第347話 圧倒的な中衛

「ふっふっふ……良いんじゃねぇの。旅ってもんじゃねぇが、そういうのを体験してもらわなきゃ、本当の意味で強くならねぇからな」


(旅……もしかして、可愛い子には旅をさせよって意味? イシュドは本当に大和のことを良く知ってるのね)


イブキとシドウだけが、正確にイシュドが何を言いたいのか理解する中、教師陣と護衛陣は……待ったをかけた。


「ねぇ、イシュド君。その気持ちは解らなくもないけど、仮に想定しうる最悪が起きてしまった場合、ガルフ君たちは本当に死んでしまう可能性が高いの」


「でしょうね。だから、俺はガルフたちの意志を尊重するっす。アリンダ先生たちにまでそれを強制はしないっすよ」


今回の依頼を受け、結果……死者が出てしまった場合、一番責任を負うのはアンジェーロ学園の学園長。

それは間違いないが、フラベルト学園の生徒の誰かが死んでしまった場合は監督責任として、アリンダとシドウに責任が発生する。

勿論、それはシドウも理解している。


「アリンダ先生たちにも立場があるってのは解ってるっすよ。でも、俺はあくまで生徒なんで、そこら辺は自由にやらせてもらうっすよ」


「……はぁ~~~。本当に狂戦士なのって言いたくなる口の回り様ね~~」


「そういうの、俺にとっちゃあ全部褒め言葉っすよ」


普通に考えればチクチク言葉ではあるが、イシュドからすれば狂戦士なのにという言葉の時点で下に見られている……にもかかわらず、という意味になってしまうため、本人が言う通り褒め言葉として受け取られてもおかしくない。


「まっ、俺から何かアドバイスがあるとすりゃあ……混戦になるのは間違いねぇ。こっちは複数人だが、向こうも群れだ。んで、報告と数が変わってなければ、向こうの方が多い。質が高ければって考えは解るが、そりゃ向こうのトップが出会った瞬からどうやって逃げるかを考えられるほどの質があっての話だ」


「……つまりよ、イシュドは最初から俺たちと参加しねぇってことか?」


「その方が良いだろうなとは考えてる。んで、そんな中で上手く戦いたきゃあ、初っ端から数を減らした方が良い」


「大技を使って数を減らす、ということかな」


「そういう事だ」


エリヴェラの答えに、イシュドをニヤッと笑いながら話を続ける。


「ぶっ放したら、即座にポーションを飲んで回復しろ。ある程度まで数を減らせたら、今度は一手から三手いないに敵を殺せ。そうすりゃあ、自ずと鬱陶しいモンスターは減ってくる」


「簡単に、言ってくれるな」


言いたい事はなんとなく解る。

しかし、それを実行するのが容易ではない事を、ヨセフは理解している。


「そうか? 俺やシドウ先生、クルト先生に攻撃を当てるのと比べれば、楽勝だろ」


「ッ、それは…………いや、そういう問題か?」


確かにそうだと納得しかけたヨセフだが、途中でそれとこれとでは話が違うと気付いた。


「あの戦いはお前や先生方一人が相手だが、ゴブリンとウルフ系モンスターの群れと戦うとなれば、戦況が確実に違う」


「……まっ、そりゃそうか」


実家に仕える騎士や魔導士たちと共に戦った経験は何度もあるイシュドだが、狂戦士らしく群れに一人で突っ込んで暴れ回ることも珍しくないため、少々思考が自分本位になってしまっていた。


「んじゃ、誰かが圧倒的な中衛職として働けば良い。常に戦場を見渡し、どこに一手を加えれば、誰が目の前の敵に止めを刺せるか考えて動き続ける。そういうのが出来る奴がいれば、ある程度の連中までなら一手から三手で殺せるはずだ」


圧倒的な中衛。

その言葉を聞き、護衛者の中から……一人だけ。そして、生徒たちからは全員目を向けられた者がいた。


「……は? おいおい、なんで皆こっちを見んだよ」


多くの視線を向けられた学生は……フィリップであった。


「なっはっは!!! やっぱそうなるだろうな」


「ぅおい! ちょと待てイシュド。後衛の真似事をするまでならともかく、俺にそんな事出来るわけないだろ」


「ふふ、あっはっは!!!! なぁ、フィリップ。普通の前衛はな、同レベル帯でローザと遠距離戦で渡り合うことがまず無理なんだよ」


恨めしぃ表情をしながらも、話しに出されたローザはフィリップを見ながら小さく頷いた。


「~~~~~~~ッ、そ、それじゃあ、あれだ。ミシェラも速い脚を活かせば、似た様な事出来るだろ」


「私は敵のトップが逃げ出しそうになった場合、追撃する役割も担ってますの。ですから、基本的に戦闘中、トップから意識を逸らせませんわ」


実際のところ、イシュドの話を聞いて「自分なら出来るかもしれませんわ」と思ったミシェラであったが、直ぐに今回の戦闘で最終的に自分が担わなければならない役割を思い出した。


そして、ミシェラとしてもイシュドを除いた学生たちの中で、圧倒的な中衛を担えるのは……渋々という感情がありながらも、フィリップしかいなかった。


「が、…………チッ!!!!!!」


ガルフは、という言葉を零しそうになったフィリップだが、冷静に考えて闘気を纏ったガルフの身体能力……そして攻撃力は、エリヴェラたちに注ぐ貴重な前衛戦力。

加えて、大きく体力を消費してしまうが、護身剛気は仲間の危機を救う最高の盾となる。


矛と盾、両方の役割を担えるガルフを中衛に添えるのは非常に勿体ない……ということを瞬時に理解し、ぐっと飲み込んだ。


結果…………状況的には、これから士気を高めていな変えればならないという場で、フィリップは盛大に舌打ちをかました。


「あっはっは!!!!! まぁまぁそんなイラつくなって、フィリップ。ぶっちゃけ、お前しかいないんだよ」


「……はぁ~~~~。解った解った、解~~かったよ。誰かが死んだら目覚めが悪いしな。でもよ、イシュド。俺はそれに慣れる訓練はしてねぇんだ」


フィリップの言う通り、慣れない武器を使う……慣れた武器で、誰と組んでも連携度を一定に保てるように訓練を重ねてきた。


だが、圧倒的な中衛となるための訓練は重ねてない。


「だから、帰ったら良い店奢ってくれよ」


「おぅ、良いぜ良いぜ。クソ良い店で奢ってやるよ」


何の店なのか……それに直ぐ気付けたのは、クルトだけだった。

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