第346話 確実に育っている
(…………悔しいけど、正論……なんだろうな)
二次職で聖騎士に就いた一年生、エリヴェラはゆっくりと食事の手を動かす。
そんな中、彼の表情には明らかに悔しさが浮かんでいた。
エリヴェラはイシュドと試合を行った際、これまで完璧に発動出来なかった聖剣技、ペンタグラムを発動することに成功した。
その後、イシュドたちとの訓練外でも鍛錬を重ね、完全にペンタグラムを成功させるに至った。
二次職ではあるが、聖騎士の職に就いてる彼は立派な戦力である、聖剣技のスキルレベルが四にまで至っているため、攻撃力に関しては十分過ぎるほど役立つ。
しかし、イシュドたちとの交流会で着実に技術を高め、感覚を養ったエリヴェラではあるが……ジャイアントリザードとの戦闘したい際と同じく、一人でBランクモンスターと戦おうとすれば、勝つにしろ負けるにしろ、ギリギリの戦いになるのは必至。
個体によっては、為す術なく負ける可能性も十分にあり得る。
「……イシュド君の言う通り、君たちの表情には頼もしさすら感じる」
「そうだのう。次世代の芽は、確実に育っていると感じられる。いつでも次の世代にバトンを渡すことが出来る」
「後十年は現役はいられそうなのに何言ってるんすか。つっても、自分も似た様な思いはあるっすけどね」
「私もだけど、あんたもそういう事を言うのはまだ早いよ」
フランガルたちの言葉に、嘘偽りはなく、心の底から自分たちの次の……もしくはそのまた次の世代たちは問題ないと……安心して任せられると感じていた。
「だからこそ、私たちは君たちを守らなければならない」
「フランガルの言う通りだのう。それに、Aランクモンスターというのは……解り易い例で言うなら、お主たちがここ数日間何度も戦っていたイシュドに挑むのと同じだ」
イシュドに挑む……倒す、討伐しなければならない。
頼れるタンクの騎士にそう言われ、ステラたちはすぐさま考え込んだ。
自分たちが本当にその気になり、イシュドに挑んだ場合どうなるか。
(…………いやいやいや、無理ってもんでしょ。思わず考えちまったけど、考えるのもバカらしいってもんよ)
もう何度もイシュドが戦う姿を見てきた。
戦いらしい戦いかと聞かれれば答えに困るが、イシュドが本気で亜神に挑む姿を見たことがある。
フィリップも冷静に振り返り、イシュドと出会ってから自分の実力が上がったという自覚はある。
それでも……自分だけではなく、ガルフやクリスティールにイブキたちや、エリヴェラたちの力を合わせても……あの大怪獣に勝てるビジョンが一切見えない。
(イシュドが防がなきゃならねぇ攻撃をどれだけ叩き込めるかがカギなんだろうけど……クリスティールパイセンにエリヴェラ、ステラパイセンにレオナパイセン辺りの攻撃が刺さるか。つっても……まずそもそも体にでも武器にでも当てられなきゃ話にならねぇんだよな…………うん、やっぱ無理無理、考えるだけ無駄だ)
狂戦士と言えば、やはりそのパワーが注目される。
勿論、フィリップもイシュドのパワーが半端ではないことは良く知っている。
だが、イシュドは決してパワーだけの狂戦士ではない。
純粋に全体的な身体能力が高く、スピードも並ではない。
加えて、一対複数での戦闘技術、周囲の確認や感知力も並外れているため、初歩の初歩である攻撃を当てることが出来るか……そこが課題となってしまう。
(Aランクモンスターは……おそらく、イシュド君ほどの知能や戦闘技術はない。それでも……………………ふぅーーーーーー。そうですね……まず、自身の攻撃が通るビジョンが浮かばなければ、話しになりませんね)
クリスティールも真剣に考えた。
実際問題はイシュドに挑むわけではないと考えても……以前イシュドの実家周辺の領地で遭遇したAランクモンスターを思い出し、改めてその壁の大きさを思い知らされた。
「はっはっは!! 無理だろう」
「……そうですね。上手く戦える光景すら、イメージ出来ません」
そう答えたのはステラだった。
フィリップやクリスティールたちと同じくどう戦えばとイメージしたものの、結果は無残なものであった。
「まっ、でもあれだぜ。そうなったらそうなったらで、それ以外のゴブリンとかウルフ系モンスターの対処は全部ステラたちに任せるぜ。それぐらいなら大丈夫だろ」
「イシュド君~~~。仮にロードがいる場合、複数のBランクモンスターがいるかもしれないから、Aランク以外を全部任せるのは無理だよ~~」
「えぇ~~~~……あぁ~~~、そうか……それもそうか」
レグラ家周辺に生息しているBランクモンスターの強さは、他の領地に生息しているBランクモンスターと比べてやや強い傾向があるも、それでも今のガルフたちにとってはどちらも強敵であることに変わりはない。
(オークパラディンとか、そういうレベルの奴がいるって考えっと……ロードがいる状況なら、更に強くなるんだよな…………さすがに全部任せんのはあれか)
学園に入学するまでの戦闘人生で、イシュドは一度だけロードの名を冠するモンスターと遭遇したことがある。
当然、そのロードは同種の部下を多く抱えており、部下たちはロードからのバフにより、戦闘力が二割から三割が上昇。
ロードという単体でも超脅威な難敵がいるため、その時はイシュドも戦闘を楽しむことを止め、殺すことだけを意識して戦い続けた。
「……いや、イシュド」
「ん?」
「手を貸すのは……ギリギリまで、待ってほしい」
イシュドやアリンダたちの考えに待ったをかけたのは、ガルフ。
「イシュドたちが言ってることは、正しいのは……解ってる。僕はイシュドと出会って強くなったと思うけど、それでも……想定する最悪に挑むには、まだまだ足りないことも解ってる」
強く……強く、強く拳を握りしめ、ガルフは真っすぐイシュドの顔を見て、口を開いた。
「それでも、護られることが当たり前だと思っていたら、本当の意味で強くなれなくなってしまう」
親友の思い、戦意、覚悟を知ったイシュドは……先程まで以上に、良い笑みを浮かべ、その気持ちを受け入れた。
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