第352話 やれる事をやる

SIDE アンジェーロ学園メンバー


「「…………」」


イシュドたちと別行動をすることになったアンジェーロ学園の面々。


ステラ、レオナといった学園に来た依頼を受け、モンスターを討伐することに慣れている面々は普段通りの様子で森の中を探索しているが、ヨセフとローザの二人はやや表情が固くなっていた。


「ヨセフ、ローザ。緊張感を持ち続けるのも重要だが、あまり固くなっていると、対応出来る攻撃も対応出来なくなるぞ」


「ッ、はい……パオロさん」


その通りだと返事は返すものの、そう簡単に緊張感は取れない。


「へいへい、二人とも今からそんなに緊張してたら、最後まで持たないよ!」


レオナも偶には先輩らしい事を言おうと思い、二人に声を掛けるも……やはり表情は強張ったまま。


(? 別に二人は弱っちくないのになんであんな…………あぁ~~~、そういえばヨセフとローザは、あの討伐依頼にいたんだったな)


アンジェーロ学園はフラベルト学園と同じく、基本的に一年生の間は学園に来た依頼を受けることは出来ない。


しかし、一年生の中で既に聖騎士の職に就いているエリヴェラは、イシュドたちと同じく例外として依頼を受けることが出来た。

そんな中、自分たちもと教師たちに進言した生徒たちが現れ…………教師たちも進言した生徒たちの気持ちも解らなくはなかったため、考えに考え……現実を感じてもらうのとプラス、聖騎士に就いているエリヴェラの実力であれば対処出来る討伐対象を選定。


教師たちは話し合いに話し合いを重ね、それは実現することとなった。


だが、イレギュラーは時と場合を選ばずに現れる。

元々影すら確認されていなかったBランクモンスター、ジャイアントリザードと遭遇してしまい、ヨセフたちはその存在感に圧倒された。


結果としてエリヴェラが一人で討伐することに成功するも、限界ギリギリの状態にまで追い込まれた。


その経験が、今回の標的の強さもあって、二人に必要以上の緊張感を与えていた。


「ヨセフ、ローザ。今回の依頼は、色んな意味で当別です」


「「っ!!」」


「見方によっては……いえ、そうですね。隠さずに言えば、護られた状態での戦い、依頼です。他の方々が聞けば、笑われてもおかしくない」


ステラの言う通り、彼女たちはフランガルたち護衛者だけではなく、影の者たちからも見守られている。

ステラたちの手に負えない予想外の事態が接近すれば、事前に彼らが対応する。


どれだけ過保護なのだと……教師たちの中で反対意見があったのも頷ける対策。


それはステラも重々理解している。

だが……だからこそ、目を逸らせない目的が生まれる。


「ですが、それ故に……イシュドが手を出さないと、そう決めた戦いでは……私たちは絶対に勝利し、生き残らなければならない」


「予想じゃあBランクが二体らしいけど、ぶっちゃけクリスティールたちの戦力も考えれば、もう二体増えても文句は言えないって感じだね~~」


「…………部下のゴブリンたちを含めても、そうでしょうね」


レオナの考えに、パオロはほんの少し考え込むも、そこまでであればステラの言う通り、自分たちだけでなんとかしなければならないラインだと思った。


「過去の行動を悔いるのは悪いことではありません。寧ろ、その気持ちがなければ成長に繋がらない」


「「…………」」


ステラも過去に一年生たちの行動によって起こった件を知っている。

基本的に背中を追われる側のステラではあるが、聖なる騎士を目指す者として早く私もという気持ちは持っているため、ヨセフとローザを含む当時の一年生たちの気持ちをバッサリと切り捨てるつもりはない。


「ですが、必要以上に怯えてしまっては、それから二人が積み重ねてきた努力の成果を見せることが出来ません」


「調子に乗らず、やれる事をやれば良いって話よ。自分がどれだけやれるかってのは、ここ数日で嫌ってほど解かったでしょ」


「えぇ、それはもう……心底、理解しました」


まだ、体はジャイアントリザードから受けた圧を、恐怖を覚えている。


しかし、ここ最近であった異国の同学年に……それを越える理解不能な怪物がいた。

妬み、怒り、衝突し……本能が理解してしまった。

そこから真っ当に関わり、教わり、納得していくも……「いやいや、だからって普通はそこまで強くなれないだろ!!!」とツッコみたくなる存在。


そんな存在が持つ圧を思い出し……過去の感覚が上書きされていく。


「んじゃ、もう大丈夫でしょ。まぁ、まだ二人の中に恐怖が残ってたとしても、うちらがちゃんと守ってやるからさ」


「「ッ!!!! …………」」


ありがとうございます……と、ヨセフとローザは馬鹿正直に礼を口にすることはなく、代わりに大きく深呼吸を始めた。


レオナほどの実力を持つ先輩が、守ってやると言ってくれた……その言葉に、二人は確かに安心感を得た。

だが、瞬時にそれでは駄目だと、自分たちは何のためにここに来たのだと、己の魂に問いかける。


戦況次第では、そういった流れになってしまうのは致し方ない。

レオナとしても、必死で前に進もうとしている後輩たちを無残に死なせたくはない。


しかし……守られることを前提で戦っていれば、例えステラの言う通り積み重ねてきた努力を発揮しようとも……本当の意味で発揮することは出来ない。


(現実は、忘れない。それでも、先輩方にただただ守られるようでは、成長したとは言えない!!!!!!)


(私は魔法使い……守られる代わりに、守らなければならない!!!!!)


二人の心に、確かに火が付いた。


二人とも、今の状態であの時に戻ったとしても、絶対に役立つなど口に出来ない。

それでも…………あの頃より自分の力に自信を持てるようになった。


そして今日、今回の依頼で……更に前へ進む。

そう決めた二人の表情には、良い意味で緊張感が残されていた。

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