第75話 集落での一週間(8/17〜8/18)

僕や明日奈さん達がこの集落に来てから一週間が経った。

光司君や美久ちゃん、保護した子どもたちも元気過ぎるぐらい元気だ。


この一週間、僕は物資の調達、学校の運営、養鶏と結構忙しく動き回っていた。

そして感染者退治の腕を買われて、集落の夜の見廻りも行なう事になった。

夜間の見廻りによって犯罪の抑止と万が一感染者が侵入した場合の対応だ。


集落は既に一ヶ月以上前にバリケードなどで侵入口を閉鎖し、入り口のみを守れば安全のはずだという事だけど絶対じゃないはずだ。


養鶏の方も既に毎日10個近くの卵が採れるようになっており、とても順調だ。

集落の人達から新鮮な卵を食べる事が出来て嬉しいとの声も挙がって来ている。


白蛇学園も明日奈さんが頑張っており、喘息の薬が手に入って学園に来れるようになった子どもを含めて中学生3名、小学生6名、幼児3名の12名の生徒が在席している状態だ。


給食の方もオーブンで焼いたパンが凄く好評で、少しだけど給食で余ったパンもお土産に家に持って帰ってもらっている。


養鶏や畜産もそうだけど、今後を考えると色んな技術者が欲しいところだ。

この集落は200人以上いるけど、半分以上はお年寄りか中高年だ。

今後、若い人材を募集して組み入れていかないと、生活が立ち行かなくなるかもしれない。


そんな中で、パパとママが僕に一つ話を持ってきたんだ。





ーーーーー





「土下座で頼まれたんだ……」

「ママもなのよ……」


「嫌だよ、断ってきてよ……」


武田さん夫婦、真理の両親が真理をこの集落に呼びたいみたいで、僕にここに連れて来て欲しいというお願いをされたようだ。


僕はもう真理とは顔を合わせたく無い。

確かに今欲しいのは若者や技術者だけど信用出来ない者は必要ないだろう。


「僕は行かないよ……武田さんが自分で連れてくれば良いじゃないか!」


「そうは言うけどよ、それじゃあ武田さんは死にに行くようなもんだろ? 俺はお前の話を信じてる。確かに真理ちゃんはお前を、少なくともお前の信頼を裏切ったんだろう。だけど幼馴染である事も確かなんだ。武田さん夫婦にも恨みは無いだろ? 考えてみてくれないか」


「ママも冴賢が真理ちゃんに好意を感じていたのは知っていたわ。真理ちゃんにその気が無さそうなのもね……たぶん真理ちゃんは自分が大事だったのだと思うわ。冴賢を見捨てたのもある意味頷けるんだけど、それだけで死んでしまって良いわけでもないでしょう? 幼馴染なんだし。それにね、もう貴方には明日奈さんがいるじゃない。彼女は絶対裏切らないと思うから二人で相談でもしてみたら?」


「うん……わかった。明日奈さんに相談してみるよ」


僕は明日奈さんを呼び出して白蛇学園で相談する事にした。





ーーーーー





「……という訳なんだ。明日奈さんはどう思う?」


「うん。武田さんには私も思うところはあるわ。特にあの体育館の時の状況で、怪我をした冴賢くんを置いて行くなんてあり得ない! 許せないわ!」


明日奈さんは僕を置いていった事を凄く怒ってくれているようだ。

僕の感じている怒りを明日奈さんとも共有出来ている事に少し安堵した。


「許せないんだけど、今は一緒に逃げた人も死んでしまって孤独なんでしょ? そこは少し同情するわ。でも、もしここに連れてこれた場合でも冴賢くんはもう以前の様に凄く仲良くする気はないんでしょう?」


「うん。もう幼馴染の縁はあの時に切れたと思うし、白蛇さんとの約束でも裏切りとかは相応の罰を与えなさいって言われてるから許すつもりは無いかな」


「うーん。だとすると私はここに迎え入れても良いと思うわ。というか、その方が罰になるかも?」


「えっと、何でだろう? ここに来たら親もいるし、楽になるだけなんじゃ……」


明日奈さんはそこでフルフルと首を左右に回した。


「考えてみて。武田さんは以前は冴賢くんに家族以外では一番近い存在だった」

「うん。そうかも」


「それでね。逆に今は一番遠い存在になった」

「う、うん」


「でも、その遠い存在になった冴賢くんは、実は凄い力を持っていた。どう、悔しくない?」

「えっと、そう言われれば悔しいのかも」


「付け加えると、冴賢くんの側にはもう別の女の子がいて、自分が入る余地は全く無くなってしまった……どう?」


最後の方は赤くなりながら、明日奈さんが説明してくれた。

その意味を考えると、僕の顔も意識してしまって少し赤いかもしれない。

でも確かにもう恋愛的な意味で真理に惹かれることはないだろう。


「う、うん確かに。WEB小説とかで言うと完全に〈ざまぁ〉かもしれないね」


僕たちはそこで笑い合ったけど最後に少し真剣に明日奈さんが僕に語りかけた。


「それにね、優しい心を持つ冴貸くんに幼馴染を見捨てる様な事をして欲しくないというのもあるかな……たとえ、された事を返すだけだとしても……」


明日奈さんは優しい。

色々言っていたけど最後の言葉が明日奈さんの本心なのだろう。

僕の心はどうだろうか? 真理を許せないというのもある。

あの時絶望したのも本当だし、本来なら死んでいたはずだ。


でも僕は生きている。

それは明日奈さんや白蛇さんのお陰でもある。


ここで僕がこのまま真理を見殺しにすれば、ある意味同罪だ。

それはやり返すだけという事なんだけど、僕に期待している人たちの信頼を裏切る行為なのかもしれない。


僕は少なくともパパやママや明日奈さんの僕に対する信頼を裏切りたくない!


「うん、決めたよ! 僕は真理、いや同級生の武田さんを迎えに行ってくるよ。僕が僕のままでいる為にね!」


明日奈さんは僕の答えを聞くと、嬉しそうにニッコリと微笑んでくれたのだった。

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