第379話 倒したい

ブランネスウルフは……戦況を理解し、覚悟を決めた。


「ッ!!!!!!」


「ぅおい、おい!!!! 急に、荒々しく、ねぇか!!??」


相棒の同族だけではなく、自身の同族たちもかなり数が減っている。

つまり……群れが、全滅するかもしれない。


その可能性が高いと冷静に悟った。

そして、ブランネスウルフは決めた。


ここで、自分が死んでしまっても構わない。

ただ…………これからも自身が相棒だと決めた存在が、王であり続けるために……目の前の人間を、一人でも多く殺す。


「くっ!! どうなって、ますの!?」


動きが荒くなれば、それが隙に繋がる。

そう思い、ミシェラはブランネスウルフの戦闘スタイルが変わろうとも、冷静に見極めて旋風を纏った双剣を振るうが……ブランネスウルフは全く見えていないにもかかわらず、ミシェラの斬撃を躱した。


(瞳に、強い覚悟を、宿している……決して、自棄になった訳ではない、ようですね)


イブキは太刀で斬撃波を放ちながら、冷静にブランネスウルフの変化を観察する。


(ッ、また防がれましたか。死角だと、思ったのですが……やはり、ミシェラさんの斬撃だけではなく、フィリップの投擲も、躱している……もしや、視えている?)


未来が視えている……というのは、決して荒唐無稽な話ではない。


相手の動きが予想出来るからこそ、カウンターという攻撃が入る。

そして、この世界にはスキルといった特殊な力……モンスターが持つ特性と呼べる能力もある。


ほんの数秒先の未来が視えても……なんらおかしくない。


「ルゥアアアアッ!!!!!!」


「ぐっ!!!!!!!」


闇爪波に対して相殺や回避が間に合わず、防御を選択させられたイブキ。


決してタンクタイプではないため、なんとか転倒は防ぐことが出来たが、大きく後方に押されてしまう。


(嫌なタイミングを、見透かされましたね……やはり、そういうスキル、なのでしょうか)


それしか疑えない。

自身、ガルフ、フィリップ、ミシェラの四人を相手にしながら……ブランネスウルフは荒ぶり始めてから、まともに四人の攻撃を食らっていない。


だが……答えはノー。


ブランネスウルフというモンスターにそういった特性はなく、現在四人が戦っているブランネスウルフがそういった特殊なスキルを持っている訳でもない。


闇の巨狼は……ただ、自身の本能に従って戦っていた。

これまで蓄積されてきたモンスター、人間との戦闘の経験を元に反射で行動し、四人の動きに対応していた。


(おいおいおい、最後の最後で……って程でも、ねぇのに……クソが)


フィリップは、ブランネスウルフの動きがまるで追い詰められた獣の動きであるかのように感じた。


実際のところ、アドレアスの大胆な作戦によってライダーの数が減り、フィリップとイブキがガルフとミシェラの元に駆け付けたところで……ようやく五分。


ただ、ブランネスウルフとしては、このままいけば自分が死ぬ可能性が高いと判断した。

故に、死んでも目の前の人間たちをぶっ殺すと……一人でも多く殺すと決め手て動き始めた。


「僕が、止める!!! だから、皆は攻めて!!!!!」


もう……限界は近い。

それでも、ガルフはここまで来て他の者たちの助けを借りるつもりはない。


自身とフィリップと、ミシェラとイブキの四人の力で、目の前の強敵を倒したい。


「……わぁったよ! やるぞ、イブキ!! ミシェラ!!!」


ガルフの青く若く……熱い思いは、直ぐに伝播した。


「えぇ、勿論です」


「あなたに言われずとも、戦りますわよッ!!!!!!!」


仲間が熱くなれば、自ずと自身も熱くなる。

ミシェラは……今こそ発揮する時だと判断し、ほんの一瞬だけ攻めてイブキとフィリップに任せ、ランクの高いマジックポーションで魔力を補給し、完全回復。


「ふぅーーー……いきますわよ!!!!!」


ガソリンは、全快。

ボディの方も、まだ走れる。


「はぁああああああああああああああッ!!!!!!」


駆け、振るい、また駆け……また振るう。


大きく躱されようと、構わない。

凶爪が振るわれ、大きく後退させられようとも……再度駆け出し、何が何でも近づいて風刃を叩き込む。


何が何でも攻め続ける。

相手がスタミナの鬼である獣モンスターであろうと、心臓がはち切れても走り続け、刃を振るう。


(偶には、カッコ良いじゃ、ねぇの。ミシェラ!!)


フィリップはフィリップで珍しく心を熱く滾らせながらも、冷静にブランネスウルフの動きと……逐一自身との距離を把握していた。


(………………ここッ!!!!)


ブランネスウルフの体勢、自身との距離に……自身の投擲スピードを計算した上で、ここしかないというタイミングでフィリップは雷を纏わせたナイフをぶん投げた。


狙うは、眼。


ブランネスウルフがこれまでの戦闘経験を本能に変えて戦っていようとも、五感の一部を潰されてしまえば、動きがどうしても鈍る。


そこを、ここしかないタイミングで狙い、全力で投げナイフを投げた…………が、ブランネスウルフは身を捻りながら、片目を閉じ……なんとか軽傷でやり過ごした。


一部は切れ、血は流れるも、視界を潰すには至らなかった。


「ッ、ぬオラアアアッ!!!!!!!」


だが、フィリップという男は……基本的に自身の力を信用していなかった。


自分はイシュドほど、ガルフほど……ミシェラやイブキたちほど、真面目に強くなろうとしていない。

何かの為に、生きてきていない。


だからこそ、狙った攻撃が上手くいくなど考えていなかった。


「っ!!!!!!!???????」


「ぃよっしゃ!!!!!!!」


故に、フィリップは最初の投げナイフをぶん投げた後、そのまま一回転し……とっておきの投げナイフを手に持ち……ある場所に向かって投げた。


その場所とは…………ケツ穴。


心臓や脳、首とはまた違うが、人間やある程度のモンスターにとって、攻撃されたくない部分であるのは間違いない。


フィリップはブランネスウルフがどう回避するかまで計算に入れ……見事、狙い通り特注投げナイフをケツ穴にねじ込んだ。

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