第345話 待遇が良い、という事は……
「到着、っと」
既に日は落ちかけており、夕食の時間が迫っている。
そんな中、イシュドたちはなんとかその日の内に目的の街、クトーランに到着した。
いきなり空飛ぶ絨毯に乗って現れたアラッドたちに、中へ入ろうとする者たちの視線が集まる中……数人の門兵たちがイシュドたちの元へ走って来た。
「アンジェーロ学園から来られた方々でしょうか」
「もしなしなくても、連絡は行き届いている感じかな」
「えぇ。直ぐに中へご案内いたします」
ステラたちの監督者であるクルトが対応し、イシュドたちは特に待つことなく街の中へと入った。
「宿までご案内いたします」
既に領主の方でアンジェーロ学園の学生たちが来た際に、案内する宿を用意していた。
「ふ~~~ん……この感じだと、結構切羽詰まってんのかね」
「かもしれないね~。私たちの方でも、こういう待遇を受けた生徒たちはいるけど、後で報告を聞いてみると、大抵死ぬとは思っていなかった者たちが死んだか、重傷を負ったらしいのよね」
もしかしたら、このまま野放しになってしまうかもしれない。
だからこそ、討伐に訪れた優れた戦闘力を持つ学生に、少しでもやる気を出してもらおうと宿や食費を予め用意する依頼者は決して少なくない。
「なるほどね~~…………あれだな。さっきフランガルさんの話を聞いたからか、そういう可能性もあんじゃねぇかって疑っちまうな」
丁度案内を終えた門兵と別れたタイミングで、その様な言葉を呟くイシュド。
それを聞いたヨセフたちの顔に緊張が走り、主の咆哮というスキルを持つモンスターについて語ったフランガルも他人事ではない顔になる。
「つか、腹減ったしとりあえず食おうぜ~~~」
場に緊張感を与えた張本人は決して緊張しておらず、へらへらと笑いながら部屋の中を確認した後、宿の一階にある食堂へ向かう。
時間も丁度良く、仕方ないといった表情を浮かべながらヨセフたちも向かい、それぞれメニューを頼んでいく。
「はぁ~~~~、イシュド。あなた、いきなりぶっ込んでくれましたわね」
「? 何がだよ。可能性があるかもって話をしただけだろ」
イシュドからすれば「Aランクモンスターがいるなら、俺の出番じゃん!」といった感じで、遊ばずに戦える相手の登場に喜ぶ流れ。
だが、当然ながらミシェラたちからすれば、そんな楽観視出来る内容ではない。
「フィリップ。仮にその可能性が正しかったら、どうなのかな」
「キングの上だろ……ロードになるんじゃねぇの。ウルフの方は……良く解らん」
「ロード、ですか…………そうなると、他のゴブリンとの戦闘も厳しいものになりますね」
クリスティールの言う通り、ゴブリンキングがいる時点で他のゴブリンたちも割と厄介な存在になるが、キングがロードへ進化すると……更に厄介な敵へと化ける。
通常のゴブリンであっても、ゴブリンと侮るなかれといったバフをかけられ、その身体能力でごり押ししてくる。
DランクやCランクの上位種となれば、これまで倒し慣れている筈のガルフたちであっても……容易に、余裕を持って討伐出来る相手ではなくなる。
「ゴブリンとウルフ系の両方がというのは、さすがにあり得ないのではないでしょうか」
ローザの言葉に、クリスティールは首を横に振って答える。
「以前、イシュド君の実家で実戦を行っていた際、三体のキングと出会いました」
「ッ!!!」
「Aランクが数体同時に行動する、別種のキングが共に行動し続ける……それは決してあり得ないことではありません」
ローザだけではなく、フランガルたちまで本当なのかとイシュド達の方に視線を向ける。
対して、イシュドはあっさりと首を縦に振った。
「そんな事もあったな。まぁ、あいつらは結構特殊な例がすっけど、あり得ねぇ話じゃないな」
「そう、なのですね」
クリスティールの言葉を完全に疑っていた訳ではないが、それでもイシュドの口からそういった事があったと伝えられ……ローザの表情に、更に緊張が走る。
「お待たせしました」
出来上がった料理をウェイターたちが運ぶも、ローザたちの表情から一切緊張感が消えず、フォークに……ナイフに手が伸びない。
「? お前ら、何をそんなに緊張してんだよ。そんなのが出て来たら、俺らが戦るに決まってんだろ。そうっすよね、シドウ先生。アリンダ先生」
「あぁ、そうだね。そういう時の為に、私たちがいる」
「そうね~。保護者的な役割として同行してるんだし、仕事はちゃんとしないとね~~~」
Aランクモンスターが戦場にいれば、自分たちが当然戦うと宣言するイシュドたち。
「まぁ、やらなきゃいけないんだろうね」
それはイシュドたち三人だけではなく、アンジェーロ学園側の保護者であるクルトも同じ気持ちだった。
「うむ、そうだな。そういったモンスターたち戦うのは、私たちの役割だ。とはいえ、私としてはイシュド君も下がってもらいたいのだが……」
「無理っすね」
「……なのだろうな」
護衛者であるフランガルたちにとって、イシュドも護るべき存在だと認識しているのだが、イシュドからすればそれは有難迷惑。
それをフランガルたちも理解しているからこそ、苦笑いを浮かべるだけでそれ以上はツッコまなかった。
「いや、でもさ」
「ん? なんだよ、ガルフ」
「その……それだと」
言いたい事がある。伝えたい気持ちがあるが、上手く言葉に出来ないガルフ。
そんなガルフの思いを知ってか知らずか、先にイシュドが結論を下す。
「言っとくけど、元々Aランクモンスターが現れたら、お前らは戦わせないつもりだったからな」
「「「「っ!!」」」」
イシュドの言葉に、何名かの生徒が反応する。
「へへ、へっへっへ。良いね。好きだぜ、そういう眼、そういう顔。でもな、ソロで挑む様な俺がこんな事言うのもあれなんだろうけど、もうちょい冷静になって考えた方が良いと思うぜ」
「イシュド君にしては珍しい言葉って感じね~。でも、本当にその通りだよ。だって……Aランクモンスターは、その気になれば街を一人で破壊出来る正真正銘の怪物だよ」
「君たちが弱いを言っている訳じゃない。俺はまだこの国の、大陸の事を深くは知らないけど、君たちは既に戦力の一つであるのは間違いない」
「シドウさんの言う通りだぜ、お前ら。でも、それらを対処するのは、まだ大人の領分だ。だから、変な生き急ぎ方はしないようにな」
誰かが何かを反論する前に、大人たち? が正論で叩きのめすのだった。
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