第105話 ある学校内の対立1(細井悠里)

私の名前は細井悠里ほそいゆうり


私は子供の頃から正義感が強い方で、将来は警察官になる事を夢見ていた。

学校の成績も良かった私は、高校は地元からは少し遠いけど偏差値の高い進学校に合格できた。


部活動では弓道部に所属して皆が羨むような結果も残していた。

ポニーテールがトレードマークで、スレンダー美人と言われる弓道少女であった私は、雑誌にも取り上げられたりして目立つ存在でもあった為、高三に上がった時に周囲から望まれて生徒会長を任される事になった。


今まで生徒会に入った経験は無かったけど、生徒会長になったからには皆のために精一杯頑張ろうと思う。


そんな最中、パンデミックが発生した。





ーーーーー





パンデミック発生時、学校が駅からかなり離れた立地であったのと、先生方が生徒を守ろうと必死に、それこそ死に物狂いで頑張ってくれたお陰で、初期は大勢の生徒が助かる事が出来た。


幸運な事に学校の避難物資が前日に大量にリプレースしたばかりで、廃棄されていない古い避難物資も生き残る為に使う事が出来た。

また、徒歩圏内に穴場の様なスーパーがいくつかあったため、そこからある程度物資も調達する事が出来たのも大きい。


但し、その過程で殆どの先生方が亡くなってしまった。

私は生徒会長という立場で、その全てを見てきた。


外から押し寄せる感染者を校外へ押し出すために犠牲になってくれた先生。

危険な中、校外に応援を呼びに行って遂に帰ってこれなかった先生

物資調達で矢面に立ち、生徒を逃すために犠牲になってくれた先生。

感染者に噛まれて死にたく無いと泣く生徒と最期まで一緒にいてくれた先生。


何度も侵入してくる感染者と戦い、散っていった大勢の先生達。

その尊い犠牲の上で、私達は生き残ることが出来た。





ーーーーー





先生達の亡き後は生徒会長の私が中心になって生存戦略を担ってきたつもりだ。

基本的な戦略は現状を維持しつつ助けを待つというものだ。

その方針により繰り返される物資調達の中で、仲間である生徒達もその多くが散っていった。


私は、いつ助けが来るかも分からない現状に未来は無いと考えつつも、生存可能な拠点を目指しての移動にまでは踏み切れないでいた。


そのうちに主に運動部が主体のグループと意見が衝突する様になった。

物資調達には運動部の功績が高いにも関わらず分配は公平に行っていたからだ。

いくつかの妥協案を提示したものの、その溝は埋まらずに膨らんでゆく一方だ。


そして運動部を率いる男子たちは女子の奉仕をも要求する様になった。

そんな事を断じて受け入れる訳には行かない。


最終的には生徒会派と運動部派で、校舎の西と東に別居して対立してしまった。

対立と言っても生徒会派は生徒会と一部の文化部を含んだ女子が主体の少数派であり、物資調達能力も低いのでその力の差は大きく開いていた。





ーーーーーー





「京子先生の具合はどう?」

「はい……もう長くは持たないかも知れません……」


「そう……」


様子を見に行ってくれた生徒会メンバーの男子が沈んだ様子で答える。

養護教諭である川上京子先生は唯一残っている大人で、まだ20代の先生だ。

京子先生は二日ぐらい前に物資調達で感染してしまった生徒との接触で、二次感染してしまった様でずっと寝込んでいる。


「物資はあと何日くらい持つかしら?」

「生徒会派はもう50人もいませんが、節約してあと2日分ぐらいかと……」


「あちらへの交渉は?」

「交渉はしていますけど、もう無理でしょう。こちらが奴隷になるなら物資を分けてやっても良いの一点張りです」


「私だけで良いなら、それでも良いのだけど……」

「……」


もう生徒会派だけでは生きていけない状況にまで追い込まれていた。

運動部派が物資を全く分けてくれない状況なので、生徒会派だけで独自に物資調達を行なったけど失敗し、多大な犠牲者を出してしまったからだ。





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「会長、大変です! 校舎内にゾンビが侵入してきました!」


生徒会派の生徒が必死の形相で報告してきた。

まさか校舎内に? 校門だってバリケードで封じてあるはずなのに!


直ぐに窓の外を見るとバリケードの一部が撤去されており、そこから感染者が続々と学校内に入って来ているのが見える。


何てこと! 運動部派はそこまでするの?

私は自分の弓を片手で強く握りしめ、大声で叫ぶ!


「みんな! 校舎の外に出るのよ! 中は危ないわ!」


皆がパニック状態で校舎を出ると既に周りは感染者だらけの状態だった。

運動部派の校舎前には今までに無かった頑強なバリケードが構築されている。

やはり感染者で生徒会派だけを一掃しようとしているみたい。


同じ学校の生徒なのになんで……

私達はジリジリと追い詰められていった。


「会長! も、もう駄目です!」

「みんな殺されちゃう!」

「嫌っ! 死んでゾンビなんかになりたくない!」

「誰か助けてえっ!」


生徒会派の皆が絶望して叫ぶ。


「ダメ! みんな、諦めないで!」


私は皆を鼓舞しながら弓道の弓で戦う。


近付いてくる感染者の頭を狙い、一体、二体、三体まで倒したところで、私達は倒し切れないほど大勢のゾンビに囲まれてしまった。


もう逃げ場は無いみたい……

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