第351話 気になる懐

「っと、戻って来たみてぇだな」


ミシェラが差別意識のある冒険者たちに対してブチ切れていると、ようやくガルフたちが戻ってきた。


「ただい、ま…………え、えっと……イシュド。もしかしてまたミシェラさんと喧嘩した?」


「別に喧嘩なんかしてねぇぜ。ただ、なんで俺が冒険者ギルドにガルフとエリヴェラを向かわせたのか、その理由を話しただけだよ」


「僕とエリヴェラを向かわせた理由…………………………………あぁ、なるほど。なんとかく解ったかも」


十秒以上じっくりと考え、ガルフはイシュドが口にした理由をある程度把握し……何故女性陣からやや負のオーラが零れているのかについて、納得した。


「そういうこった。つか、中では何もなかったっすか?」


「問題無かったよ。何人かの冒険者たちがこっちに何か言いたげな視線を向けてきたけど、結局陰口を口にすることもなかった」


「エリヴェラとガルフ君も良い感じの雰囲気を零してくれてたしな」


「へぇ~~~、そりゃ良かった良かった」


イシュドはそういった面倒事を笑って迎え入れるが、これから依頼に向けて動くことを考えれば、タイムロスはなるべく避けたいところ。


「んじゃ、予定通り陰からお願いシャス」


その言葉が合図となり、シドウたちは各々のやり方で気配を消し、距離を取る。


あまりにもあっさりと気配を消し、姿を隠したシドウたちに驚きながらも、イシュドたちはそのまま街を出発し、ウルフ系モンスターに跨るゴブリンたちの討伐に向かった。




「なぁ、イシュド」


「なんだ、フィリップ」


出発してから約十分後、フィリップはふと頭の中に浮かんだことをイシュドに尋ねた。


「シドウ先生たちが基本的に手を出さないように、姿や存在を消すのは当然だと思うけどよ、俺らもこんだけ固まってても良いのか?」


イシュドたち七人と、エリヴェラたち六人……計十三で現在行動している。


一般的な冒険者たちのパーティー人数が四人か五人。

多くても六人か七人というのを考えると、あまりにも大規模な人数である。


「あんまり行動してる人数が多けりゃ、ゴブリンやウルフ系モンスターたちも俺らを狙ってこないだろ」


フィリップとしては、いきなり最終決戦を行うのではなく、ボスたち含むその他大勢と戦う前にある程度数を削っておきたい。


その方が自身の負担が減るという魂胆もあるが……それでも、フィリップの考え自体は間違っていなかった。


「それもそうだな。つっても、別れたら別れたでなんかあった時に連絡手段がなぁ…………いや、待てよ。そういえば……」


何を思い出したのか、イシュドはアイテムバッグの中に勢い良く手を突っ込んだ。


「あったあった」


「っ、イシュド君、それは……通信用の水晶玉、でしょうか」


「そうっすよ。改良型ではあるっすけどね」


改良型と聞いて、ミシェラやヨセフが頭が痛くなるも、とりあえず今はその事に関してツッコまなかった。


「小型なだけじゃなくて、魔力を更に消費すれば、片方を持ってる相手の居場所も解るんすよ」


「ねぇイシュド、もしかして距離に限界はない感じ?」


「距離が長くなれば長くなるほど消費する魔力量が増えるけど、そこに目を瞑ればどこまでもって感じだな」


「「「「「「「…………………………」」」」」」」


基本的にダンジョン産の通信用水晶などは、通信できる距離が非常に長い。


しかし、国を跨いでの通信となると、トップレベルの品質を持つ物でなければ行えない。


(改良の手を加えて、そこに関しての性能も半端ではない…………これを造った錬金術師の方が、どういった方なのか気になるね)


ステラも、通信用のマジックアイテムがどれだけ効果であるかは知っており、そこに改良が加えるとなれば……魔法の絨毯の様に、一度で成功する訳がないのは容易に想像出来てしまう。


「んじゃあ、チーム分けはどうする。やり易さを考えるなら、学園単位で別れた方が良いんじゃねぇかと思うが」


「……私はそれで構わないかな」


「そうですね。私もそれで良いかと」


ステラ、クリスティールのツートップが納得。

イシュドは小型水晶をステラに渡し……一番気配を感じ取れた護衛者に向けて、これから自分たちは別れて行動すると……通信手段はあるとジェスチャーで伝えた。


(なるほどなるほどのぅ……あまり学生に詮索するような内容ではないが、イシュドの懐にはいったいどれほどの財があるのか気になってしまうな)


タンクを努める聖騎士はフランガルたちに事情を伝える。

フランガルたちもイシュドたちの人数の多さはそれなりに気になっていたため、特に渋ることはなく了承。


ただ……タンクの聖騎士と同じく、大半の者たちがイシュドの懐はいったいどうなってるのか本気で気になってしまった。




「…………」


「ミシェラ、心配そうな顔をしていますが……」


「っ、なんでもありませんわ、イブキ」


フラベルト学園組、アンジェーロ学園組と別れて探索を開始してから約五分後、ミシェラは薄っすらと顔に心配の色が浮かんでいた。


「おいおい、早速あいつらの心配をするとか、ミシェラは余裕だな~~~~」


「そ、そんなつもりじゃありませんわ!!! ですが……」


「もし、最悪の予想が当たっていて、エリヴェラ君たちがAランクモンスターと遭遇したらって思ったんですよね、ミシェラさん」


「っ…………そうですわね。ガルフの言う通り、ほんの少しだけその心配をしてましたわ」


ガルフにズバリ言い当てられ、ミシェラは大人しくエリヴェラたちの事を心配に思っていたことを白状した。


「なぁミシェラ、お前護衛者の人たちが隠れて見守ってくれてんの忘れたのか? Bランクモンスターの急襲とかならともかく、Aランクモンスターが仕掛けて来たら、あの人たちが直ぐに対応するに決まってんだろ」


「忘れてはいませんわ。ただ、それはそれとして心配に思ってしまうものですわ」


「…………別に心配すんのは構わねぇけど、そればっかり気にし過ぎて下手な戦いすんなよ、デカパイ」


イシュドが珍しくバカにする様なツッコミをしなかった。


本当に珍しかったのか、ミシェラは何度も目を瞬きしながら驚きを隠せなかった。

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