第367話 禿げる

「ゴァアアアアッ!!!」


「っ、疾ッ!!!」


「ッ!!!!!!!!」


「おわっ!! クソ、危ねぇな!!!」


「油断しては、いけませんよ。フィリップ」


「っ!!!!!」


現在、三体のオーガと交戦中のイブキたち。


当然……今回の戦にも、イシュドは参加していなかった。


(……普通っちゃ、普通のオーガだな。これまでに遭遇したワイルドグリズリーやコボルトとかと違って、飢えは感じられねぇ……ここ最近、この辺りに流れてきた小規模の群れってところか)


イシュドたちやステラたちを襲うモンスターは主に二種類に分かれており、特に飢えを感じさせない個体と、あまり満足のいく食事を取れていないからこそ飢えによって狂暴性が増している個体。


片方は最近流れて来た個体であり、他は元から腰を下ろしていた個体と予想している。


「ねぇ、イシュド。僕は本当に戦わなくて良いの?」


「お前としちゃ心苦しいかもしれんが、現状このパーティーの一番の盾はお前だ、ガルフ。だが、俺たちが狙っている連中とぶつかれば、常に全員を守れるわけじゃねぇ。だから、イブキたちとしても常にガルフが守ってくれるわけじゃねぇって状況に慣れて置かなきゃならねぇんだ」


「な、なるほど……」


ガルフとしても、自分の力でどこまで出来るかはある程度把握しているため、「いや、それでも僕はどんな状況でも皆を守るよ!!!!」とは言わなかった。


その反応は、イシュドとしても好ましかった。


(つっても、ガルフはガルフで純粋なタンクって訳じゃねぇからなぁ~~~……ステラたちも含めて、まさかの十三人いてまともなタンクが一人もいない問題……そう考えると、ちと不安が残るな)


以前までイシュドの回りにいた戦闘者たちは、アタッカーであっても大剣や大斧、ハンマー使いが多くいたため、タンクが本職ではなくとも、体格的にタンクの代わりが出来る者がかなりいた。


だが、現在行動しているイシュドを除いたメンバーの中だと……体格的にはパオロが出来なくもないが、技術力が微妙なところ。


「…………まっ、当日はフィリップにがっつり働いてもらえばなんとかなるだろう」


「そうだね。多分、頼っちゃうよね」


敵を早く倒すのであれば、どうしてもフィリップの働きに頼ることになってしまうというのは、ガルフも理解はしていた。


「あん?」


そろそろオーガ三体とイブキたちの戦いが終わる……そういったタイミングで、イシュドは山が見える方面から、視線を感じ取った。


(……チっ、勘違いじゃなかったか)


数秒間、冷静に把握しようとし……ただの勘違いではないと気付いたイシュド。

アイテムリングから即座に使い捨ての短剣を取り出し、視線の主へ向かってぶん投げた。


「フンッ!!!!!!!!!!!!」


距離が距離であるため、イシュドは身体強化や投擲のスキルを使用。

全身に魔力を纏って更に強化した状態で投げた結果……数秒後には何かが弾ける音が響き渡った。





「なぁ、イシュド。なんかあったのか?」


無事にオーガを討伐し終えたフィリップ。

解体をミシェラたちに任せ、待機していたイシュドがいきなり取った行動について尋ねた。


「いや、こっちを見られてた気がしてな」


「へぇ~~~~、命知らずな奴もいたもんだな。んで、人間だったのか? それともモンスター?」


「……どっちかは解らねぇ」


「おろ、マジか。そんなバカ遠い距離から見られてたのか?」


「あぁ。本気で予想外の距離から見てやがった」


そう言いながら、イシュドは一部が禿げているのが見える場所を指さす。


「あの禿げてるところから見てやがった」


「………………マジ?」


思わずフィリップが聞き換えてしまうほど、離れた場所。

目を凝らせばなんとか禿げているのが見えるものの、監視や視力強化系のスキルを使ったとしても、容易に把握出来る距離ではない。


「マジだ。最初は疑った、どうやらマジだったみてぇだ」


「……ってことは、マジックアイテムを使ってた人間ってことか」


「おそらく、モンスターではないでしょうか」


「いや、でもあれじゃないっすか。鳥獣系のモンスターならともかく、山の中に隠れてたんなら、普通のモンスターには無理じゃないっすかね」


「人間がこちらを見ていれば、直ぐにイシュド君がその存在に気付いたかと」


戦闘能力の面だけではなく、クリスティールの中では感知力の面に関しても自分たちの中ではまだイシュドが上だと認識している。


オーガ三体との戦闘が始まってから見られていれば、イシュドが気付かない訳がないというのが、クリスティールの考え。

その考えに対し、フィリップも解らなくはないが、まだ捨てきれない予想があった。


「最後の方だけ偶々見たって場合もあるじゃないっすか」


「そうですね。そういう場合もあるでしょう……では、イシュド君はどちらの可能性が高いと思いますか」


「……もう、これに関しちゃぁマジで感覚的な話だが、さっき視られた視線は……どこか、無理してるように感じた」


「無理を、してる?」


あまりにも予想外で、どういう意味か解らない言葉に、理解力が高いフィリップもさすがに首を傾げる。


「偶に、会得してるスキルのレベル以上の力を引き出せる奴がいるんだよ」


スキルは、基本的にスキルレベルに適した効果までしか発揮しない。


だが、世界には稀に、その枠を越えた力を発揮する者がいる。


「詳しい事は解りませんが、肉体の限界を越えた力を引き出すのとは、また違うのですか?」


「個人的には、その感覚で合ってると思うぜ。普段引き出してる全力以上の全力を引き出せた経験なら何度かあるが、スキルに関してはそのスキルレベル以上の効力を発揮できた試しがない」


イシュドは自分の経験則で語っているのではなく、兄弟姉妹やレグラ家に仕えている騎士たちの経験則も交えているため、決してイシュド個人の憶測という訳ではない。


「俺が知ってる話じゃあ、それをすれば普段使う時に消費する魔力の倍から数倍……場合によっては十倍以上消費する。後は、目とか鼻、耳から血が出たりとかか?」


「っ、なんつーか、本当に限界を越えてるって感じだな」


「同意見ですね。それでは、ほんの一瞬ではありますけど、こちらを見ていた存在は、モンスターである可能性も否定出来ないと考えて良さそうですね」


「…………てかさ、あんだけ禿げるほどの何かをぶん投げたんだったら、見てたモンスターか人間も死んでるんじゃねぇの?」


「さぁ、どうだろうな。それだったら良いけど、それなりに距離があったからな~~~」


「「…………」」


それなりに距離があった。

それは間違いないのだが、そんな距離まで届く投擲を行え、一部を禿げさせる威力の攻撃から標的が逃げられるとは思えない二人だった。

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