第二章エピローグ 背負うものと愛。
猪瀬と夢咲はパーティーが終わったあと、
今回の反省をするためにファミレスに来ていた。
何とかギリギリ姫野先生にイラストレーターになって貰うことになったが、
二人は全然幸せという感じにはならなかった。
何故ならおこぼれのような勝利だったからだ。
「私はあの小説を見せて貰ったあと負けたと思ったわ。」
「あぁ、俺もだ。 」
二人は編集長に頼み込んで柳の小説を少し読ませてもらった。少ししか見ていないのに柳の小説の凄さを理解できた。
メイドの女の子と恋をした少年と言う分かりやすい物語なのに凄く奥深く面白い。
これで序盤なら後半は一体どうなるんだと震えるほどだった。
「あれが序盤なんて考えられないほどの面白さと奥深さがあったわ。あれで私と同じ新人なんて末恐ろしいわね。」
どうやら夢咲も同じ考えだったようだ。
「あんな凄い作家が同世代にいて勝てるのかしら...」
夢咲は柳の大きさをしり怖くなる。
「勝てるかじゃない。勝つんだろ!?」
「えぇ、そうね! 勝つわ!」
夢咲は猪瀬の励ましに奮起され勇気を出す。
「俺達が負けた大きな原因、それはこだわりだ。」
「こだわり?」
猪瀬の答えがよく分からず?を上げる夢咲。
「そうあいつはメイドが好きで好きで堪らないんだ。それをあの本に収縮させてきた。」
「成る程...好きだからよく知ってる。それは大きなアドバンテージね。でも...」
「あぁ、確かに好きだけを書いても喜ばれる作品は作れない。そこであいつは多分メイドになったんだと思う。」
「どういうこと?」
猪瀬は一枚の写真を夢咲に見せる。
「これメイドとの写真じゃない。あんたもメイド好きなの? 全く柳といい矢崎といい私の周りにはメイド好きしかいないの...」
夢咲は猪瀬のメイド好きだとしりあきれる。
「違うって! メイドさんにポーズの指定って出来るだろ?これみたいに。」
「確かにね。でそれがなに?」
夢咲は紅茶を飲みながら聞き返してくる。
「これってさ。みんなの好きって事じゃないか?」
「はぁ、そりゃそうでしょ。ポーズを指定して撮るんだから好きに決まってっ!」
夢咲は何かに気づいたように驚き、紅茶を吹き出す。
「きたねぇな!」
「悪かったわね。それより!」
「あぁ、それがあいつがメイドカフェで働いてた理由。色んな人のどんなメイドが好きか、どんな仕草がキュンと来ているかそれを知るため。」
「それをまとめてあの娘は小説を書いたのね。」
「あぁ、多分そうだと思う。」
「それの為にメイドカフェに働いてたんだとすると策士ね。」
二人はますます柳と言う人物の凄さに驚き、恐怖する。
「でもそれなら私達も好きを分析すれば...」
「いや、駄目だ。」
「なんでよ!?」
「あいつは多分何年も何年もかけてそれを分析したんだ。しかもあいつはメイドを止めねぇだろう。それじゃあ追い付くのは無理だ。同じ速度で走っても周回遅れじゃ意味がねぇ。」
「そう...ね。ならどうしたら...」
夢咲は考えを巡らすために紅茶を一口飲む。
「まぁ、時間はたっぷりあるじっくり考えよう。」
「そうね。そうだ私、紅茶のお代わり取ってくるけど、あなたもなにかいる?」
「あぁ、それならコーラ頼めるか?」
「分かったわ。」
夢咲は猪瀬の分のコップを持ちドリンクバーに向かっていく。
「あの小説他に何か凄いちからを感じたな。」
猪瀬は妙な感じを柳に持ちながら夢咲を待つ。
「今日ぐらい休んでいいんだよ? 片づけの為に来なくても。」
「自分にはこれぐらいしか出来ないんで。」
私は店のテーブルを拭く。
そう、
私に出来ることはこれしかない。
こんな物で恩返しなるとは思っていない。
だから私は今回のNEVERに応募した。
大作家になって、店長の店を守る。
それが私の恩返しだ。
携帯電話が振動し、やーちゃんの電話番号が表示される。
「ちょっと電話だから、はーちゃん変わりにここの片づけお願いできる!? 」
私は仕事を店員のはーちゃんに変わって貰おうと声をかける。
「はいわかりましたー」
「もしもしやーちゃん?どうしたのこんな時間に?」
「椿~なんでもっと早く教えてくれなかったんですか? あんな天才がいるなら~」
やーちゃんが酔っ払った様子で話しかけてくる。
「やーちゃんまたよってるの?」
