第二章一話 壊れた器と水
「分かってるわよ...自分に才能が無いことぐらい。」
夢咲は自分に自信がない。
だがそれをバレるのが嫌で虚勢をはり、つよい態度で人に接する。
それが夢咲という人間だ。
「夢咲へ連絡が取れない?」
それは一週間たっての出来事だった。
「はい、そうなんですよ~何かあっても嫌なので見てきてくれません?」
「俺がですか!?いいんですけどそういうのは編集の矢崎さんが行くべきじゃ...」
「私よりあなたの方がいいと思うんです。ただそれだけです。それじゃここが夢咲さんの住所です。」
矢崎は夢咲の住所を書き、猪瀬に渡し去っていく。
「何だか今日の矢崎さんいつもと違って落ち着いてたな。」
「いやーあれは落ち着いてるっていうか落ち込んでるね。」
突然メイドさんが話しかけてくる。
「ふぇ?落ち込んでる?あの矢崎さんが?」
「うんああ見えて彼女は繊細だからねー。」
「そ、そうなんですか。所で仕事は大丈夫なんですか?椿さん。」
「いいのいいの気にしないで! ナーちゃんいるし、お節介焼くのが趣味なんだ。お節介ついでにもう一つ、手を離しちゃ駄目だよ、人はいつ居なくなるか分からないんだから。」
そのの目はどこか遠くを見つめて悲しそうな目だった。
「ここが夢咲が住んでるマンションか...」
猪瀬は早速矢崎から貰った住所を調べ夢咲のマンションにたどり着いた。
猪瀬はエレベーターをよび、早速夢咲のいる階へ向かう。
「ここが夢咲の部屋か。昨日あんな事があったばかりだしなんて声をかけて入ればいいか...」
猪瀬は一週間前の事を思い出す。
夢咲と猪瀬は釣り合っていない。
このまま続けていたら溢れるか壊れてしまう。と言いはなった。姫野先生を思い出す。
「あんた人の家の前で何してんのよ。」
夢咲の部屋の前で悩んでいるとレジ袋を持った夢咲が帰ってきた。
「夢咲!?い、いや矢崎さんに連絡がつかないから見てきてくれって。」
「そう、どいてくれる?部屋開けられないんだけど。」
「あぁ、ご、ごめん」
「折角なら寄ってく?お茶ぐらいしかないけど」
「寄ってくよ、ありがと。」
二人は夢咲の部屋に入る。
夢咲の部屋はぬいぐるみや人形が多くありまさに女の子のへやという感じだが凄く荒れていた。
ぬいぐるみは散乱し、足元には原稿用紙の山があった。
「この原稿用紙ってまさか。」
「そう。この前言われてから描いた奴。捨てといて。」
「捨てるってなんで!? こんなに言い出来なのに!一目見ただけで分かるぞ!?」
「これじゃあの女を見返せない。」
「あの女って姫野先生か?」
「姫野...あぁ、彼女ね! そうよ。」
どうやら違う人物を想像していたようだ。
いくら何でも鈍い猪瀬でもそれを感じた。
「これ私が書いた中で一番の自信作なのどう!?」
そういい夢咲は自分の原稿を見せてくる。
それを見て猪瀬は絶句した。
それは今流行りのジャンルの小説。
確かに賞を取るって言う条件のこの勝負ならピッタリかもしれない。だが
「何だよこれ! 俺が惚れた夢咲遥はどこ言っちまったんだよ!?」
「惚れた!?」
「あぁ、そうだよ!誰にも媚びない。これが私の小説だ!わるいかっ!ていい放つ用な小説はどこに言っちまったんだよ!」
「それじゃ勝てないのよ!」
夢咲はぬいぐるみを猪瀬に向かって投げつける。
「勝たなきゃ私はまた失うの。もうそんなのは嫌なのよ!」
「確かにこれなら勝てるかもしれねぇ。だがそれって本当に猪瀬優也の小説って言えるのか? これはただの流行に乗ろうとするだけの小説だ。それが俺達だったか?違うだろ!? 俺もお前も流行には乗れないが自分が面白いと思うものを流行らせようとして頑張って来ただろ?」
「な、なんで頑張って来たって分かるのよ..」
夢咲は小声そう呟く。
「分かるさ!あの小説への愛を聞けば、
何度も何度も書き直してやっと出来た小説なんだろ!?」
「そうよ。あれは何度も書き直してやっと出来た小説よ。でもそれはあの女には認められなかった!認められなきゃゴミじゃない!?」
「ゴミなんかじゃない!!あれにはお前の血と涙と愛がつまってる!!それをゴミとは言わせねぇ!だから二人で見返してやろうぜ!」
「それが出来るのはあなただけよ私には無理なのよ!私は凡人、貴方は天才。分かるでしょ!?」
夢咲の口から隠し通してきた本音が飛び足す。
「...ねぇよ!」
「え?」
「お前は凡人じゃねぇよ!俺はお前を天才だと思ってる!」
「慰めはよして!」
「慰めなんかじゃねぇよ。例え凡人だとしても天才に凡人が勝てないって誰が決めたんだ?」
「そ、それは世界よ! 世界の摂理なのよあなたも分かってるでしょ?」
夢咲は悲しい声でそう呟く。
「そんなもんが摂理だって言うなら俺とお前で塗り替えようぜ!凡人でも二人なら天才を越えられるって!」
「大きく出たわね...二人ならか...そんな考え無かったな...」
「お前は自分一人で頑張り過ぎなんだよ!人は一人では生きていけねぇんだもっと俺や矢崎さんを頼れ!」
そう猪瀬は笑顔で呟いた。
「なら早速頼らせて貰おうかしら...」
夢咲は涙を吹きながら画面を見せる。
「これは?」
「これは私が一番最初に没にした小説よ。」
「いいじゃねぇかこれを少しいじれば..行けるかもしれねぇ!」
「そ、そう!? どんな風に!?」
彼女達の喜ぶ声がマンションに木霊する。
「はい、はい。良かったです!」
「どうやら立ち直れた様だな。」
「えぇ、猪瀬先生は凄いですよ。あの時猪瀬先生が居てくれたら...」
「お前まだあの事引きずってんのか?あれはお前のせいじゃ...」
「いえ、あれは私の責任です。彼の才能を潰してしまったのは私なんですから。」
矢崎は悲しく煙草をふかす。
「夢咲は変われたぞ。お前も変わってももうあいつは怒らねぇよ。」
「分かってます。彼が私に変わって欲しいことぐらい。でも変わったら彼が消えてしまうような気がして..だから私は背負っていきます。」
「そりゃあ辛い道だぞ?先輩からのアドバイスだ。」
「先輩ってそんなに年変わらないでしょ?」
「それは言わねぇお約束だろ?」
二人の煙は空へと昇る。
この煙が彼まで届きます様に。
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