第三章二話 祝勝会と罪

 猪瀬達が姫野に認めて貰ったあの日、

猪瀬達はファミレスで小さなパーティをしていた。


「もっと飲んでくださいよ~」

「私は明日から執筆にかからないと行けませんし、下戸なんですすいません。」

「夢咲さんも飲んでないじゃないですか~」


 矢崎は猪瀬達にうざく絡んでくる。

どうやら矢崎は絡み酒のタイプだったようだ。


「私は未成年よ。忘れたの?」

「18でしょ~大丈夫ですって。」

「駄目ですよ。年長者が未成年飲酒進めてどうするんですか全く。」


 猪瀬はお酒を傾けながら矢崎を制止する。


「やっぱり私には猪瀬さんしか居ませんよ~結婚しましょう? 」


 矢崎は絡んでくれる猪瀬に嬉しくなり、胸を体に当てる。


「止めなさいよ!猪瀬も鼻伸ばさない! 」

「そうですよ猪瀬先生! 」

「伸ばしてないよ!全く...」


 猪瀬は矢崎を振り払い、お酒を進める。

猪瀬はこうも賑やかなのはいつ以来だろうかと考え、昔を思い出す。


「猪瀬やっぱおめぇはすげぇよ! 」

「そうか?でもまだ先生にも認められてないし。」

「あの先生はそうそう人なんて認めないわ。」


 猪瀬は青春時代を思い出す。

吾妻や神野と共に先生の所で小説を学んでいたあの頃を...だがもうあの頃には戻れないと俺は知ってしまっている。

そんな悲しい気持ちでこのめでたい場で酒を進めてもいいのかと思いながらも悲しみは消えない。


「すいませーん店員さん~!!」

「もうそれぐらいにしときましょうよ。」

俺はよっている矢崎さんを制止する。

「まだまだ行けますよ~」

「はい!ご注文...は?」


 猪瀬は思いがけない人と遭遇した。


「イノッチ? 」

「吾妻?」


 私は吾妻 風花しがない店員だ。

色々とあって小説の夢を諦め、バイトに明け暮れる毎日。

そんなある日私は夢を諦めるきっかけとなった人と再開した。


「イノッチ!!久しぶりじゃん!元気してた?」

「吾妻こそ!! 」

「知り合い? 」


 猪瀬と一緒にいた夢咲が聞いてくる。


「知り合いも何も大親友だよ! 」


 大親友か....


