第19話 男達との戦闘(6/2)

「おっ! やる気かよ?」

「目なんか瞑りやがって、馬鹿か!」

「ははっ! 怖くて目え開けられなくなったんじゃね?」

「なんだお前? 殺すぞ!!」


男達はバールを構えた僕を見て口々に罵倒や脅しをしてくるが、僕は落ち着いてサーチで分かる位置関係に集中する。

少しだけ世界がゆっくりになったような感じがする。


「はあっ!」


僕は目を閉じたままサーチマップ上の黄色い点目掛けて素早く飛び込み、中心点を少しだけずらしてバールを振り降ろした。


(グシャッ!)


「ぎゃああああっ!」


振り切ったバールから骨が折れるような嫌な感触がした。

続いて2つ目の黄色い点目掛けて真横にバールをフルスイングする。


「しっ!」


(ドガッ!)


「ぐおおおおっ!」


そして僕は開始位置まで一旦下がって目を開けた。

一人目の男は肩を押さえて蹲り、二人目の男も脇腹を押さえ血を吐いて転げ回っている。


「ひいいっ! 何だこいつ! いきなり殺しに来てるぞ!」

「や、やべえぞ! こいつ剣道の達人か何かだ! 逃げろ!」


残った男達は直ぐに分が悪いと判断したのか逃げようとする。

ここで逃がすとまた大勢で襲いかかってくるかもしれない……

そう考えた僕は、逃げる男達を仕留めようと再びバールを構えて目を閉じた。


追いかけようとする寸前に誰かが僕の服の裾を掴んだ。


「荒井君!」


桑田さんだ。

僕はトランス状態の様な物から目を覚ました。


「桑田さん! 僕は……  !」


その時、僕は無意識で行っていたサーチで、周りから感染者が集まって来ている事が分かった。


「感染者が集まって来てる! 逃げよう!」


僕は佐々岡ささおかさんを立ち上がらせ、桑田さんと手を繋がせる。

そしてサーチで逃げる方向を決めて動く。


「こっちに行こう! 静かに動いて!」


後ろを振り返ると、僕が倒した男達に感染者が群がっているのが見える。

桑田さんの幼馴染の男子達も散り散りになって逃げているようだ。

幸い、こちらにはまだ感染者が気付いていない。


僕達はそのまま感染者をやり過ごしながら移動する。

感染者に食われる男達の断末魔の悲鳴が辺りに響いていた。





ーーーーー





僕達は二時間後、さっきの場所から2kmぐらい先のマンションの一室に身を潜めていた。

二人とも暗い表情だ。


佐々岡ささおかさんは再び男達に襲われた恐怖で。

桑田さんも一歩間違えば男達の慰みものになっていたはずだ。

しかも自分の幼馴染の手によってだ。

ショックを受けていないはずがなかった。


僕自身も間接的にだけど人を殺してしまった事実で、胸にどんよりとした自分が穢れてしまったような感じがする……


僕達には休息が必要だった。

僕は寝室を借りて少し寝る事にした。





ーーーーー





暗闇の中に二人の男達がいた。

次の瞬間、男達は血だらけの感染者になって僕を襲った。


逃げようとすると足をつかまれた。

逃げられない!

食われるっ!



「荒井くんっ!」

「はっ!」


僕はそこで目を覚ました。

桑田さんが僕を揺すって起こしてくれたようだ。


「ごめんね。凄くうなされていたから……」


「ううん。ありがとう……とても嫌な夢を見てたんだ……」


「あのね。荒井君……さっきはありがとう。あの時荒井君が戦ってくれなかったら、私達はきっと酷い目にあっていたわ。だからもし荒井君に罪があるのなら私も一緒よ!」


桑田さんは少し照れた様に、間接的にだが男達を殺してしまった僕の罪の意識が薄らぐ様な事を言ってくれた。


「ありがとう。桑田さん。そう言ってくれて僕も少し救われたよ……」

「うん……」


「えっと、そういえば桑田さんは、あの時学校の体育館で僕をなぜ助けてくれたの? かなり危険だったと思うけど……」


「うん。何となくほっとけなかったからかな……荒井君はいつも教室の花瓶のお水を変えてくれてたでしょ? それから掃除の係が少ない時はすぐ助けてくれていたし。 誰かが踏み荒らした花壇を直すのを手伝っているところも見たわ。他にも落とし物を探すのを手伝っていたりもね。だから荒井君は凄く優しい人だなとずっと思っていたの……」


「ぼ、僕は自分に出来そうな事を少しやっていただけなんだけど……その、ありがとう」


「ううん!」


桑田さんはブンブン首を振ると少し顔を赤くした。

僕も赤くなって少しの間お互い笑顔で見つめ合うのだった。

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