第27話 桑田さんの家へ(6/5〜6/6)

襲撃された夜から僕達は2日掛けて桑田さんの家近くまでたどり着く事が出来た。

僕から見ると高級そうなタワーマンションだ。


ここまでの道中、感染者とは少なからず交戦する事になった。

僕はサーチがあるから周囲を囲まれてしまう状況を回避できるので、白蛇さんから授かった身体能力で危なげなく倒す事が出来ている。


生存者の反応も途中多く目にしたけど、制服姿の女子高生は何かと男から狙われ易いのでこれまでずっと接触しないように立ち回って来た。


「もうすぐだね。大丈夫?」

「うん……無事だといいけど……」


僕は桑田さんから家族構成を教えてもらっていた。

父、母、中学3年生の弟がいるとの事。

桑田さんは弟の事を特に心配していた。


「時間的に避難所にいるかもしれないけどね」


祈るようにつぶやく桑田さんに無事だと断言する事はできないので、お茶を濁した回答にしておく。


事前に軽くサーチしたけど、このマンションには感染者がかなりいる様子だ。

地上にも何体かの感染者と動かなくなっている感染者がいた。

誰かが戦って倒したんだろう。


桑田さんの家は15階との事なので、僕達は非常階段を登る事にした。





ーーーーー





まずは付近の感染者をどうにかしなければならない。

僕はこんな時の為に考えていたあるアイテムをアイテムボックスから取り出した。


これまでの観察から、感染者は普通の生存者と同じくらい目と耳が良い。

だけど耳がいくら良くても、訓練をしていない者が音だけを聞いて人を追いかけたり捕まえる事は出来ないだろう。

なので基本的には目で見て追って来ていると思う。


その視覚を奪うアイテムだ。

僕はリュックから取り出したように見せた煙玉とライターを握りしめる。


「それは?」


「煙玉だよ。これで感染者の視覚を奪うんだ。今から煙だらけにするから、非常階段の位置を覚えておいてね。全く見えなくなる訳ではないけど」


「わかったわ!」


桑田さんに説明し終わると、僕は煙玉に火を付けて入口から非常階段の方までの周囲に20個ほどばら撒いた。

周囲はまばらだけど煙だらけになった。

生存者からは誰かが来たと分かるだろうけど仕方がない。


「よし! 今のうちに行こう!」


僕達は煙幕の中、非常階段まで走った。

幸運な事に非常階段の鍵は開いたままだった。

恐らく誰かが脱出した時に使ったままなのかも知れない。


階段そのものに感染者はおらず、僕達は目的の15階まで登る事が出来た。


少し休んで息を整えて階層の廊下部分に出る。

サーチで見ると、この階層には感染者はいるが廊下にはいないようだ。

多分部屋の中なんだろう。


そして生存者の反応もこの階層には無かった……





ーーーーー





「うちはここよ!」


桑田さんがさんが少し興奮しながら教えてくれる。

僕は桑田さんに合図して前に出る。


「念のためね」


僕は静かにそう言うとドアノブをゆっくりと音がしないように回した。

鍵は掛かっていない。

玄関には大人の靴がある。


続いてそーっと音がしないようにドアを開く。

もう僕にはサーチで感染者が3体いる事が分かっている……


桑田さんも入ってきて、ドアをそーっと閉める。

廊下を通ってリビングをドアガラス越しに除く。


「お父さん!」


桑田さんが父親を見て叫ぶが、続いてこちらを見た父親を見て絶句する。


「!」


桑田さんの父親と思われる男性は首から血を流していて、その青白い顔をこちらに向けたのだ。


「いやあ! お父さーん! ああぁ〜!」


桑田さんが大声で泣き崩れる。

まずい! こっちに来る!

僕はリビングのドアが開かないように押さえつけた。

そうしているうちに、リビングにいる他の2体も集まって来た。


「桑田さん! しっかり!! リビングの3人はご家族?」


「……お父さんと、お母さんと……知らない人……」


恐らく感染者がドアから入って来てリビングで揉み合いになって……

2人とも感染してしまったのだろう。

弟さんがいないのがせめてもの救いか……


「弟さんは? 部屋を見てきて! 僕はここを抑えておくから」


「うん。分かった……」


僕は瞳の輝きを無くしてしまった桑田さんから目をそらし、リビングのドアを抑え続けた。



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