて、ありがとうございました。私はこの高校の生徒会長をしています、細井悠里と申します」


私が生徒会派を代表して声を掛けお辞儀する。


「いえ、無事で良かったです! 僕は荒井冴賢といいます。ところで皆さんはこの学校で避難している方でしょうか? あっちの方には、もっと大勢の人がいるみたいですけど」


彼が指を差した方向は運動部派の校舎だ。

私は醜い争いを続けている恥ずかしさで、少し下を向いて答える。


「私達はこの高校の生き残りなんです。あちらの生徒達とは対立していて……」


「もしかして感染者、ゾンビがここに一杯いて、あなた達が危機に陥っていたのも彼らが?」

「……」


「あなた達はここでは生き残れないんですね。他へ行くところも?」

「は、はい。私達、生徒会派だけでは力も無いし、もう……」


私の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

自分達の状況はもう詰んでいる。


今助けて貰ったとしても今後を考えると私達だけでは生きて行けないだろう。

物資調達もままならないし、また妨害を受けるかも知れない。


私達は泣きながら彼に現状を包み隠さず説明するのだった。





ーーーーー





「事情は概ね分かりました。少し遠くに僕のパパが代表を務める集落があります。人口は1000に満たない田舎ですけど、高い防壁に囲まれているので絶対に安全です。各自に見合った仕事はしていただきますけど、食糧や物資は豊富だし、電気、ガス、水道も使えるので健康で文化的な生活を送れます。治安も凄く良いと思います」


「そんなところがあるんですか!」

「ええ。皆さんさえ良ければこれから案内出来ますけど」


「はい! 行きたいです!」

「お、俺も!」

「はい! 私も!」


生徒会派の皆は次々と諸手を挙げて賛成の様子だ。

もちろん私もだけど……


「あの……病気の先生が一人いるんです……でも、感染しているみたいで……」

「感染ですか? 直ぐに会わせてください。もしかしたら治療出来るかも! 虎太郎さん、ここを頼みます!」

「おう! 任せろ!」


私は急かされるまま京子先生のところに彼を案内した。

ベッドで寝ている先生は顔も青くなってきて、もう意識も無いみたい。


「ちょっと失礼しますね」


彼は京子先生の服を済まなそうに少しだけ脱がせ、お腹に直接手を翳した。

見ていると真剣な顔になった彼の手から出た白い光が、京子先生のお腹に吸い込まれ、やがて全身に広がっていった。


それが終わって光が収まると京子先生の目が開く。

そして血色の良い顔で上半身をベッドから起こして話しだした。


「細井さん? 私、いつの間に寝ていたの? あなたは?」

「せ、先生〜!」


またもや私の涙腺は決壊し京子先生に強く抱き着いた。

良かった! 京子先生が助かって、本当に良かった! 


彼には本当に感謝しかない。





ーーーーー





私達が校庭に戻ると、運動部派の人達が鉄パイプなどの武器を携えて、巨漢の人と対峙しているところだった。


「何をしているの!? 止めなさい!」

「みんな、お願い! 京子先生の言う事を聞いて!」


「うるさい! お前たちは大人しく俺達の奴隷になればいいんだ!」

「そうだ!」

「俺達の方が強いんだ!」

「ぶっ殺すぞ!」


京子先生も止めてくれたけど、やはり運動部派の人達は分かってくれそうにない。


「この感じだと無駄だと思います。僕達だけで行きましょう」


彼がそう言って手をかざすと隣に大型の観光バスが現れた!


「「「「「 えええっ! 」」」」」


生徒会派も運動部派も京子先生も、いきなり出現した観光バスに驚愕し、顎が外れそうになっている。


「さあ、皆さんこれに乗って下さい。虎太郎さんも」


生徒会派の人達も巨漢の人も、彼に言われた通りに続々とバスに乗ってゆく。

最後に私と京子先生だけが外に残った。

このまま彼らを残して私達だけが助かって良いのだろうか? 京子先生も同じ事を考えていそうだ。


「さあ、お二人とも中にどうぞ。言い忘れていましたけど、人を襲ったり陥れる様な事をする者は僕達の集落には入れません。彼らはここに残るしかないですよ?」


「何だと!」

「ふざけんな!」

「出られない様に囲め!」

「よし!」


私と京子先生は言われた通り観光バスに乗ったけど、運動部派の人達が観光バスの周りをグルッと囲んでしまっている。


バスのエンジンが掛かったけど、これでは出られないだろうし校門もバリケードで塞がっている。

この状況で一体どうする気なの?


「では皆さん。これから僕達の所属する集落に出発します。危ないので窓から手や身体を出さない様にお願いします!」


彼がそう軽い調子でアナウンスすると観光バスが動き出した。


それも空に向かって!





ーーーーー




驚愕している運動部派の人達が、みるみる小さくなってゆく。

かなり上空まで昇った様だ。


空を走る観光バスに皆が凄く驚いていたけど、飛行中に提供されたコーラやオレンジジュース、烏龍茶などの飲み物と、各種のハンバーガー、ポテト、チキンなどの軽食が美味しすぎて、直にそれどころではなくなった。


一時間ぐらいで着くらしいけど、彼の住む集落とはどんなところだろう?

荒井冴賢と名乗る彼からは善良な心しか感じなかった。

その彼がいる場所だ、きっと素敵なところだろう。


私はここ数ヶ月のどんよりとした心が晴れ渡り、久しぶりに希望に満ちた気持だった。


神様、私達に彼を遣わして下さり、本当にありがとうございました。

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