第3話


 ドンドン、ガンガン、鼓膜を震わす爆発音にまじって、高い金属音が右後ろから響いてきた。


 ガードの盾に命中したらしい。


 チラと見てみると、アンドレアさんが必死に盾を構えている。


 ピカッと強烈な光が視界を遮った。


 続けて数発、高い金属音が右後ろから響いてくる。


 吸引機構によって、僕らに当たるはずの爆火球攻撃は全てガードの盾に当たる。ついで縦から出る魔力壁が僕らチーム全体を包み、爆撃で吹き飛ばされた小石ひとつ、僕らに当たって傷つける事はない。


 ……こっちはちゃんと仕事はしてるらしい。


 僕たちは前進を続けた。


 やがて、マール人たちが見えてくる。


 僕らと同じく、ガードが盾を構えていた。


 しかし奴らのガードはもろい。至近距離なら抜ける。


 味方とマール人が入り乱れて戦っている光景が、砂煙越しにうっすら見えた。


 近づいたので、爆撃もできなくなっているらしい。


 それでもまだドンドンやってきているが……。


 足元がぐにゃりと揺れる。


 何だと思ったら、焼け焦げた脚だった。


 見渡せば、バラバラになった味方とマール人の死体が転がっている。


 正規のルートに戻ったのか……。


「アンドレア、前方へ移れ」


 隊長の命令に、隊形を変えた。


 その時、耳をつんざく爆音と共に、強烈な光り輝く閃光が空を横切る。

 

「隊……の閃光っ……かして?」

「そ……シモーナ、破壊閃……台の場所を見……ろ」

「了……」

「……だぜ、あんなの持っ……のか」


 僕は黙って、その閃光をボケっと見ていた。


「敵陣地……突っ切――」


――視界が真っ白になった。


 体が宙に浮く。


 何が……起こった……。


 息ができない。


 すごい、熱い……。


「あああああっ」


 僕は悲鳴を上げた。


 体が、落ちて行く。


 そして、体全体に強い衝撃が来る。


 地面に叩きつけられた。


「ぐぐ……おい、皆、無事か……」


 ロッシが、濁声になって話しかけてきた。


「無事です……」


 体を起こし、辺りを見渡す。


 岩場の影の所に吹き飛ばされたらしい。


 岩場の向こうは、激しい爆撃の嵐だ。運が良い。ここはうるさい音だけだ。


 シモーナと知らない金髪の男が近くに倒れていた。


 2人が、苦しそうに体を起こして僕を見る。


「先輩、隊長とアンドレアがいない」

「クリス隊長はこっちにいる……」


 ロッシが暗い濁声になった。


「では合流――」

「――死んだ」

「え?」

「クリス隊長は、死んだ……、顔が半分抉れてる……」


 ……マジかよ……。


「僕は、アンドレアです!」


 金髪の男が澄んだ声で言った。


 金髪の男は、爆発音の中、焦った身振り付きで、


「鎧が、壊されたみたいで! 盾も、どこかに! いえ、取ってだけ手元にあるんです! もう、どうしたら良いのか!」

「落ち着け、アンドレア。盾もクリス隊長がいなくなった今、我々の小隊は撤退するしかない」


 シモーナがアンドレアさんを安心させるように、肩をさすった。


「お前たちの場所は見えている。右を見ろ」


 ロッシの声の通り、僕は右の方を向いた。


 30メド―ルほど先のくぼみから、ブルネロ先輩が頭を出してこっちを見ている。


「隊列を組む。ガードはない。一列になり、敵の居る方向に向け防御結界を張り帰還を目指す」


 僕は、シモーナとアンドレアに向かって言った。


「隊列を組め」

「了解」


 アンドレアさんが立ち上がり、敬礼する。


「どうしたシモーナ」

「ごめん、私、脚を折ったみたい……」


 左足をさするシモーナを背負い、僕ら3人は、両手を適法に向かって伸ばし防御結界を展開。


 亀の甲羅みたいなのが空中に浮きあがり、僕らの傘になる。


「ごめんフェリーリ、魔力展開はできるから」


 シモーナが力強く言う。


 3人合わせたからか、いつも無色の半透明な結界が、薄く赤くなっていた。


 ブルネロ先輩の元まで行くと、先輩は片目から血を流していた。どうやらつぶれたらしい。


「ケガは目だけですか」

「いや……だが運が良いぜ」


 先輩は、お腹を押さえた。


「では規律通り俺が隊長になる」


 そうビシッと言うブルネロ先輩に対し、僕らは敬礼し、返答する。


「とっとと行こう、隊列を組み、全員、防御結界展開」


 できるだけ体勢を低くし岩肌に身を隠し、下に転がる肉片に足を取られないようにそろりそろりと、来た道を帰っていく。


 近くで爆音と共に土煙が巻き上がった。


 僕らは脚を止めずに後退していく。


 爆撃は、ここにはあまり来ない。汚れた大気は相変わらずで、視界は悪い。


 皆が、両手を突き出し展開する防御結界。


 一発二発の直撃ぐらいは、大丈夫だ。


「マール人の攻撃、あまりこっちへは飛んでこないね。助かりそう」


 横に居たシモーナが言った。


 言葉とは裏腹に、不安そうなの顔を浮かべていた。


「不幸中の幸いだぜ……ああ、くそっ腹が痛てぇ」

「味方の攻撃に集中しているんでしょうか……」

「味方は、敵陣奥まで到達したのかな……」


 皆の顔は暗い。


「次は……次の戦闘では僕らも貢献しないと……今日の撤退は、穴埋めを要求されるだろうし」


 そう言った、僕の顔も暗くなっていただろう。


「そうね、フェリーリ」

「まさか隊長が死ぬなんて……」


 やがて、味方陣地が汚れた大気越しに見えてくる。


 防御結界を敵側に向けるために、僕らは後ろ歩きになった。


「大隊長に撤退の連絡を」


 敵の攻撃の脅威も少なくなったと判断して、ブルネロ先輩が僕に命令する。


「了解」


 僕は結界を展開するのをやめ、ロッシを見る。


 ロッシは、


「ただいま、つなぎます。キャンッ」


 小さく鳴き声を最後に出し、大隊長とつないだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る