第二章二話 メイド作家と自信作?

 「はぁ...」

「どうしたのヤーちゃん、ため息なんて珍しいね。しかも酒臭いよ? 」

「聞いてくださいよ椿~」


 矢崎は椿に涙を流しながら抱きつく。


「やめてよー、服が鼻水まみれになっちゃう。」

「親友が泣きついてるのにその態度は無いんじゃない?」

「親友?誰が?」

「椿~」


 矢崎はより一層泣く。


「ごめんごめんおちょくっただけだって。それでどうしたの?」

「今度は猪瀬さんまで連絡つかなくなっちゃったんですよ~何やってんだか。」

「あーそりゃあ男女二人なんだからナニやってるんじゃない? 」

「そんなことになってたら私のクビが危ういよ~」

「ごめん嘘嘘。あの二人小説バカみたいだからそんなこと無いって。」

「そうかな~。」


 そんなことを二人で話していると、テーブルに味噌汁が置かれる。


「これウチからのサービスっす。これでも飲んで落ち着いてください。」

「ありがと~メイドさん。」


 矢崎は抱きつこうとするがそれを華麗に避けるメイド。


「後店長、これで拭いてください。」


と青いハンカチを手渡す。


「ありがとナーちゃん。」

「ほほぉナーちゃんって言うんですか~あの二人よりいい子ですね~」

「そうだよ。私のイチオシメイドなんだー

そういえばナーちゃんあれお願いしてみたら? 」

「おう。かわいいメイドさんのお願いなら何でも来い!ですよ~」

「ありがとうございます!実は私小説書いてて、この小説をNEVERに応募したくて...」


 ナーちゃんと言われたメイドは一冊の原稿を手渡す。


「そんな事ならお安いご用ですよ~」

「ありがとヤーちゃん!実力は私が保証するから!」

「ほほぉ、椿のお墨付きですか。楽しみですねー」

「では早速大会管理部門にっと...」


 ふらふらとした手付きでパソコンを動かす矢崎。


「もうヤーちゃん。そんな手付きでやったら何かやらかしちゃうよ。私がやるよ。まったく友達じゃなかったら出禁だよまったく。」


 椿は慣れた手付きでパソコンを操作する。


「椿さん慣れた手付きですね。」


 メイドは驚いた様子で聞く。

「あれ言ってなかったっけ?私元編集者なんだ。」

「へぇー 店長自分の過去あんまり語りたがらないから初めて知りましたよ。」

「そういやそうだね。ナーちゃん応募する名前どうする?」

「本名でいいっすよ。」


 椿は慣れた手付きで柳七緒と入力する。


「これでOK!入賞するといいね。」

「ありがとうございます!そういえば入賞数っていくつあるですか? 」

「そんな事も知らないで応募したかったの?

最優秀賞と編集長賞と読者賞の3つだよ。」

「ひぇー凄い投稿数なのに選ばれるのは3つだけですか。凄い関門ですね。」

「そう。だからその関門を通過できた人は人気が出るってわけ。」

「なるほどー ところで矢崎さん寝ちゃいましたけどどうします? 」

「そうだねー起こすのも可愛そうだし、お客さんは来ないだろうから閉めちゃおっか。」

「分かったっす。」


 七緒は敬礼をし片付けを始める。

椿は矢崎に毛布をかけ、裏に回る。

矢崎の携帯が発光しているのに誰も気づかず時間が過ぎる。

 

「出ないわね。折角私達の自信作を送りつけてやろうと思ったのに。」

「まぁ、矢崎さんは大変な人だから忙しいのかもしれないし、もう一度俺達で読み直してからまた明日電話しようぜ? 」

「まぁそうね。こんな時間だものね。」


 時計の針は夜8時を告げている。

夢咲は自分達の小説を読み返す。

主人公はある女の子で、不思議な穴に落ちてしまい、そこでは色んな魔物達が暮らしていた。主人公がいた世界からおい出された魔物達は地下に楽園を気づいたという。その彼等が言うには地上は元々魔物達の物で地球人は何処からきた侵略なのだという。主人公はとりあえず穴のことを隠し地下で生活する。その中で魔物達の優しさも知る。それで彼女は迷う。穴の事を教えるべきかどうかと

彼女の決断は。

といったストーリーだ。

夢咲はその出来に今までの小説を越えるとすら思えた。

 猪瀬がコーヒーを持ち戻ってくる。


「ほらよ。」

「ありがと。」


 夢咲は息を吹き掛けながらコーヒーを冷ます。


「さぁここから詰めていくわよ! 」

「あぁ! 」

 二人はコーヒーを飲みながら小説を書き上げていく。

その作業は朝方まで続いた。


「出かしたな矢崎! 」

「大きな声出さないでくださいよ~編集長。」


 二日酔いの私の頭に編集長の大声が木霊する。


「それで何が出かしたんですか? 」

「何がってお前が見つけた新人だよ! 」

「新人..あぁ、夢咲優也ですか? 」

「夢咲優也?そんな作家は知らんが。」


「そういえば二人のペンネーム教えてませんでしたね。夢咲優也じゃないのなら誰なんですか? 」

「お前なぁ自分が見つけた作家の名前ぐらい覚えとけよ。柳七緒だよ! 」

「へ?誰ですっけ? 」


 私は記憶を思いだそうとするがまったくその名前が出てこない。


「何言ってんだよ。お前のパソコンから送られてるんだぞ? 」


と編集長は応募メールを見せる。

 確かにそのメールアドレスは私のメアドだった。


「そ、そうでした!えぇ彼女ね、凄いでしょ!? 」

 矢崎は記憶に無いと言えば怒られると思いとっさに言い訳をする。

(本当に誰だっけ。昨日の夜の記憶が無いんですよね~その時かな?)

 矢崎は昨日の記憶を振り返ろうとするがまったく出てこない。

そんな時一通の電話が来る。


「はいはい。矢崎です。」

「こら矢崎!私昨日どんだけ電話したと思ってるのよ!かけ直してきなさいよ! 」

「あぁ、夢咲先生すいません。昨日はすっかり忘れてまして。」


 嘘はない。


「まぁ、良いわよ。私達の新しい小説持っていくけどいい? 」

「あぁ、応募の小説でしたらメールでお願いします。」

「そうなの?そんな大事なこと先に言っときなさいよ。」

 夢咲はぶつぶついいながら電話を切る。

少したつとパソコンにメールが送られてくる。


「どれどれ..」


「編集長!! 」

「そんなに大声出さなくても聞こえるって」


 編集長は耳を抑える。


「どうしたんだそんなに慌てて。」

「すいません。いい小説が送られて来たのでつい。」

「いい小説? 」


 編集長は私のパソコンをみる。


「夢咲優也、お前が言ってた奴か。どれどれ..」


 編集長は小説に読みふける。


「どうです!どうです!いい作家でしょ!? 」

「確かにな...」

「流石私が認めた先生です!やれば出来ると思ってましたよー」


 矢崎は自分が目にかけていた作家が最高の小説を出したことにテンションが上がる。


「まぁ、ともかくNEVERの選考は明日だ。皆いい作家見つけてこいよ! 」


 編集長はみんなに発破をかける。

矢崎は妙にドライな編集長に違和感を持っていた。

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