第339話 捨てられる強さ

「いよいよ明日ね」


一つの部屋に、教師が二人と生徒が一人集まっていた。


囲うテーブルの上に三つのグラスと一つのボトル。

明日、いよいよエリヴェラたちアンジェーロ学園の生徒たちと、受けた依頼を達成するために聖都から出発する。


そのため、間違っても二日酔いにならないようにと、呑む量は三人で一つのボトルまでと予め決めておいた。


ミシェラやヨセフからすれば、そもそも呑むんじゃないとツッコミたい。

だが、そこは大人と……思考の一部は大人とも言えなくない、狂戦士の学生。

逆に今日ぐらい良いじゃないかと、ボトルを空けた。


「ガルフ君たちは元々知ってたけど、エリヴェラ君たちも良く頑張ったよね~~~」


「アリンダ先生、それは依頼を達成し終えた後の言葉じゃないっすか」


「そうね。でも、イシュドが先導して始めた訓練に、よく付いてきたじゃん。あれ、普通の学生ならぽっきり心が折れてるはずだよ」


アリンダは……メイジ全体で見れば、非凡に含まれる者ではある。

だからこそ、イシュドが提案した訓練内容に関して異議を唱えることはなく、交流会という限られた時間で行う訓練と考えれば、寧ろ一番良い内容とすら思っていた。


だが、孤高の天才の様な凡人の気持ちなど解らず、解ろうともしない人間的には少し欠落しているタイプではない。


そのため、人によっては全然交流会で行った訓練内容に付いて行けなくなってもおかしくないと……アリンダだけではなく、シドウもその考えには同意だった。


「……どうなんすかね。俺はあいつらと、うちの実家に仕えてくれてる奴らとしか訓練をしたことないんで解んないっすけど……別に、人のペースはそれぞれなんすから、それはそれで仕方ないんじゃないっすか」


「あら、意外と優しい事も言えるんだね~~」


「いやいや、俺のことなんだと思ってるんすか」


「反論を許さない鬼教官?」


「阿修羅かな」


「…………まぁ、別にそれで良いっすよ」


自分の今までの行動を振り返ってみると、割と否定出来ないため、イシュドはあっさり言い返さずに引いた。


「けど、俺は世の中の戦闘者を目指す奴ら、全員を期待してる訳じゃないんで」


「なるほどね~~。イシュドから見て、エリヴェラ君やステラさん、レオナさんだけじゃなくて、ヨセフ君たちも見どころあるんだね」


「とりあえず良い根性は持ってると思いますよ」


正直なところ、ヨセフとパオロ、ローザの三人には他のエリヴェラたち三人や、フラベルト学園のガルフたちほど期待はしていない。


だが、世の中の……レグラ家以外の常識を少しずつだが学んできたこともあり、自身が普段からガルフたちと共に行っている訓練や、今回の交流会で行っている訓練が普通ではないことは、イシュドも解っていた。


だからこそ、興味がそそることはない。

それでも……ヨセフたちは必死に付いて行こうとし、積極的にイシュドやシドウたちに意見を求めている。


「褒めるところは、そこしかないの?」


「何言ってるんすか、アリンダ先生。俺から視れば、褒めるところがない連中が大量にいるんすよ」


「あぁ~~~……それは、そうなのかもね。能を得ようと足搔こうとしている、変なプライドを捨てられる。イシュド君としては、そこら辺が評価出来るってことね~」


「概ねそんな感じっすね。それに、人間どこで化けるか解らないっすからね」


「……ふふ、そうだね。それには物凄く同意だよ」


シドウは自身の先輩にあたる人物が、イシュドの言う「どこで化けるか解らない」という言葉に当てはまるのを思い出した。


「さて、イシュド君。明日からの件だけど、討伐が始まって……どこまでのラインなら、ガルフ君たちに任せる」


アリンダとシドウは、既にクルト経由で表の護衛者として同行する人物の詳細を知っており、基本的にイレギュラーが起きても対処出来ると判断している。


だが……イレギュラーなど起こらないに越したことはなのだが、シドウとアリンダは見抜いていた……エリヴェラやステラたちが、寧ろイレギュラーが起こる事を望んでいる事に。


「イレギュラーが起こったらどうするかって話っすよね……因みに、お二人は事前情報にないイレギュラーが起こったら護衛者たちと含めてこっちで対処したい感じっすか?」


「その方が良いとは思うかな~~~……でもね~~」


「戦う者として活動していれば、どうしてもイレギュラーと出会ってしまうことはある。だからこそ……そこでどうするかを経験する機会を奪うのも、っと思ってしまうかな」


ガルフたち一年生組に関しては、以前大き過ぎるイレギュラーに遭遇したことがあり、既に経験したことがある。


だが、そのイレギュラーを最終的に解決したのはガルフたちではなく、同行していたイシュドである。


「私も同じ意見ね~~……イシュド君は、渡したちの意見は教師として失格だと思う?」


「? 別にそんな事は思わないっすよ。他の学生連中なら単なる崖からの突き落としにしかならないと思うっすけど、お二人もガルフたちやエリヴェラたちに教師として期待してるんすよね。だったら、妥当な意見っつーか、判断じゃないっすか」


「良い事言ってくれるね~~~~。それじゃあ、イレギュラーが起きてもガルフ君たちにとりあえず任せるとして~~……どのラインまで任せようか~」


「とりまあれじゃないっすか。Aランクモンスターが現れたら、即刻俺らや護衛者連中で対応した方が良いっすね」


それに関しては、アリンダとシドウも同意見であり、ここには居ないがクルトも同意見だった。


「そうね~~。皆強くなってるけど~~~……うん、無理よね~~~」


「そうだね。どんなタイプとか関係無しに、無理だね。仮に…………奇跡的に倒せたとしても、何人死んでしまうかって話になるからね」


アリンダとシドウもAランクモンスターとの戦闘経験があるため、正真正銘の怪物がどれほどの強さを持っているのか、身に染みて解っている。


「まっ、Aランクが一体ぐらいなら、俺一人で対応しとくんで、その間シドウ先生たちには別のところから何か来ないか見張っといて貰った方が良さそうっすね」


イシュドの言葉に、一応……一応不可能でも無茶な話でもないのだが「そうだね、それじゃあよろしく頼むよ」とは、教師として直ぐに言えなかった。

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