第350話 そういうタイプもいる
「……イシュド、少々お酒臭いのではなくて?」
「ん? あぁ、昨日ちょっと呑んだからな」
朝食時、非難めいた視線を向けるミシェラに対し、イシュドは悪びれる様子は一切なく、夕食後に呑んだと答えた。
「安心しろって。別に二日酔いじゃねぇからよ」
「そういう問題ではありませんわ。全く……隊のトップがそんなのでどうしますの」
「…………………」
「? なんですの、その変な顔は」
「いや、デカパイが俺を隊のトップだって素直に口にするのが意外だったからよ」
今のところ、いざ本番が始まればクリスティールとステラがツートップとなって戦う。
しかし、実際のところ……隊のトップはクリスティールとステラの二人ではなく、イシュドであるという考えを持っているのは、ミシェラだけではなかった。
「……あなたを倒せるイメージが思い浮かべばまだしも、まだ思い浮かびませんの」
「だろうな。けど、そんな理由で認めんだな」
理由としては、一理ある内容。
だが、あのミシェラがそれだけの理由で納得、認めるとは思えない。
「あなたの場合、その実力で全てをひっくり返すでしょう。それも……トップとしての一つの形だと思っただけですわ」
隊のメンバーを上手く纏め、最適な指示を飛ばして勝利に導く。
イシュドは全くもってそういったタイプではない。
圧倒的な力で纏め……場合によっては、無理矢理戦場の盤面をひっくり返し、勝利に導く。
イシュドと出会う前までのミシェラであれば、その様な形のトップ、リーダーなど認めることはなかった。
絶対に美しさや優雅さなどを求めることはないが、それでもあり得ないと即座に切り捨てていた。
「……ちっとは、柔らかい頭を持つようになったんじゃねぇの」
「刃は鋭くし、いずれあなたをぶった斬りますわ」
「なっはっは!!! やれるもんなやってみろ。返り討ちにしてやるからよ」
二人の会話を聞いて、相変わらずだなと……逆に微笑ましさを感じるガルフたち。
対し、イシュドたちと知り合ってまだ一か月も経っていないエリヴェラたちは……おそらくこれも一つの友情の形なのだろうと、無理矢理納得していた。
そして、まだ全然イシュドたちの関係性などを知らないフランガルたちは、二人のやり取りを見て思わず目が点になった。
「本当に、行かなくても良いのか?」
朝食を食べ終えた後、イシュドたちは宿を出て標的を狩りに行く。
イシュドとしては、そのまま街を出て森に入っても良いと思っていたが、フランガルは冒険者ギルドで情報を得なくて良いのかと訊いた。
「話が通じる奴は偶にいるっすけど、ぶっちゃけあんまり通じない奴の方が多いっすからね」
「なぁ、イシュド。んじゃあイシュドと……シドウ先生とかだけでギルドに行けば大丈夫なんじゃねぇの?」
「あぁ~~~~…………って、俺がそういうのに言ってもあんまり意味ねぇだろ」
しかし、少人数で行けばあまりバカ絡みされないというフィリップの意見には同意だったイシュド。
「だから……あれだな。ガルフとエリヴェラの二人と、シドウ先生とクルト先生が行けば問題ねぇだろ」
「俺は構わないよ。ねっ、クルト先生」
「まぁ~、それぐらいな良いっすけど」
保護者組は直ぐに了承し、自分たちが受けた依頼ということもあり、ガルフとエリヴェラが断ることはなかった。
そして一行は冒険者ギルドへ移動し、四人だけが中に入った。
「……イシュド。どうして私たちでは駄目ですの」
「ん? そんなの、絶対に面倒なバカが絡んでくるからに決まってんだろ」
「どうして、絶対と言えますの」
「………………なんでだろうな」
絶対と断言したイシュドだったが、パッと根拠になりそうな内容が思い浮かばず、まさかの流れにミシェラたちはズッコケそうになった。
「あ、あなたね~~~……普段はもう少し、ある程度の理由を持って喋ってるでしょう」
「んなの知らねぇよ。まぁ、簡単に思い浮かぶ理由つったら、そりゃやっぱりデカパイたちが女だからだろ」
女性差別だ!!!! と、今しがたイシュドが発した言葉を聞けば、叫ぶ者がいるだろ。
あくまでイシュドは女性差別をしていないが……バカが絡む者たちの根底には、そういった差別意識があると言っても過言ではない。
「…………」
「俺は睨んだところで、なんも起きねぇぞ」
「そういった方々は、やはり女性には負けたくないという意識が強いのですか、イシュド君」
「だと思うっすよ、会長パイセン。後は……貴族令嬢だからってのもあんだろうな」
「そこに関しては、全く解りませんわね!」
ぷりぷりと怒りを発散させるミシェラ。
そこに関しては、ヨセフやローザたち、ステラたちも大なり小なり同じ感想を持っていた。
「…………ガルフなら、って今ギルドの中に言ってんだったな……俺の勝手な考えだが、冒険者として活動してる連中からすれば、なんでてめぇらがこっちに来るんだって思ってんだろ」
「こっちに?」
「……冒険者や騎士、戦う者たちの領分へ、ということか」
「そういう事っす」
女性ではないが、フランガルは直ぐにイシュドがバカと呼ぶ者たちの気持ちを、ほんの少しだけ察した。
「……もう少し、詳しく教えてほしいですわ」
「向こうからすれば、なんで嫁に行って悠々自適な生活を送れる奴が、なんで俺たち戦闘者の領域に来るんだよ、邪魔んだよ帰れよ……って思うんだろ」
「平民出身の冒険者からすれば、特に同世代の奴らとかからすればスタートダッシュがズルいだろって叫びたくなる……って感じか?」
「そういう認識で合ってると思うぜ、フィリップ。そこに関しては令嬢も令息も関係ねぇけど、あんまり自分に自身がなかったり良い意味でのプライドとかない連中からしたら、女が男の領分に入ってくるんじゃねぇって叫びたいんだろうな」
「…………ぶった斬りたいですわね」
何を、とはツッコまなかったイシュドだが、ミシェラの冷たい冷たい眼が……ヨセフたちの股間をヒュン! とさせた。
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