第341話 こっちの方が速い
「え、えっと……イシュド。ど、どうしたのかな」
イシュドの口から不満の声が零れ、それは明らかに顔にも表れていた。
「いや、だってよ。なんで馬車が…………チッ! そういえば移動方法に関しちゃあ、あの学園長と話してなかったな」
素早い移動方法と言えば、馬車に乗って移動すること。
人によっては走った方が速いものの、同時にスタミナを消費するため、いざという時に戦えなくなってしまう可能性がある。
学園長が用意した馬車はどれも一級品であり、移動に関しては申し分ない。
申し分ないのだが……イシュドには、馬車よりも速く快適に移動する術がある。
「なぁ、そっちの……護衛者たち、って認識で良いんだよな?」
「あぁ。私はフランガル・ガスタード。聖騎士であり、今回君たちの護衛者として同行させてもらう」
「オッケー。んでよ、フランガルさん。わざわざこの馬車を持って来てもらって悪ぃんだけど、元の場所に戻してきてもらえねぇか」
「ふむ………………それは、いったいどういった理由でだろうか」
態度、目上の人間に対する言葉遣いなど、これまた貴族らしい貴族として聖騎士の道を登ってきたフランガル・ガスタードとしては、色々とツッコミたいところがある。
だが、母校の学長からイシュドに関して話を聞いており、それらの気持ちは一旦全て飲み込むことにした。
「これがあるからなんすよ」
「ッ、それは…………なるほど」
イシュドがアイテムバッグから取り出した物は、空飛ぶ魔法の絨毯、を改良した逸品。
「これに乗った方が速く移動できるんで」
「…………承知した」
フランガルたちは城壁の周辺を警備している者たちに頼み、馬車を返却。
数時間後に学園長の元に話が届くも、返却理由を聞いて直ぐに納得した。
「ねぇ、イシュド」
「なんだ、ステラ」
「これが凄いマジックアイテムなのは解ったけど……全員乗れる、かしら?」
イシュドたち学生だけで十二人。
それに加えて教師が四人に、護衛者たちが六人の計二十二人。
いくら空飛ぶ絨毯が改造され、連結して広くなっているとはいえ……全員乗れる気がしない。
「大丈夫だろ。誰かが誰かの肩に座ったりすれば問題無いって」
「そう……なるのかな?」
実際問題そうするしかなく、結果的にイシュドの方にはクリスティールが乗ることになり、他にもシドウの肩にはイブキが、ガルフの肩にはミシェラが乗ったりと、なんとかして全員が絨毯の上に乗ることに成功。
「んじゃ、行くか」
絨毯に魔力が込められ、宙に浮かび……目的の街へと出発。
「っ!!!! ……なる、ほど。このスピードで移動出来るのであれば、馬車は必要ない、か」
「はっはっは!!!! 物分かりが良くて助かるぜ。因みに、こいつは知り合いの錬金術師に頼んで改造してあるから、普通の魔法の絨毯じゃあ、この速度は出ないっすよ」
「むっ、そうなのか」
フランガルとしては、是非とも自分が所属している騎士団にも欲しいと思ったが、錬金術師の加工が無ければ無理だと知り、ほんの少し肩を落とした。
「確か、この絨毯を造るまでにいくつか失敗したんですよね」
「そうそう。十個……はいってないか? とりあえず五個以上はおじゃんになったんじゃねぇかな」
クリスティールの記憶通り、イシュドと交友のある錬金術師は出資がイシュド持ちということもあって、依頼主からの要望に応える為に盛大に頑張ったが……実験に失敗は付きものであり、五個以上の魔法の絨毯が使い物にならなくなってしまった。
「ご、五個以上が……それは、恐ろしいわね」
護衛者の一人として同行している女性魔導士は頭の中でザっと計算し……その額に震えた。
速度は出ずとも、人や物を運べるという利点もあって、魔法の絨毯は非常に高値で取引されている。
元々錬金術師たちが素材から生み出せる確率は非常に低く、ダンジョンという魔窟に現れる宝箱から得られる物が殆ど。
(どういった素材が使われてるのか解らないけど、仮にそれらしい素材で考えると………………あ、頭が痛くなるわね)
実際に、自分が知っている魔法の絨毯よりも非常に速く移動し、風の抵抗を受けないようにする効果などが付与されていることから、並ではない素材が使用されているのは明らか。
加えて、女性魔導士は錬金術師ではないが、それでも錬金術に関する知識は豊富であるため、ある程度の金額が予想出来てしまう。
そして、五回以上は魔法の絨毯が使い物にならなくなったという点から、魔法の絨毯だけではなく改良に使用した素材も無駄になったと言えるため……女性魔導士は計算する度に頭が痛くなった。
「マジックアイテムの改良か……よくそんな物を試みるな」
「うちの領地じゃあ、基本的にモンスターの素材に関して困らねぇからな。それに、今後卒業してから騎士、聖騎士として活動するにしても、どうせなら錬金術師や鍛冶師の卵と仲良くしといた方が良いと思うぞ」
「何故だ?」
「そりゃ勿論、自分の武器を優先的に整備してくれたり、オーダーメイドを造ってくれたりするからだよ。この話自体は冒険者たちから聞いたあれだけど、お前ら騎士にも言えることだろ、多分」
「なるほど……それもそうか…………」
自分たちが冒険者の真似を、と一瞬考えてしまうも、ヨセフは直ぐに頭を振って余計な思考を掻き消す。
「まっ、卵たちのパトロンになれるぐらいの金がないとあれだけどな」
「ぐっ!! やはり、そうだな……金か……」
「……イシュド、なんか楽な金儲けとかねぇの」
肩を落とすヨセフを見て、なんとなくイシュドに金儲けについて尋ねるフィリップ。
「そんなのギャンブルに決まってんだろ。運が悪かったら普通に破産すっけどな」
「なっはっは!! そりゃそうだよな。それ以外だとなんかねぇの?」
「んあのあれだろ、モンスターの体をあんまり傷付けずにぶっ殺してギルドで売れば良いだろ」
「傷付けずにねぇ~~。でもよ、それって割と難ぃっしょ」
「慣れれば難くねぇって。首か心臓を斬るかぶっ潰す、後は頭を木端微塵にする。後は………………とりあえず何度も何度もモンスターと戦ってりゃあ、このモンスターはこういう攻撃が得意だったなって、あんま考えずとも動きが読めるようになるんだよ」
結論、金が欲しければ戦え。
最初のギャンブルに関してはフランガルたちも一つ口を出しそうになってしまったが、その後の答えはいたってまともで正しい内容だったため、いきなり絨毯の上で口論に発展することはなかった。
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