「よってませんよ~それで何でもっと早く教えてくれなかったんですか~?」
「私は元々なーちゃんを小説家にしたくなかったんだ。」
「へ? 何でですか?あんなに才能あるのに。」
「うん、何て言うか大変な仕事でしょ? それに才能はあるんだけどなんか張りつれてるって言うか...張りつれた作家がどうなるか忘れてないでしょ?」
私はあの過去を思い出す。
「えぇ、忘れませんよ。」
矢崎は急に酔いを覚まし、悲しい声で言葉を返す。
「...愚問だったねごめん。」
「....それじゃあなんで今回応募させたんですか?」
「うんあの娘実は私が拾った子なんだ。」
「へ? 拾い子!? そんなの話一回も聞いたことありませんよ!? 」
「うんあんまりいい話じゃないし。それで私に恩返しするんだーって頑張って働いてくれてたんだけど何て言うか無理してるって言うか。それで気休めになるかなって思って小説を書いて貰ったんだ。それが思ってたより良くできていて私はべた褒めしたんだ。」
「へぇそれであの娘小説を。私の作家にも同じ理由でデビューした人いますよ。」
「へぇ他にもそんな人いたんだ。」
「へ?矢崎さんに頼み事がしたい?」
「はい。すみません我が儘言って、でもどうしても紹介してほしくて。」
とナーちゃんは頭を下げお願いする。
「全然良いよ!ナーちゃんが頼みごとするなんて全くないし、なんか頼られてるって感じて涙出てきちゃった。」
私は娘のように可愛がっていたナーちゃんの成長に涙を流す。
「なかないでください。これどうぞ。」
ナーちゃんは赤いハンカチを私に手渡す。
「このハンカチ...今度は逆だね。」
「はい。やっと返せました。」
椿はナーちゃんと出会った日の事を思い出す。
それは良く雪が降るよるの事だった。
椿は仕事を終わらせ家に帰っていた。
そんな最中私は夜遅くに公園のブランコに乗った一人の女の子に出会った。
その子の肩には雪が積もっていて、ずっとそこに居たことがわかる。
そんな彼女に私は同情と言うかなんと言ったらいいかわからない気持ちをもち近づく。
「君ずっとここにいるの?」
「うん。お母さんがここにいろって。」
「お母さんはどこに行ったの?」
「分かんない。昨日から帰ってこないんだ。」
「昨日!?」
椿はこの寒い中を二日も待っていたことに驚く。
「寒かったでしょこれ着て。」
椿は持っていたコートを脱ぎ彼女に着せて上げる。
「ありがと。こんなに暖かいのいつ以来だろ。あれ、悲しくないのに涙が出てきた。」
椿は彼女の涙をハンカチで拭く。
「本当にありがと。」
「ねぇ私と一緒にこない?」
椿はその子に特別な何かを感じていた。
母性というか、感というか、
よく分からなかった。
「うん行く。でもお母さん心配しないかな?」
「大丈夫だよ。お母さんには私から伝えといて上げる。」
そして椿は彼女をつれて、とりあえず暖を取るために家に向かい、警察に連絡した。
「この場合施設に引き取って貰うことになるね。」
どうやら彼女は母親と二人暮らしだったようだ。
「ま、待ってください!わたしが引き取ることって出来ますか!?」
「出来るけど大変だよ?」
「分かってます!」
その日椿の家族が増えた。
「覚えたんだ。」
「忘れるわけありません。あの日拾われて無かったらと思うと...だから小説を書いて恩返しするんです!」
「恩返し?」
椿は?をかかげる。
「はい! わたしが小説を大ヒットさせてこの店をもっと大きくして見せます!」
「私はそんなこと望んで拾った訳じゃ..」
「分かってます! これは私の自己満足だってことも、でも楽にしてほしいんです!」
「ナーちゃん。」
「それで断れなかったって訳ですか。」
そこで矢崎は椿の回想を切る。
「うん。あの子が夢を語ったのなんか初めてだったし、ごく最近だったし紹介できなかったんだごめん。」
椿は謝る。
「成る程よく分かりました。それなら仕方ありませんね。」
「ありがと。そろそろ仕事に戻るね。またお店に来てね。」
「はい!またよります!」
私は電話をきり、仕事に戻る。
「そんな過去がね~ 何かを背負った人は強いですよ~。猪瀬さん強敵出現ですね。」
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