第340話 本音

「イシュドは、何度かAランクモンスターと戦って倒したことがあるんだっけ」


「そうっすね」


あっさりと、自信満々に答えるイシュド。

アリンダとシドウも、その言葉を今更疑うことはない。


だが、Aランクモンスターという超強敵をイシュド一人に任せてしまうのは、教師としてどうなのかと思ってしまう。


「……でもね~~~。それこそ、三人で一緒に戦っちゃえば、サクッと倒せそうじゃない?」


決してAランクモンスターの戦闘力を見くびっているわけではない。

ただ、アリンダも教師生活を送る前までは現役であり、Aランクモンスターと遭遇して戦うことになったのは一回だけではない。


シドウとイシュドの戦闘力をある程度知っているからこそ、三人が本気になればAランクモンスターを討伐するのにそこまで時間が掛からないだろうと、本気で思っていた。


「かもしれないっすね。でも、その間に他のとこから人為的なイレギュラーが起きたらそっちも対処しなきゃじゃないっすか」


「護衛者たちだけじゃ、対処出来ない可能性もあると」


「可能性の話ではあるっすけどね」


さすがにそこまで自然的にしろ、人為的にしろイレギュラーが重なるのはありえないのではないか……と、アリンダとシドウも思うことはなかった。


何故なら、過去にそういった不幸の連続が重なて起きた大事件を知っているから。


「まっ、ぶっちゃけると俺、今日までの間で心底満足出来るような戦いは出来なかったんすよね」


「……はぁ~~~~~~~~~。本当に、それが本音みたいね」


エリヴェラやステラ、レオナたちとの試合は楽しかった。

その気持ちに嘘はなく、ガルフたちの様に将来の楽しみが増えたと感じた。


だが……心の底から満足出来る戦いだったかと言えば、そうではない。


三人の攻撃はイシュドをワクワクさせてくれたものの、喉元に迫るようなドキドキワクワク感はなかった。


試合だったから、三人ともそういった攻撃が出来なかった?

その可能性も無きにしも非ずではあるが、仮に出来ていたとしても……イシュドの心臓には手が届かない程、イシュドと三人にはまだまだ差がある。


「いや~~、だってしょうがないじゃないっすか。俺は別に……まぁ、普段はガルフたちの相手をしてるっすけど、最近はシドウ先生が相手をしてくれたりするから、割とあれだったんすよ。けど、こっちに来てから三次職の人と全く模擬戦とか試合出来てなかったんで」


交流会という名目ではあるが、アンジェーロ学園の学生側には、イシュドと互角に戦り合える者は一人もいなかった。


それは当然と言えば当然なのだが、それでもイシュドとしてはどこかで戦闘欲を発散したかった。


なので、イシュドとしてはアンジェーロ学園の学園長と対面した際、自身に鋭い視線を向けていた教師二人と、本気で戦っても良いなと思っていた。


「……それは、例えばガルフ君たち全員とイシュド君一人で戦っても、満足できないものなの?」


「どうっすかね。ガルフたちが完璧に連携を極めてるならともかく、そもそも二人や三人で戦うことには慣れてても、十人以上の面子で一人を攻めるのには慣れてなさそうだから…………単純な足し算にならなそうなんで、却下っすね」


ガルフたちが全員で挑んだとしても、掛け算どころか単純な足し算にもならない。


そんなイシュドの考えに対し、後衛であるアリンダも前衛であるシドウも、頷かざるをえなかった。


「そうね、そうだったね~~~。そのめんどくささを忘れてた」


「即席の面子で互いに合わせる事ほど、難しい事はないですからね」


交流会が始まってから、ガルフたちとヨセフたちは共に組み、イシュドや他のメンバーたちと何度も何度も模擬戦を繰り返していた。


「そういう訳で、Aランクモンスターが何かしらのイレギュラーで乱入してきそうになったら、俺一人で相手をするんで、シドウ先生たちは他のところの警戒をお願いするっす」


「…………解った。でも、一つだけ俺たちと約束してほしい……絶対に、その戦いで死んだら駄目だよ」


任せると決めた。

なのに死んではならないと約束してほしいというのは、一体どういうことかと……この場にそんな空気の読めない下手なツッコみを入れる者は一人もいなかった。


「へへ、解ってるっすよ」


「私としても、そうしてくれると有難いかな~~~…………そうなると、私たちは周囲も気にしないとだけど、地面も気にしとかないと怖いかな~~」


「地面、ですか……そうですね。何かを狙う人たちがどこまで本気になるのかは解らないですけど、警戒しておいて損はなさそうですね」


大和出身であるシドウにとって、忍者系の職業に就く者は珍しくなく、シドウの知り合いにも忍者はいる。

だからこそ、当然の様に地中を掘り進み、そこから暗殺するのも一つの手段だと知っている。


アリンダはそこまで暗殺事情について詳しくはないが、本当にイシュドやエリヴェラなどを狙って殺したいのであれば、地上からだけではなく地中からの襲撃も警戒しなければならない事ぐらいは解る。


「護衛者たちにもそれを伝えとかないとね~~」


「……そういえば、道中で護衛者の人たちと模擬戦をするのはありなんすかね」


「「………………」」


狂戦士らしからぬ思考を有しており、他者に自身の考えを強要することはなく、意外にも料理が得意などの面を持つイシュドではあるが…………やはり根は狂戦士なのだと、二人は思い知らされた。





出発当日。

イシュドとアリンダ、シドウの三人は無事二日酔いになることなく、朝食前に起床。


寝坊せずに予定通りの場所へ向かう。


アンジェーロ学園の前から出発……ではなく、聖都を出て少し離れた場所に集合してから出発。

面倒ではあるものの、イシュドは文句を言うのもめんどくせーと思い、学園長に抗議することはなかった。


予定された場所へ向かうと、そこには既にエリヴェラたちが待っていた。


「……は?」


互いに時間前に到着し、時間的には後から到着したイシュド達に、特に不満そうな表情を向ける者は……護衛者たちの中にもいない。


にもかかわらず、何故かイシュドの口から不満の声が零れた。

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