第77話 佐々岡さんの危機(8/18〜8/20)
僕は絨毯に乗って夜の空を東京方面に移動していた。
もう電気の供給が無くなって久しいので基本的に明かりは無く、目に入る光は月明かりだけだ。
真理がいる方向に
とは言っても真理以外には探す対象もいない……
あっ! 佐々岡さんは今どうしてるんだろう?
僕はパンデミック初期の頃、明日奈さんと避難所まで送った同じ高校の女子である佐々岡さんの事を思い出した。
随分前にご両親と弟さんのいる避難所まで送っていったはずだ。
あの頃はまだ
佐々岡さんには道中、随分と怖い思いをさせてしまったと思う。
あの頃に今の様な力があれば、ならず者などへの対処が随分楽だっただろうし怖い思いをさせる事も少なかっただろう。
罪滅ぼしではないけど佐々岡さん一家も僕達の集落に招いたらどうだろうか?
明日奈さんも親友の佐々岡さんが居たほうが喜ぶだろうしね。
さて、佐々岡莉子さんっと、軽い気持ちでサーチした僕はサーチの矢印が薄い青になっている事に愕然とした。
この前のパパほどでは無いけど明らかに薄い!
生命が危険な状態だ。
佐々岡さんに一体何があったんだ!
僕は冷静に深呼吸して優先度を考え、軌道を修正してまずは佐々岡さんのいる場所を目指した。
ーーーーー
「佐々岡さん、佐々岡さん! しっかり!」
僕は男の子を抱えて倒れている佐々岡さんを商業ビルの奥でやっと見つけた。
たぶん抱え込んでいるのは小学生の弟の、たしか秀彦君だったと思う。
僕が名前を呼びながら肩を揺さぶると佐々岡さんが薄っすらと目を開ける。
口を少し動かすけど声が出せないみたいだ。
「僕は荒井だよ! わかる?」
僕が問いかけると佐々岡さんは微かに頷いてくれた。
ゆっくりと佐々岡さんの腕を振りほどき秀彦君の首筋に手を当てる。
死んではいないみたいだけど佐々岡さん以上に衰弱している。
見た感じ二人ともやつれて痩せ細っており何も食べていない感じだ。
この部屋の水道のレバーを回してみたけど水は全然出なかった。
僕はアイテムボックスから適当な敷き布団を取り出すと二人を寝かせ、少しだけ超能力で
内蔵へのダメージがあった場合は回復すると思うけど、このまま水や食事を採らないといずれ衰弱して死んでしまうだろう。
余談だけど
僕はアイテムボックスから出した吸い飲みに入れたスポーツドリンクを、二人に交互に飲ませる。
秀彦君はなかなか飲んでくれなかったけど一度飲みだすとグイグイと飲んでくれ、佐々岡さんも本当に少しずつだけど飲んでくれた。
それを何回か繰り返している間に、カセットガスコンロを使って湯せんしたお粥を冷まし、スプーンで少しずつ時間を掛けて二人に与えていった。
……
明け方ぐらいに意識レベルが向上した佐々岡さんが僕を見ている事に気付いた。
「佐々岡さん気が付いた? 弟さんも危ないところだったけど、もう大丈夫だからね」
佐々岡さんは少しだけ頷いて安心したのかまた寝てしまったようだ。
秀彦君も水分とお粥を少しずつ摂ってくれているので恐らく問題ないだろう。
とりあえず今は動かせないので、二人がある程度回復するまではここで面倒を見るしか無い。
僕はサーチで二人の色が当初より回復しているのを確認し、少し仮眠を取ることにした。
ーーーーー
三時間ぐらいして僕は目を覚ました。
二人の様子を見ると発見時よりも顔色はだいぶ良くなっているようだ。
若いから回復も早いのかもしれない。
僕は新しいお粥を湯せんし、スポーツドリンクを時折飲ませながら少しずつ食事を摂らせた。
回復してきた二人は意識は戻っているけど身体はあまり力が入らない状態のようなので、抱き上げてトイレに連れていったりはしてあげた。
佐々岡さんは顔を真っ赤にしていたけど僕だってそうなっていた。
更に翌日の昼ぐらいになると佐々岡さんが話せるぐらいまで体力が戻ったようなので、何が起こったのか聞いてみた。
佐々岡さんが言うには避難所が大規模な襲撃を受けて崩壊したという事だった。
襲って来たのは人間のグループで凄く大勢で避難所を襲ってきたと、その中でご両親は二人を逃がしてくれ、佐々岡さんは弟を抱いて陸上部の足を活かして全速力で逃げたという。
そして逃げ延びたのがこのビルで、それからずっと隠れていて弟のリュックにあったチョコレート菓子とペットボトルの水で何とか生きていたけど、それも無くなって意識を失ったという事だった。
佐々岡さんは涙を流しながらも話してくれたのだった。
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