第349話 サイクルあっての強さ
「Bランクモンスターが三体……それ相応の実力を持つ個体も含めれば四体……もしくはそれ以上か…………やはり、それだけでも中々難しい依頼だな」
ゆっくりとワインを口に含み、その味を楽しみながらも……表情には、ほんの少し渋さが現れていた。
「学生たちが受ける難易度の依頼じゃあ、ないんでしょうね」
「……それでも、イシュド君はエリヴェラ君やガルフ君たちであればなんとか出来ると、信じているのだな」
「まぁ、そうっすね。そこまでなら自然的なイレギュラーでしょうし、あいつらがこの先強くなるなら、乗り越えなきゃいけない試練でもあるっすからね」
試練、イレギュラーの一つとして、ガルフたちは以前……調査以来の最中に出会った鬼竜・尖というモンスターと激突した。
あれは圧倒的な個との激突という理不尽との遭遇であり、最終的に自身の体の構造を武器にした操作によって、更に四人に理不尽とはどういうものかを思い知らせた。
(あぁいうイレギュラーを体験するのも必要だが、強ぇ連中が複数いるってイレギュラー、理不尽と戦うのも、壁を越える為の試練だよな~~~)
イシュド的には、一体一体の実力であれば、今のガルフたちであればよっぽどレベルが高い相手でなければ負けないであろうと思っている。
だが、その数が複数となれば、また話が変わってくる。
「教師、教官としての視点からすれば、その考えは正しいのだろうな……実際に、どういったパターンで増えると思う」
「……ゴブリンの群れ、もしくはウルフ系モンスターの群れから新たにBランクモンスターが生まれるパターンじゃないっすかね」
「やはりその可能性が一番高いか」
「そっすね。他のパターンも可能性はありそうっすけど……一番面倒なのは、第三のモンスターが合流するパターンっすね」
「同感だな…………私の経験からしても、それは絶対にあり得ないとは言えない」
三種のモンスターが群れをつくり、行動する。
そういった例は決して多くないものの、どの国でも何度かは確認されている。
「……では、生徒たちが関わらない範囲でのイレギュラーは……どうなると思う。私としては、その気がある者が行動を起こすのであれば、Aランクモンスターをどうにかして投入してくると思っている」
「全然あり得そうっすよね~~。てか、裏の人間とか、変装した人間とかが来るんじゃなくて、モンスターを使うあたりが厭らしいっつーか狡猾っつーか……間違ってないと思うけど、って感じっすよね」
「ふふ、そうだな……しかし、本当にそういった事が起こった場合、一体は任せても良いのだな」
「勿論っすよ。エリヴェラたちとの訓練は楽しいっすけど、それはそれでこれはこれって感じで結構溜まってたんで」
本気で言っている。
戦闘欲がかなり溜まってきているから、是非ともAランクモンスターと戦いたいと……本気で口にしている。
改めてその考えを聞き、フランガルは小さく頷き、了承した。
「解った。一体は任せよう……とはいえ、人為的にイレギュラーを起こしたとしても、Aランクモンスターレベルの怪物を特定の場所に移動させるのは一体が限界だと思うが」
「そこら辺の技術とかスキルとかアイテムとかは詳しくないっすけど、Aランクモンスターの戦闘力的に難しそうではあるっすよね…………つか、仮にそういう手段を使ってきたとしても、本当にそいつらは俺を殺すことが出来ると思ってるんすかね。ほら、フランガルさんたちもいるって考えて」
バトレア王国と……正確にはレグラ家の人間と争いたくなければ、アンジェーロ学園の上層部がそうならないように動く。
レグラ家を、イシュドという人間を良く思っていない者たちであっても、その辺りは理解出来る。
だからこそ、仮にそれを実行しようとしたとしても、別の目的があるのでは? という疑問がふと頭の中に浮かんだイシュド。
「…………そうだな。しかし……むぅ…………そうなると、レグラ家出身のイシュド君の実力を正確に測りたいのか……それとも、ロブスト学園長の評判に傷を付けたいのか……そういった目的を持っての行動という可能性もありそうだな」
「あぁ~~~、なるほどなるほど~~。俺の正確な実力ねぇ~~~~……俺的には、んなの知ったところでどうすんだって感じっすけどね」
イシュドは……エリヴェラやステラたちといったアンジェーロ学園の一部の学生を気に入った。
いつか彼らが成長した時、本気でぶつかり合いたいと思っている。
だがしかし……今回の交流会が終了すれば、イシュドは当分の間、エリスティール神聖国を訪れるつもりはない。
なので、現時点でのイシュドの戦闘力を把握したとしても、無意味に終わる可能性が高い。
「どうかな。今回の交流会で、イシュド君はエリヴェラ君たちに君なりの強くなる為の訓練を施してくれただろう」
「俺なりのっつーか……まぁ、あいつらの反応的に知らない訓練内容だったんでしょうけど」
「であろう。それが、君の様な戦士を生み出す方法なのかと……それが知れるだけでも有益だと考える者がいてもおかしくない」
「ほ~~~ん…………その為にAランクモンスターをけしかけてくるってのもあれっすけど……無理だと思うけどな~~~~~~~」
フランガルの予想に一定の理解は示すものの、イシュドは権力者が考えているであろう目的をバッサリと切り捨てる。
「……一応、そう思う理由を尋ねても良いだろうか」
「良いっすよ。うちはマジで土地が土地なんで、それこそ戦闘職じゃない人間でも多少戦えたりするんすよ。けど、それって多分普通ではないじゃないっすか」
「そうだな」
「んで、うちの実家に仕えてくれてる騎士たちとか……街を出て俺が感じた感想っすけど、多分結構無茶してくれてるんすよ。けど、それを他の奴らが真似すれば……不満が零れるんじゃないっすかね。後、普通に実戦の最中に死んでもおかしくなさそうだし」
レグラ家には実戦相手となる大量のモンスターが領地にいて、仕えている騎士たちはそのモンスターたちの脅威に領民たちが怯えないように、強くなろうとする意識が高い。
そして訓練中であっても怪我をすることが多い者たちの傷を治す為に、回復魔法が使える者たちの腕も必然的に向上していく。
レグラ家にはある種のサイクルが完成されているからこそ、異次元の戦闘集団に至ったとも言える。
「……その環境が良いと捉えるか、悪いと捉えるか……それは、個人の判断によりそうだな」
「でしょ。だから、あれこれ知ったところでって話っすよ」
反論できる隙間が一切なく、フランガルはもしかしたら何かしようとしている連中の苦労が……逆に可哀想だと、ほんの少しだけ感じた。
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