第三章一話 敗者と玉石
勝者が生まれれば敗者は生まれるこれは自明の理である。
だが俺はそんな敗者を見捨てられない男だ。
皆から言わせれば変わった男なのだろう。
悔しいが矢崎も同じ思考だ。
矢崎は石を合わせることで新たな宝石を誕生させた。なら俺は石を磨き、最高の武器を作ろう。命をも奪う、槍を...
水田はしがない小説家...いや、それすら烏滸がましい妄想癖がある女と自分では思っていた。誰にも負けんと思い込み、NEVERに申し込み結果は玉砕。
格の違いを見せつけられた。
水田には柳のような愛もなければ、夢咲のような思想もない。
そんな私が作家になったところで何があるねん。
そう思い、水田は小説家の夢を諦めることにした。
水田にはもう貯金もない。
いっそのこと実家に帰ろうかとすら考えた。
「オカン許してくれるやろか。」
水田は小説家という叶わぬ夢を追い、親と大喧嘩をして出てきた身、そんな水田を親は許してくれるだろうか、そう考えた。
いっそのこと帰らずこっちで暮らそうかとすら考えた。
だがこっちには友達と言える人は誰もいなかった。
そのスタートがいかに大変かは子供だって分かる。でもこれは親の制止を聞かず出てきた自分の罰だと思うことにしたいや、こう思うしか無かった。
水田は罰を受け入れ、本屋でバイトをしていた。平凡な人生の中ある男が水田の前に現れる。
「ここに水田 菜来果という女がいると聞いてきたんだが。」
「はい。いますよ。菜来ちゃんお客さんよ~」
店主の千文が水田を呼ぶ。
「はーい。何か不備がありましたか。」
「やっと見つけたぜ原石。」
「へ?原石? 」
水田は突然その男から伝えられた意味が分からぬ言葉に困惑する。
「あぁ、水田菜来果お前には才能がある。」
「はぁ?才能?何のことですか。勧誘ですか? 」
水田は噂に聞くマルチ商法だと思った。友達の誰かが私を売り、私を勧誘に来たのだと。
「いや、勧誘じゃねぇんだ。いや、ある意味勧誘か。」
「どっちやねん。それでおっさんは何の勧誘やねん。」
「おっさん!?わしはまだ30やぞ!?まぁ、いい、お前を小説塾の第1号生として勧誘しに来たんや。」
「はぁ!?小説塾!?」
「そう。小説の才能があるもんだけをあつめた塾。それが小説塾や。」
「才能?はぁおっさんどこで私が小説の才能があるか聞いてきたか知らんけど私にはそんなもん無いで。」
「あぁ、そうやな。」
「はぁ!?意味不明や、小説の才能があるから私を勧誘しに来たんとちゃうんか? 」
水田はお茶繰られてると思いイラつく。
「早まるな。確かにお前には才能がない。だがそれは磨かれてないからや。」
「磨く? 」
「そうや、お前、ダイヤモンドって知ってるか? 」
「そんなん知ってるわ!指輪なんかに使われる宝石やろ? 」
水田は頭に母親の指輪を想像する。
母の家を飛び出さなければ宝石をプレゼントできていたんだろうかと想像する。
「そや、あれは綺麗やな? 」
「あぁ、凄く綺麗やな。」
「ほなこれは? 」
男は一つの石を手渡ししてくる。
それは凄く黒く汚れた石だった。
「なんやこの石凄く汚いな! 」
水田は男ににその石を返し手をふく。
「これがお前や。」
「はぁ、これが私!?おちょくってるんか!? 」
水田は自分を汚い石呼ばわりされて切れる。
「確かに今は汚い。だがこの石を磨けばどうなるか分かるか? 」
「ダイヤモンドでしょ?見たことあるわ。」
店長はそう答えるが水田は信用できなかった。
こんな石ころを磨いたからといってあんな宝石になるのか?
「正解だ!おばちゃんよく知ってるな! 」
「は!?嘘やこれがダイヤモンド!? 」
水田はその宝石をよく見る。言われてみれば確かにちらほら輝きが見える。
「確かに宝石は綺麗や。だがそれは磨かれて初めて分かる。お前みたいにな。」
「ほな私がダイヤモンドみたいに磨かれて開花するって言いたいんか? 」
「それは分からん。」
「はぁ!?無責任やな! 」
「光るかは結局自分次第や。宝石かて磨きすぎて砕けることだってある。」
「ほな頑張ったって成功しないかもしれんってことかいな。」
水田は男から言われた結論に絶望を感じる。
どんな頑張っても割れてしまうかもしれんなら頑張らない方がましだと。
「確かに割れてしまうかもしれん。でもそれが何や。そんなもん皆経験してる。割れて駄目だったらまた最初から磨き直す。それが人生や。」
男は笑いながら告げる。
「どや!一緒に磨いてみいへんか!?その原石! 」
「そんなん...」
「行きなよ菜来ちゃん。あんた今ここに来てから一番生きてるって顔してるよ。割れてしまうことにつかれたらうちにおいで。その穴をひっぱたいてやるから! 」
店長は大笑いをし、水田を送り出す。
水田はその店長に母親の面影を感じた。
「ありがとう店長!!やってみるわ!磨いて磨いてこの本屋を宣伝したる! 」
「決まりだな。」
「所でおっさん私で何人目の声かけなんや? 」
「あぁ、十人目だ! 」
男は大笑いする。
「はぁ、このおっさんについていって大丈夫かいな。所でおっさんさっき聞きそびれたんやけどなんて名前なんや? 」
「そういや、名乗って無かったな。俺は白倉や!よろしくな! 」
「はぁ、あの白倉が新人発掘?」
「あぁ、どうやらいい子を見つけたようだ。何でもその子達を指導して実戦級な小説家にするとかいってたぞ。」
「似合わないですね~あいつ、将来性とかいう不安定なもん嫌いじゃありませんでした?それを急に育成って。」
「さぁな、何があいつを変えたんだが...」
編集長は薄々気づいていた。
白倉がライバル視していた矢崎が、優秀な新人を作ったのを知っての事だろうと。
(これもライバルの効果かね...だが出来ればそういうのは作家同士でやって欲しいんだけどな。)
今日も編集長のタバコの煙は空をかける。
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