不穏な車

岸亜里沙

不穏な車


それ▪️▪️に気づいたのは、偶然だった。


仕事からの帰り道、ふとバックミラーを見ると、一台の車が見えた。

「あれっ?」

私は不審に思う。

「昨日も私の後ろを走ってた車だわ」

同じ車種、同じ色、同じナンバー。

「偶然?」

特別煽られたり、何かをされるわけではなかったので、何も気にしてなかったけど、よく考えたら不自然。

赤信号などの影響でその車が止まって私だけが進んでも、その車は気がついたら真後ろに戻ってきている。

「なんで?」

しかし、自宅に着く直前になると、その車は忽然と消えていた。

「帰り道が同じだっただけ?でもそんな事ある?」


そんな日が何日も続いた。


その車は毎日、私の車の後ろを走っている。残業などもあり、帰宅時間は区々まちまちだし、いつもと違う道を通ったりもしたのに。

バックミラーから相手の運転席を見るけど、スモークがかかっているのか、何も見えない。

「一体誰?」

私はさすがに怖くなった。

毎日、得体の知れない誰かがついてくる。

警察にも相談して、ドライブレコーダーも見せたけど、何かあれば連絡してくださいと言われただけだった。煽り運転でもなければ、嫌がらせをされたわけではないので、仕方がないけど。


私は仕事場の友人に相談し、友人の車で自宅まで送ってもらったが、その時はあの車は現れなかった。

今度は試しに私の車に友人を乗せて、二人で帰ってみたけど、やっぱりあの車は現れない。終いには友人にも「気にしすぎじゃない?」って笑って言われる始末。

私が一人きりの瞬間だけを狙っている?


私はいつしか恐る恐る車に乗って職場を出るようになっていた。

「あれ?今日はいない」

その日、あの車は私を追尾してこなかった。

「やっぱり偶然だったのかな?」

バックミラーを気にしながら、家路を急ぐ。

「良かった。無事に・・・あっ!」

自宅へ続く路地を左折した所で、私は急ブレーキをかけた。

「えっ、嘘?」

私が目にしたのは、自宅前に停まっているあの車。

「そんなっ」

私は急いでUターンをし、近所の交番に駆け込んだ。

不審車両がいるという事で、二人の警察官がついてきてくれたが、私たちが着く頃には、あの車は消えていた。

念のため、自宅の状況を確認してみたけど、誰かが侵入した形跡も、荒らされた形跡もなかったので、警察官は帰っていった。


──何が目的なの?──


そして次の日、事件は起きた。


仕事帰り、車を走らせるとやはりあの車がついてきていた。

さすがに私も限界だった。

本当は良くないのだが、私は鞄から携帯電話ケータイを取り出し、警察へ電話をかける。

「すみません、変な車に煽られていて、早く来てください」

本当は煽られてはいないが、私は必死に助けを求めた。

「今、どの辺を走っていますか?」

「県道4号線の、◯◯交差点の近くです」

「あなたの車の特徴と、相手の車の特徴を教えてください」

「私の車はトヨタのピンク色のパッソで、相手の車は・・・・・・あっ!」

バックミラーを見ながら片手運転をしていた私は、ハンドル操作を誤り、カーブで対向車線にはみ出していた。

前から来る大型トレーラーが、大きなクラクションを鳴らしている。


──もうダメだ、ぶつかる!!──


そう思った瞬間、激しい衝撃音と共に、私は意識を失った。





気がつくと私は、病院のベッドで目を覚ました。

首がむち打ち症のように痛かったが、他に痛みは感じない。


──あの事故で助かったの?──


「気がついたんですね。でも、まだ動かないでくださいね。脳へのダメージもあるかもしれませんから」

若い女性の看護士が、私に話しかけてきた。

「私、助かったんですか?あんな大きな事故だったのに」

私はベッドに横になりながら看護士に質問した。

「あなたの車がトレーラーとぶつかる直前、あなたの後ろを走っていた車が、あなたの車に追突したらしいんです。まるで、あなたを助けるかのように。それで、あなたは助かったんです。ただ、あなたの後ろを走っていた車は、トレーラーとの衝突で木っ端微塵になってしまったみたいで・・・」

その瞬間を想像したのか、看護士の女性は言葉に詰まる。

「そんな・・・」

私は絶句した。

あの車が私を助けてくれた?

首の痛みで思考が追いつかない。

「でも、私を助けてくれた車には、誰が乗っていたんですか?」

私は聞いてみる。

すると看護士の女性は顔を曇らせ、ひっそりと話しかけてきた。

「それが・・・、警察の方が言うには、大破した車の運転席に、誰かが乗っていた形跡がなかったそうなんです。なので、もしかしたら・・・」

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不穏な車 岸亜里沙 @kishiarisa

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