第64話 助けを求める人たち(8/9)

進路妨害をしてきた者たちを退けた後、僕たちは順調に北上していた。


相変わらずサーチでパパを示す矢印は緩やかに北を指しているけど、以前より矢印が大きくなっている様な気がする。


恐らく矢印の大きさは距離を大まかに表しているんじゃないかと思う。

こんな機能まであるとは白蛇さんのサーチへのこだわりには本当に脱帽する。



「お願いだ! 止まってくれ!」


若い男性がキャンピングカーの斜め前辺りで手を翳して制止して来る。

光司君がそれを見てブレーキを掛けて停車する。


「何でしょうか?」


僕は窓越しにキャンピングカーを制止してきた男性に尋ねる。

答えは大体想像できるんだけど。


「お願いだ! 俺たちもその車に乗せてくれないか? 頼むよ!」


こちらを値踏みするように窓から車内を見つつ男性が乗車を要求してきた。

やはり想像通りの答えだった。


サーチですぐ近くに3人の男女がいるのもわかっている。

僕はあらかじめ用意してある答えを返す。


「すみませんが定員オーバーになるので、貴方たちを乗せる事は出来ません」


実はこういう事は初めてという訳ではなく、動いている車を見た生存者が度々こちらに声を掛けてくるので、ある程度慣れたやり取りだった。


現在、キャンピングカーには僕と明日奈さん、光司君と美久ちゃん、早苗ちゃんと保護した子供たち4人の合計9人が乗っている。

奥のベットは美久ちゃんを含めた小学生以下の子供たち5人で一杯で、残り2つのベッドも残った4人でシェアしているので、もう本当に寝るスペースは無いんだ。


床で寝ても良いならあと2、3人は乗せられるけど、本当にギュウギュウになってしまうので、見ず知らずの人たちの為にそうするつもりは無かった。


僕が断った場合、大体は大人しく引き下がるか、無理やり乗せろと騒ぎ出すかの2つのケースに別れる。



「そうか……そうだよな。わかったよ……」


男性が悲しそうに肩を下げる。

どうやらこの男性は常識的な人で、乗車を諦めてくれたようだった。


無理やり乗せろと騒ぐ人は無視するか排除するんだけど、諦めてくれた人をそのまま放置するのは可哀想なので、ある程度物資を提供する事にしていた。


「あ、少し待って下さい」


僕は男性に待つ様に言うと乾パンと各種缶詰を数個、水2リットル2本、お米2kgを入れたリュックを人数分、今回の場合は4つをアイテムボックスから用意して、キャンピングカーの窓越しに男性に手渡した。


「乗せてあげられなくてゴメンなさい。これ、少ないですけど足しにして下さい」


男性は訝しげに一度リュックを受け取り、地面に置いて軽く中身を見て驚く。

節約すれば一週間ほどは命を繋げられる物資だ。


「こんなにいいのか? 悪い、ありがとう。大切に使わせてもらうよ!」


「ええ。お互いに頑張って生き延びましょう!」


僕たちは笑顔で挨拶を交わして別れ、キャンピングカーを発進させた。

この人たちが無事に生存出来る事を僕は願う。


白蛇さんが僕に言ったように全ての人を救う事は出来ない。

だけど今回の様な善良な人はなるべく救いたいと思っている。


今すぐは手を差し伸べる事は出来ないけど、家族と再会して安住の地に落ち着いたら、手の届く範囲で生存者を救う活動をしてみても良いのかもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る