「う、うん!そうだよ! 」


 吾妻はなんとか話を合わせる。

吾妻は小声猪瀬に言う。


「大親友か...」

「ッ!ごめん...後で話せるか? 」

「店長が呼んでるからまた後でね! 」

「あの注文は? 」

「もういいでしょ?飲みすぎですよ。」

「ブー!分かりましたよ。」


 矢崎は不貞腐れながらしふしぶ了解する。


 皆と解散した後。

猪瀬は解散した後で吾妻と話すため、店に戻る。


「まさかたまたまここで合うとはね。」

「あぁ、運命ってのは分からないもんだな。」


 猪瀬は出来てしまった距離感に悲しく思いながら話す。昔は親友のように仲がよかったのに。


「ごめん!謝って許されることじゃないだろうけど。」

「いいのいいの気にしてないから!あれはしょうがないよ。君が居なくても起きてたと思うから。」


 いや、嘘だ。俺があいつにあんなことを言っていなければあんな事件は起こらなかったと猪瀬は思う。


「イノッチ凄いじゃん。夢叶えたんだね。」

「誰からそれを!? 」

「うんあの茶髪の女の人が祝杯なのに皆飲んでくれない~ってぼやいてたから。」


 俺はこの時ばかりは矢崎さんを少し恨む。


「この賞はあいつがとっていたかもしれない賞なんだ。だからお前があいつの墓前に供えてくれるか? 」


 猪瀬は自分の分のトロフィーを吾妻に渡そうとする。


「いや、これはイノッチの賞だよ。イノッチが直接お供えした方がいいよ...あいつも喜ぶと思うし。」

「俺にあいつに合う資格なんてねぇよ。」

「あれはだからきみのせいじゃ! 」

「俺があいつを殺したんだ! 」


 猪瀬はその場から走り去る。


「まって! 」


 吾妻の静止の声を振り切り猪瀬は逃げる。

あの時のように。


「やっぱりまだ引きずってたか...そこにいるんでしょ?さっきから気づいてたよ。」

「やっぱりばれてたのね。」

 電柱の後ろから夢咲は現れる。

「初めましてだよね?さっき聞いてたと思うけど私は猪瀬の昔の仲間の吾妻 風花よろしくね。」

「えぇ、私は猪瀬と一緒に小説を書いてる夢咲

遥よ。よろしく。」

「一緒にか...」

「どうしたの?」

「い、いや何でもないの!それで出てきたって事は...」

「えぇ、何があんなに彼を後悔させているのか知りたくて...」

「もしかして彼女さん? 」

「違うわよ!どうしてそうなるわけ!? 」

「いやー、彼の事を心配してるみたいだったしもしかしてそうなのかなって? 」

「そんなことより話してよ彼の過去の話。」


 夢咲は顔を赤くし、話題を逸らすために過去を聞く。

「そうだね。いつから語ろうか。」


 私達は元々幼なじみだった。

クールなイノッチ

お転婆な私

そして明るい神野。

三人は性格はバラバラだったけど、好きなものは一緒だった。

それは小説。

お互いよく誰が最高の作家だ、とか言い争ってた。

そんな関係が高校まで続いた。

私はこの関係がずっと続くと思ってた。

 そうあの日までは


「今日先生休みだってさ。」

「まじかぁ、俺の小説見て貰おうと思ったのに!」

「あんたの小説なんて読んで貰えないわよ!」

「何をー!? 」

「「「ハハハハ! 」」」


 そんないつものような会話をして部室に向かっていた最中。ある電話がかかってきた。


「もしもし?はい猪瀬ですけど。はい!? 」


 猪瀬は電話に出て驚いてた。


「どうしたんだよ? 」


と神野は訪ねた。

「この前先生に隠れて応募した小説の事でよばれた...」

「ホント!? 」

「やったな!猪瀬!!俺たちの中で一番乗りだ! 」

「まだ分からないよ。ただのダメ出しかも知れないし。」


 そう言いながら猪瀬の顔は少しにやけていた。

「大丈夫だって安心しろって!お前の小説は先生も認めてるんだ!いけるってそれにしても作家デビューか...」

「そうね...でもすぐに追い付いてやるわよね神野? 」

「あぁ、当たり前だ!浮かれてるとすぐ追い抜すぞ! 」


 そんな事をいいながら笑ってた。

例え猪瀬が小説家になろうと吾妻達の関係は変わらないと思っていた。

 

「やったよ二人とも!本になるって! 」

「よかったね! 」

「やったな! 」


 吾妻達は素直に猪瀬の小説家デビューに喜んだ。

「でも小説の手直しをしないと行けないらしくて。二人とも手伝ってくれる? 」

「もち!当たり前じゃん!親友なんだから! 」

「そうだぞ! 」

「分かった。今から学校に行くね。」


 そういい電話は切れる。


「今からってもう下校時間過ぎてるんだけど...」

「まぁ、ファミレスかどっかでやればいいだろ!」


 特に神野は喜んでた。

吾妻が猪瀬と合流するために歩いていると、横断歩道の反対側から猪瀬が歩いてくる。


「二人ともやったね! 」

「おいイノッチ危ない! 」


 そうそれが起きたのはその時だった。 


 ガシャーンという大きな音が吾妻の頭に木霊する。

しばらくの間私は何が起きたのか理解できなかった。 

頭が冷静になったのは救急車が来た後だった。

トラックが青信号なのに突っ込んできて、猪瀬が引かれそうになるところを神野が庇ったと分かった。


「それがイノッチが自分を攻めてる理由。自分がもう少し周りを見れば事故らなかったったんだってずっと言ってた。でもあれはトラックの暴走運転で、イノッチにはなんの過失もなかった。」

「それでも彼は自分を攻めつづけてる。」


 夢咲は吾妻の話を聞き、納得した様子だった。


「それで彼あの時...」

「何か思い当たることあったの?」

「えぇ、私達が姫野の所に行くときにいつ不運が訪れるか分からないって。」

「そっか...」


 二人は暗くなる。


「もしかしたら貴方ならイノッチを立ち直らせれるかも知れない。」

「え!?何でよ!親友の貴方でも無理だったのに! 」

「でも彼あなたの事満更でも無かったみたいだし。貴方もなんでしょ? 」

「な、なんで分かったのよ! 」


 夢咲は顔を赤くする。


「これでも元小説書きだよ?そんなのは分かるって私は無理だったけど君ならいけるって信じてる。」

「あ、ありがと...きっと立ち直らせるわ! 」


 顔を赤くし、夢咲は走り去っていく。


「あぁ、負けちゃった。」


 吾妻は涙を吹き、そらを見上げる。


「やっぱり神野の忠告通り卒業する前に告っておけばよかったかな。でもあの娘ならやってくれるよね神野? 」


 その答えは帰ってこず、空は星を照らしているだけだった。



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