第6話
陣地に建てられた大隊長の私室に、調査結果を受けた使い魔のフクロウが主人の元に戻ってきた。
すでに日は沈み、夜のとばりが下りている。
室内は燭台が一台だけ灯り薄暗く、窓の外は真っ暗だ。
「ご苦労、こっちへ来い」
大隊長が、厳つ声で言った。
帰ってきた使い魔が、窓から入ってくると主人の座っている樫の机の上まで飛んできて止まる。
「ウートンがすべてしゃべったよ」
フクロウが全く同じ厳つ声で言った。
「将軍は、亡くなってから、どれくらい経っていたんだ?」
ゆっくりタバコを吸いながら、大隊長が尋ねた。
「半年だ。あの大蛇、将軍閣下の、後を頼むという遺言を遂行すべく、今まで鎧の中に体をくねらせ入り込み、器用に人間のように動いていた。将軍の声も真似てね」
「……誰も気づかなかったとは……思えばこの半年間の連勝続きと言い、様子がガラッと変わっていた……」
大隊長は頭を抱えた。
「息子は感づいていたらしい」
「ああ……今回の戦いで戦死した……」
……将軍の命令で、参戦さしたんだったな……。
大隊長は自分がクリスの元へ、配属させたのを、思い出していた。
「そうだ、感づいていたために、今回無理にこの戦いに参戦させて殺したんだと」
「なんてこった……」
大隊長は、また頭を抱えた。
「それで、もうひとりだが……」
「あのフェリーリとかいうのは、使い魔が魔力で死体を動かしていた。それで戦場から戻ってきたらしい」
「何の恐怖話だ、まったく……」
大隊長はタバコをイライラしながら消し、コーヒーに手を伸ばす。
「使い魔の、身体強化の魔力注入を利用したものらしい、まったく、そんな事ができるなんてな。魔術研究班が目から鱗と喜んでいたよ。俺も目から鱗さ」
「使い魔に、死体を動かす機能まであるのか……」
ちらと、大隊長は自分の使い魔を見た。
「ついでに、将軍の役目もできるぞ」
自身気に言うフクロウに、
「……考えてみれば、この半年間、ずっと勝ってきていた」
「そうだ、今回の全滅作戦も、戦争全体としてみれば、成功だ。あの時ウートンが言ったとおり、味方の士気が上がって、敵の士気は下がっている」
「その作戦名は言わない決まりだぞ。しかし、あの蛇は、いったいなぜこんな事ができるんだ。どこで戦術など学んだ」
フクロウは、くっくっと笑いながら、
「将軍の長年連れ添った大蛇だ。将軍のサポートをするために学習を欠かさなかったらしい、将軍は一度もウートンには助言を求めなかったらしいが……聞いていればもっと戦況は良くなっていただろうに」
大隊長は、椅子に深く座り直した。
「……あのトカゲは魔力が尽きた。あの蛇は、尽かしてはならない……勝利のために必要だ」
「陛下もそのつもりだ。将軍の魔力だから容量が桁違いで、まだ半年持つらしいがな」
フクロウは羽の毛並みを直しながら、
「そしてウートンも、我々に助言しても良いらしい。将軍の願いは、この戦争に勝つことだ。もちろんすると言っている」
と大隊長が飲んでいたコーヒーに口を付ける。
「初めは、手紙を運ぶだけの存在だった……それが……今では命令する側か……使い魔ごときが……」
「何言ってる。今も変わらん、我々は人間の道具だ。あんたらの生活をよくしてやろう」
フクロウが羽ばたき、大隊長の肩に乗った。
「偉そうに」
「お前も陛下の道具だが、偉そうだろ。お前の部下もお前の道具なのに使い魔に偉そうだ」
その言葉に大隊長が、鼻で笑う。
「皆、道具か……」
使い魔 フィオー @akasawaon
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