第11話 モブもモブなりに大変だ。


 一限目の授業の後・・・、


「で、彼氏って誰よ?」

「やっぱり、私達が知ってる人?」

「今度、紹介して!!」

「黙秘権を行使します」

「「「そこを何とか!」」」


 朱音あかねの周りに女子が殺到した。

 やはり全員が全員、朱音の素性に気づいていたらしい。家の事だけは誰もが驚いていたが。

 なお、例のチャラ男君達は昨日の事もあってか、朱音の元には行かず、俺から見える正面付近に陣取って、ブツブツと文句を垂れていた。


「ケッ。顔が良いだけの性格ブスが」


 顔が良いだけの性格ブス。

 その言い得て妙な悪口は自分自身の事を暗に示しているだけなんだが、大丈夫かあいつ?

 お前がどれだけモテるのか知らないが、そんな言葉吐く前にやることがあるだろう。


「大体、あいつと兄妹になったとか普通は毛嫌いすると思うがね」


 おいこら、人に指を指すな。

 その要らない指をへし折ってやろうか?


「ホントホント。あんな根暗君の何処がいいんだか」


 勝手にレッテル貼って楽しいのかね?

 それはお前等の価値観で物言いしているだけだろ。こちらからすれば、チャラ男君というレッテルを貼っているからお互い様ではあるが。


「見た目も地味、ただ勉強が出来るだけで運動音痴なバカだぞ」


 おー、言ってくれるな。

 毎回、金的を喰らって悶絶しているバカ達が、どの面下げて俺を運動音痴と言うのか。

 俺がワザと運動音痴に見せかけている事に気づけないとは情けない。保体なんて体力をセーブしてなんぼだろ? 他の授業に影響を残してしまう保体に本気になっては本末転倒だしな。

 それに授業で本気になって体育祭で走らせられた日には、本気で取り組む運動部の連中に顔向けが出来ないしな。練習で怪我でもしたら大顰蹙だいひんしゅくもあり得るし。

 俺みたいな平凡男にとっては死活問題だし。

 大人しくクラスカーストの底辺でのんびりと過ごさせて貰いますよ。

 さて、そろそろ予鈴が鳴るし、寝たフリもここまでだな。授業の準備を始めますか。

 というところで、


「あん? タスケテ? 愛しのアカネより」


 女子に囲まれる朱音からメッセが飛んできた。いつの間にスマホの設定変えやがった。

 ロックナンバーは教えていないはずだが?


「自分でなんとかしろっと・・・無理って」


 女子の中に入っていくとか地獄だろ。

 そもそも予鈴が鳴った後にスマホを触るとか没収もんだしな。

 すると、その直後、


「あっ! 名前が見えた!? いとしき?」

「え? このアイコンの寝顔、見覚えがある」

「誰だっけ? 何処かで会っている気がする」


 朱音のスマホ画面を覗き込まれアタフタする朱音がチラッと見えた。そのうえ女子達の視線が何故か俺に向かってくる始末だ。

 これは朱音が俺に視線を送ってきたから、そのまま視線を読んで向けてきたのが正しいか。


「あら? 義兄に助けを求めてる?」

「でも、彼って校外ならともかく・・・」

「校内だと我関せずじゃない?」

「話しかけても挙動不審だし」

「声が小さすぎて聞こえないし」

「頭は良いみたいだけど、コミュ障でしょ」

「「流石に無いよねぇ」」


 うっせぇわ!

 それが俺の処世術じゃあ!

 当たり障りなく高校生活を送って大学進学するっていう人の人生設計を笑うんじゃねぇ!!


「たくっ・・・授業が始まるから無視だ、無視」


 そう、悪態を吐きながら呟くと、俺の隣に座っている一人の女子が横目で囁きかけてきた。


「なにぶつくさ文句を言ってるの?」

「うっせぇ、委員長」

「そんな口の利き方していいのかな? モブのフリをしたがるイケメン君?」

「俺はイケメンとちゃうわ!」

「ふ〜ん? 幼馴染の私に隠せると思っているの? 姉さんの目は誤魔化せても、ね?」

「・・・」


 油断した。こいつだけは逆らってはダメだ。

 クラス内で一番発言力のある危険人物。

 カーストで言えばトップにあり、成績の面でも俺にとっての目の上のたんこぶである。

 つまり学年トップの成績って意味だな。

 俺の場合は先に言った通り、保体で手抜きしているから、必然的に二段くらい成績が下がるってだけなんだが、こいつは常に全力を出すという化け物な女子高生だったりする。


「化け物で悪ぅございました」

「やべっ! 声に出てた・・・?」


 その名も朝風あさかぜるい

 名字的に担任の関係者と思うだろうが、この辺では珍しくない名字であり赤の他人である。

 周囲からは涙ちゃんと呼ばれる女子高生だ。

 なお、容姿は完全にギャルな。容姿に反して真面目だから、偏見は良くないって思う。

 言葉にもある通り俺と朱音の幼馴染である。


「出てないよ。カマをかけただけ」

「ぐっ」


 こちらの発言を誘導するあたりマジで油断ならん。まぁ俺の隙を突いただけなんだろうが。


「それなら、お詫びとして・・・来週のボランティア活動、付き合ってね?」

「・・・」

「返事は?」

「うっす、勤めさせていただきます」

「よろしい」


 はぁ〜。来週の予定が埋まってしまった。

 先週は幼稚園、その前は保育園。

 次は何処に出向くというのか・・・。

 で、俺が呼び出される理由はおやつ要員な。

 俺が作る菓子の評判がすこぶる良いんだと。


「材料費はこちらが見るから好きに作っていいよ。おっぱいプリンは流石にダメだけど」

「どいつもこいつも、おっぱいおっぱいって」

「おっぱい嫌いなの? やっぱり私のような断崖絶壁な貧乳がお好みと?」

「黙秘権を行使します」

「ちっ。乗ると思ったのに。やっぱり朱音のようにはいかないかぁ〜」


 おいこら、嫁って誰やねん。




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