第335話 感情は必要
(上二人がしっかりしてると、こっちとしては安心出来るな)
物凄く上から目線でクリスティールとステラを褒めるイシュド。
指導者、教官的な立場であることを考えれば、上から目線な考えも間違ってはいないのだが、彼女たちのファンや信者が聞けば……怒りを爆発させるだけ爆発させ、即鎮火されてしまう。
(問題は、二人が想定してる以上のイレギュラーが来た時だよな~~~~~)
イシュドとしても、今回討伐依頼に向かう自分以外の戦力を考慮するに、二人が話すイレギュラーが起きたとしても……お世辞抜きにして対応出来ると思っている。
だが、それはあくまで自然的に発生したイレギュラーの場合。
レグラ家が治める領地でしか暮らしていなかったイシュドではあるが、イレギュラーには自然的に発生するものと、人為的に引き起こされるイレギュラーが存在することぐらいは知っている。
(Aランクモンスターをどうにか引っ張って来て乱入させる? ……この国の裏事情はあんまり知らねぇけど、出来ないとは断言出来ねぇな。後は………………ゴミとゴミが協力すれば、クソヤバそうなアンデットとかを乱入させるかもな)
イシュドが度々会話の中で口にしていた様に、宗教が深く根付いているカラティール神聖国の中で……道を踏み外し、背信者や邪教徒と呼ばれる者たちも存在する。
信者にとって、基本的には排除すべき存在ではあるが……世の中には、邪魔者を消す為であれば、敵対者と手を組むゴミもいる。
「イシュド……イシュド!」
「ん? なんだ、ガルフ」
「いや、なんか黙々と料理だけ食べてたから……何か悩み事でもあるの?」
「いんや、別にねぇよ」
軽く流すと、また黙々と料理を食べ続けるイシュド。
作戦や戦術、フォーメーション云々はお前たちに任せる。俺は関わらない。
そう伝えたイシュドが喋られない、会話に入らないというのは自然の流れ。
そこまでおかしくはないのだが……友人であり、そういうところに気付きやすいフィリップは、黙々と料理を食べ始めたイシュドが何を考えているのか、ある程度予想出来ていた。
(朝食の時に軽く言ってたのを考えてんだろうな~~~……ん~~~~、まぁそこに関してはイシュドとかシドウ先生とかに任せるしかないだろうな~~)
ちゃらんぽらんな性格をしているフィリップだが、ガルフと同じく自分が並ではないことを自覚している。
それでも、フィリップは自分にイレギュラーを対処出来るほどの実力がないことも自覚している。
そのため、イシュドたちが何を考えているのか察することが出来たとしても、自分にどうにかすることは出来ないと解っている。
(アンジェーロ学園の学園長もなんとかしてくれるみたいだし、俺らが心配するだけ無駄って話だな)
「フィリップ、ちゃんと話を聞いてますの!」
「ん? あぁ、聞いてる聞いてる」
明らかに聞いてるように思えない返しに対し、ミシェラは「この男は~~~~~~!!!」と拳を握りしめて怒りを露にするも、自分とフィリップの口喧嘩で話し合いを止めるのはよろしくないと解っている。
そのため、なんとか怒りを無理矢理鎮火させた。
「っし、んじゃそろそろ戦るぞ」
昼食を食べ終え、軽い食休憩を終えた後……再びイシュドたち指導者対、ガルフたち学生組の模擬戦が行われた。
(ふふ、早速変化が、あるね)
(良いんじゃねぇの)
(吸収が、早いね~~~)
最初に行われた模擬戦で、直ぐに変化が訪れた。
討伐、ではなく狩りを行うと考えて戦う。
ガルフたちは直ぐにそれを実践。
勿論、本当の意味で狩りと認識して行った戦闘経験がある者とそうでない者とで練度に差はあれど、ヨセフたちの戦い方の幅が広がり始めたのは間違いない。
「さっきより、良くなってると、思うぜ!! けどな、狩りを行うからって、全員落ち着いてても、意味はねぇぜッ!!!!」
ウルフ系モンスターの真似なのか、イシュドは双剣を持ちながら時折四足歩行で動き、宙に跳べば軽やかに舞いながら斬撃を放ち、ミシェラたちの攻撃を躱す。
(全員落ち着いてては、意味がない…………そうだね。狩りは、そういうものだった)
ガルフは現在共に戦っているパオロとローザに視線を力強いアイコンタクトを送った。
僕が攻めます。
そう伝え、四肢に護身剛気、ロングソードに闘気を纏いながらシドウに対し、果敢に攻め始めた。
(おっと。うんうん……うん、良いね。普段からイブキと、模擬戦を行っているから、か……刀の切れ味に対して、良い意味で……反応出来るように、なってるね)
ロングソード、双剣、大剣、短剣……どれも、その見た目から斬れるという印象を持たれる。
刃物なので当然の話ではあるが、他の印象はあれど、まず斬れる……鋭いと印象を持つ。
そんな中で、刀という武器はそれらの斬撃系の武器と比べ、更に鋭さ……鋭利な武器という印象を相手に植え付ける。
ロングソードや大剣などと比べて扱いが難しい武器ではあるものの、その印象通り鋭さは武器の中でもトップクラスの得物。
対峙するだけでも鋭い圧を掛けられ、最初こそガルフもイブキ相手の模擬戦はかなり苦戦していた。
「ッ、ふっ……っ、シッ!!!!」
(思いっきり避けるべきところは避けて、護身剛気で受け流せるときは、受け流し……カウンターを、叩き込む)
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!」
(本命の攻撃を叩き込む、タイミングは、悪くない。さすが、二年生でこの交流会に選ばれただけは、あるね)
闘気を纏ったガルフの斬撃に対応するシドウの動きを見逃さず、パオロの槍技、螺旋突きが放たれた。
タイミングとしては指導の言う通り悪くなかったものの、シドウは膝を曲げ……体勢を低くしてどちらの攻撃も回避。
(っ!! 嫌な対応の仕方ですわね)
ローザもガルフのアイコンタクトの意図を汲み取っていたため、囮になるガルフの働きによって生まれたチャンスをパオロが仕留める……為の攻撃に対処したシドウに攻撃魔法を叩き込もうとした。
だが、後ろに退く、横に跳んで躱すのではなく屈んで回避されたため、誤射……爆風で二人の邪魔をしてしまう可能性が高く、ローザはファイヤーランスを叩き込むのをストップした。
(焦って撃ってこなかったか……ローザさんも、状況判断が上手くなってきたかな)
生徒たちの成長を喜びながらも、シドウは制限時間内に戦闘を終わらせるため、三人に峰打ちを叩き込んでいった。
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