第380話 不本意ではあるが

投げナイフ……とはいえ、武器をモンスターのケツ穴にねじ込む。


(流石、フィリップ!!!!!!!!)


友人であるガルフは、狙った箇所に見事ジャストヒットさせたフィリップの腕前に、素直に感心していた。


だが……ミシェラとイブキは、隙の無い二段構えに凄いとは思いながらも、何とも言えない気持ちにさせられた…………が、今は戦闘中。


普段ならツッコミの一つや二つ入れたい内容ではあるが、その暇がない。


「斬り落とさせて、いただきます」


イブキが放つは……刀技、轟破裂断。


居合・三日月と同じく、まだ完全に至っていないスキル技ではあるが、狙い場所をミシェラが叩き込んだ切傷へと狙いを定め……愛刀を振るった。


「ッ!!!!!!!!!」


フィリップがねじ込んだ雷の投げナイフがかなり奥へと入ったことで大きく動きが鈍り……見事、左前足を切断することに成功。


「いけ、ガルフッ!!!!!!」


四肢の一つが落ちた。

それだけで、ブランネスウルフの機動力は大幅に低下。


もう……ガルフが守りに徹する必要はない。

そう判断したフィリップは、友の背を押した。


そして、押された友は弾かれた様に駆け出し……ありったけの闘気を全身に纏った。


「はぁああああああああああッ!!!!!」


「ッ!! フゥォォオオオオオオオオオっ!!!!!?????」


戦闘が始まってから、一番危険だと思っていた人物が、遂に本気で自分に刃を振るおうとする。


上等だと……ブランネスウルフは大幅に低下した機動力に頼ることはなく、全力で咬み付こうと、全力で喰らってやろうと、大きく顎を開いた。


だが、まだ忘れてはならない人物が残っていた。


「不本意ですけれど、致し方ありませんわ」


フィリップが見事投げナイフをねじ込んだ個所は、未だに激痛が走っている。


ブランネスウルフはなんとか、なんとかその激痛を無視して顎を開こうとしたが、今度は風刺が叩き込まれた。


言葉にした通り……本当に、ミシェラにとって不本意な攻撃ではある。

だが、イブキが未完成とはいえ強烈な刀技を、止めの為に使うのではなく、機動力を削るために使った。


であれば、自分も勝つために……絶対に、自分たちの力でブランネスウルフに打ち勝つために全力を、最善を尽くさなければならない。


「せやッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


「ッ、ワ…………ァ……ゥ………………」


ガルフが放った突きは、見事……ブランネスウルフの脳天を突き刺した。


闘気を纏った突きは、ブランネスウルフが纏っていた魔力を……闇を貫き、そのまま皮を、骨を貫き、脳をも裂いた。


「お、わっ!!!???」


「っと……大丈夫ですか、ガルフ」


「う、うん。ありがとう、イブキさん」


バランスを崩し、ブランネスウルフの頭部から落ちそうになるも、なんとかイブキがスライディングキャッチに成功。


「………………今度は、四人で倒せたね」


「ふふ、ですわね」


しょうがないと、あれは無理だと、全員解っていた。


それでも、途中まで戦っていたにもかかわらず、諦めなければならない状況に、大なり小なり悔しさを感じていた。


だが、今回……鬼竜・尖と戦った時と同じ面子で、Bランクモンスターであるブランネスウルフを討伐することが出来た。


「…………よし、っ!!」


「落ち着け、ガルフ」


ブランネスウルフという強敵を討伐出来た。

それをしっかりと確認したガルフは気合を入れ直し、別の場所へ向かおうとしたが……地面に膝を付いてしまう。


「で、でも」


「へいへいえ、俺には解らねぇけど、お前は今すぐに動いてエリヴェラたちも助けてぇんだろ。けどな……そんなヘロヘロの状態じゃあ、助けに行っても逆にお荷物になっちまうぞ」


「うっ……」


「残念ながら、この変態男の言う通りですわ、ガルフ」


「うおい、ちょと待て、デカパイ。誰が変態男だって」


「当然でしょう。あ、あんな下品なところを狙って」


上手く戦況を変えたと言えなくもない攻撃だった……そこはミシェラも認めてはいるが、それはそれとしてフィリップを変態男と言いたかった。


「ていうか、あなたまでなんて名前で呼びますの!!」


「うっせ!! 先にお前が言ってきたんだろうが! だ~~れが変態男だ!!! 寧ろ超ナイスな一撃だったろ!!!!」


イシュドやガルフと出会い、ここ約一年……何度も何度も戦闘を経験してきた中で、一番ナイスな攻撃が出来たと思っていたフィリップ。


その為、意外とそこを貶されたことに怒りを感じていた。


「……二人は置いときまして、ガルフ。参加しようにも、まずは魔力を回復しなければなりません。でなければ、フィリップの言う通りお荷物になってしまいます」


「…………うん、そうだね」


まだ、戦いは思わっていない。

褌を締め直さなければならないのだが……それでも、彼等には強敵を討伐した勝利を喜び、嚙み締める権利があった。







SIDE エリヴェラ、ステラ


「フッ!!!」


「ギャギャッ!!!!」


聖剣を振るうエリヴェラに対し、ゴブリンキングは自慢の戦斧に頑丈な岩石を纏っていた。


(っ!!! やはり……力では、向こうがやや上か)


互いに弾き飛ぶ結果となったが、エリヴェラの方がやや圧されてしまった。


「っ、ギギャ!!!」


「ッ!!!! ……判断が、早いですね」


双剣から複数の氷斬波を放つも、岩石の盾を丸盾に纏い、自身が凍り付くことを防ぐゴブリンキング。


氷属性は属性の中でも、雷と並んで厄介な属性とされている。

雷を敵を痺らせ、氷は体を固めてしまう。


なので、なるべく攻撃を躱し、躱せないのであれば何かで防がなければならない。


「……油断が過ぎるとは思いますけど、クリスティールさんとであれば、上手くやれると思っていたのですが……」


「えぇ、そうですね。私も良くないとは思っていましたが、エリヴェラ君と組めばと思っていましたが……思っていた以上に、堅いですね」


戦闘が始まって、約二分が経過。


エリヴェラとクリスティールも怪我を負っていないが、それはゴブリンキングも同じ。


聖光はモンスター全般に有効な属性ではあるが、ある程度の壁を纏われては、その効果も意味をなさない。


(予想以上であることは、認めなければならない。ただ……それでも、まだ早いでしょう)


熱くなり過ぎるには、まだ早い。

エリヴェラはクリスティールに耳打ちをし、これからの行動を伝えた。


「ッ!!!!!」


そうはさせまいと、ゴブリンキングが大振りで岩斬波を放つも、二人の元に届く前にはエリヴェラの考えはクリスティールに伝わり、二人はその場から跳んで回避。


クリスティールはグーサインで返答し、エリヴェラの考えに乗った。


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