第三章エピローグ テーマ統一作家マッチと挑戦。

 「テーマ統一作家マッチ?」


 猪瀬はいつものように矢崎さんと打ち合わせをしながら珈琲を飲んでいた。


「ええ家の編集部最近新人作家が増えまして、

モチベーション向上と実力向上の為に編集長が考えたイベントなんです。」

「いいですね!色んな作家と同じ土俵で本気にやりあえる機会なんて有りませんからね。」

「それにテーマを統一した方が新しい読者さんも入ってくれやすいですからね。」


 矢崎は紅茶を優雅に飲む。

そんな事まで考え、編集をしている。

改めてすごい人だなと猪瀬は感じた。


「うまい...さては紅茶変えましたね!? 」

「残念変わってねぇよ。」

「うそっ!? 」


 この人本当に凄い人なんだろうか。


「それで、まだテーマは決まっていなくてですね。何かいいテーマは無いでしょうか...」


 矢崎は頭を押さえながら悩む。

対決のテーマ...出来れば皆同じぐらいの力量を発揮出来るほどのテーマがいい。

本当に難しい問題だ。

と猪瀬は思っていた。

「まぁ、何か思い付いたら電話してください。」

「はい。」


 とりあえず夢咲と相談してみるかと考え、猪瀬は夢咲のすんでいるマンションへと向かっていく。


 「なるほどねー テーマ統一作家マッチ面白そうじゃん。」


 夢咲はクッキーを食べながら期待に胸を膨らませているようだ。


「...やっぱりテーマはあれがいいわね。」


 夢咲は何かを思い付いたようで目を燃やしている。

この目をする時は大体ろくな事じゃないのは俺はよく把握している。

夢咲は早速電話をかけるために部屋を出ていく。

猪瀬は電話を盗み聞きするのもよくないので紅茶とクッキーを食べながら待つ。

待っている間部屋をよく見回すと、 作家とはこういうものだと言わんばかりの難しい本やライトノベルなど色々な小説や昔の漫画や資料集などの様々な本が置かれている。

改めて見ると彼女の小説への情報のアンテナが凄く多いと気づかされる。

これがあの天才的なストーリー構築の所以なのだろうか。


「お待たせ決まったわよ! 」


 夢咲はいい顔で部屋に帰ってくる。

どうやら彼女の提案は受け入れられたようだ。


「それでどんなテーマなんだ? 」


 オーソドックスな異世界物か

それともトリッキーなホラー小説か。

猪瀬はどんなテーマなのか心臓を踊らせる。


「テーマはメイドよ!」

「はぁ!? メイド!? 」


 柳七緒が大得意するテーマであり、

猪瀬達は触れたことがないテーマ。

リベンジしたいという気持ちは分かるが無謀だと感じた。


「いくらなんでもそれは...」

「勝てないと思ったでしょ?」

「そりゃあ今回のイベントには新人である柳も出てくるんだから当然だろ。茶道部が野球部に勝つようなもんだぞ。」


 そうそれは無謀な挑戦。

せめてもっと違うテーマなら勝ち目があったかもしれないがメイドという柳の大得意なテーマ勝てるビジョンが見えなかった。


「確かに私達が勝てる確率は万に一つ嫌、億に一つかもね。」

「ならなんで!」

「確かにあいつの苦手そうな恋愛ものやホラーを書けば勝てるかもしれない。でもそれって勝ちっていえる?」

「それは...」


 確かにそれは今回のテーマであるガチンコ対決とは外れるが極端だ。

前の時はこんなに熱い奴だったか?


「確かに私には彼女のようなメイドへの愛も知識もない。でも私には小説への愛がある!それに...」


 彼女は力説したが最後の方は小声で聞き取れなかった。

小説への愛。

確かにそれなら負けてないかもしれないが、

それだけであの天才柳を越えられるのか...


「駄目かしら...駄目なら矢崎にいって考えてもらうけど。」

「...その博打乗った!勝てないかもしれないけどやってみてぇ、一泡吹かせたい。」


 確かに勝てないかもしれない。

それがなんだ!

勝てると分かって勝負なんて今までしてきたか?

小説を書いてきたか?

否、そんな事は考えてこなかった。

それにそんな考えをしていたらあいつに笑われちまう。

と考え猪瀬も熱くなる。


「そうと決まれば作戦会議よ! 」


 夢咲は早速メモ帳をとりだしアイディアを出していく。

猪瀬もそのメモを見ながら一緒に考える。

いつもの事だ。

だがこれほど熱くなったのは初めてだ。


 「まさかメイドで勝負したいとはねぇ。」

「はいすいません編集長。新人育成がテーマのイベントなのに柳先生の大得意なテーマにしちゃって。」


 矢崎は編集長に謝る。

このイベントをどれだけ重要と考えていたのかわかっていたから。

例えるなら極上の料理を作ろうとしているのに調味料を大量にかけるような行為。

柳先生という料理だけに適切で、独壇場になって台無しにしてしまうかもしれない。


「気にするな今回のイベントはお前に任せてんだ。お前がいいと思ったならそれでいい。

その代わり責任はとってもらうがな。」


 編集長は笑いながらそう言う。

この人はいつもこうだ。

編集長と話していると編集長の電話がメロディを奏でる。


「悪い電話だ。」

編集長は電話でその場をあとにする。


「あぁ!?責任だぁ!?そんなもん俺がとる! 」


 編集長の大声がここにまで響いてくる。


「全く責任を私にとらせるなんて言ってたのに…」


 矢崎の目から水滴がこぼれる。

あぁこの紅茶はやはりいつもより苦い。








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