第28話 桑田さんの弟を探す(6/6)

僕は事前にサーチして分かっていたんだけど、桑田さんが部屋の確認から戻ってきて誰もいなかったと報告してくれた。


「桑田さん! 弟さんを探しに行こう! もしかしたら中学校近くの避難所にいるのかも知れない! 気をしっかり持って!」


「明人……!」


弟を探しに行くという言葉を聞いた桑田さんの瞳に再び輝きが戻る。


ご両親がこんな事になってしまったけど、まだ弟さんがいる。

僕は桑田さんが望むなら、引き続き弟さんを探しにゆく決心をした。


「分かったわ! 凄く悲しいけど、今は弟を探したい!」


「うん。まずは、玄関の鍵を閉めてくれる? この状態で襲われると反撃出来ないから」


桑田さんは神妙にうなずくと玄関の鍵を締めてくれた。


「ありがとう。次は桑田さん自身の準備をして欲しい。なるべく厚手の服への着替えと、大きいリュックで自分の必要な物を詰め込んで! 念のため弟さんの分も。リュックが2つになっても構わないよ」


「分かったわ。直ぐに着替えて準備してくる!」





ーーーーー





30分後、桑田さんが最後に弟さん用のリュックを持って来た。


「準備は終わった?」


「ええ……これでこの家に戻る事はもう無いのね……」


「それは分からないけど、ここはそのままにしておこう。玄関の鍵は外から掛けられる?」


「うん……」


「なら扉越しで悪いけど、最後のお別れをして欲しい」


リビングの扉の向こうには桑田さんの両親がいる。


「お父さん、お母さん……今まで育ててくれて本当にありがとう。そして、さようなら……弟の明人は私が必ず見つけるから心配しないでね……」


桑田さんはご両親に涙でお別れを告げ、最後に自分を奮い立たせるように必ず弟を探すとの誓いを立てた様だ。


そして僕達は桑田さんの住むタワーマンションから、明人君の通う地元の中学校へ向かった。





ーーーーー





「だめだ。この中学校には生存者がいないみたいだ。一番近い避難所を探そう」

「そう……」


僕は中学校の周りを一周してサーチで得た情報を混ぜて、隠れて待っていてくれた桑田さんに告げた。


中学校には先生やら生徒やらで、感染者はかなりの数がいた。

この中に弟さんがいないとも限らないけど、僕の勘だけど桑田さんの弟さんはここにはいない様に思える。


災害用伝言板地図アプリで確認したところ、ここから3kmぐらい先に大きい警察署と同じ位の距離の反対側に市役所がある事が分かった。


僕達は相談して、まずは家により近い警察署の方に行ってみる事にした。





ーーーーー





警察署までたどり着いた僕達は、バリケードで塞がれている入口付近まで来た。

周りに感染者はまばらだけど十体ほどが見える。

僕は桑田さんを少し離れた安全な場所に置いて、警察署の前で叫んだ。


「誰かいますか! 人を探しているんです! 誰かいませんか!」


「いるぞ! あまり叫ばないでくれ。集まって来てしまうからな。お〜い、生存者が来たぞ!」


僕が大声で叫ぶと、見張りがいるようで2階から顔を出してくれた。

僕は感染者から隠れるように移動して、その人に確認する。


「良かった! 桑田明人という中学生の男子を探しているんですが、こちらに避難していませんか?」


「それは調べないと分からないな。中学生なら何人かいると思ったがな、とりあえず中に入ってくれ。今入れるようにするから!」


「あ、待って下さい! 連れの女の子がいるんです。今すぐ連れてきますので、少し待って下さい!」


僕は警察の人にそう告げると、超マッハで桑田さんのところまで戻って入口まで連れて来た。


「このハシゴを登ってきてくれ!」


「分かりました! 桑田さんから登って!」


「うん。ありがとう」


桑田さんがハシゴを登っている間にお約束のように感染者が近付いて来る。

映画だと後ちょっとのところで足が掴まれて引っ張られるパターンだ。

だがそんな事は僕が許さない! 僕は感染者に向き直りバールを構えた。


「おい、来てる! 感染者が来てるぞ!」


「はい! 大丈夫です! 一旦僕は感染者に対処します!」


僕はこちらに向かって来た感染者に自分から近付いて行き、狙いを付けて素早くバールを突き出した。

バールが脳にまで達した感染者は糸が切れた様に力をなくして倒れる。


サーチで状況を見ている僕は、更に左右から一体ずつ感染者が来ていることが分かっていた。

僕は冷静にハシゴにより近い方の感染者を同じ様に倒し、もう一体の方をバールで叩き、倒れたところにバールで止めを刺した。


「やるな君! さあ登ってくるんだ!」


「荒井君も早く!」


「はい!」


既に桑田さんはハシゴを登りきっていて僕に声を掛けてくれる。

僕は自分のリュックを背負った状態で、桑田さんのリュックを2つ腕に掛けてハシゴを登っていった。

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