第336話 時間が経てば……
「はぁ、はぁ…………はぁ、はぁ」
昼食後から訓練が終了。
イシュドたち以外、全員ボロカス状態である。
全員、アドバイスを受けて複数人での戦い方が確実に上達した。
それは間違いないのだが、それでも三次職に転職している者との壁は厚かった。
「お前ら、ぶっ倒れるのは良いけど、ちゃんと飯は食えよ」
当然の事ながら、イシュドは朝からずっとピンピンしており、シドウも同じく目立った疲れはない。
「あぁ~~~、しんどかった~~~~」
そして学生たちを相手にしていた三人の内、最後の一人……クルトは、口では疲れたと言いつつも、模擬戦中……目立ったダメージを負うことはなく、学生たちから見ればとても疲れている様には見えなかった。
(やっぱり、まだまだ……格が、違うって……ことなのかな)
ヨセフやミシェラたちだけではなく、当然ながらエリヴェラたちも疲労困憊状態になっていた。
(……認めなければ、ならないな。私は、心のどこかで、あの人を見下していた。だが……強い。あの人は、本当に強い)
エリヴェラは聖騎士としてまだまだ格が違うと感じ、ヨセフは改めてあの人は強いのだと……紛れもない強者なのだと認めなければならないと……そう思われるようになったクルト。
実際のところ、討伐するから狩るに意識を変えてみた方が良いと伝えられてから、本当の意味にクルト的にヒヤッとする場面が何度かあった。
だが、模擬戦の回数を重ねれば重ねるほど……逆にヨセフたちの攻撃は上手く躱され、いなされるようになっていった。
(いやぁ~~~~~、負けた負けた~~~~。一日の間にこんなに負け続けたのなんて、本当にいつぶり? にしてもまぁ……ぶっちゃけ、クルト先生になら一発ぐらい良い感じの攻撃を叩き込めると思ったんだけどね~~~~)
ヨセフと同じく、イシュドやシドウと比べればいくらか戦闘力が落ちるだろうと思っていたレオナだが、実際にステラたちと二人組、もしくは三人組で戦った結果……一度も強打を叩き込むことは出来なかった。
(普段の雰囲気に、騙された……というのは、単に私が、見抜けないのが、悪いですわね。でも…………模擬戦を重ねるたびに、上手く……紙一重で躱され、盾や剣で完璧に受け流される回数が増えたのは、どういうことなのでしょうか)
ミシェラもヨセフほど下に見てはいなかったが、それでも心の中でクルトには一振り……掠り傷でも与えることを一つの目標にしていた。
だが、結果としてミシェラの双剣は一度もクルトに掠らなかった。
(…………あぁいった方を、以前見たことがありますね)
座り込む、膝を付くほど疲れてはいない。
しかし、イシュドやシドウ、クルトも体力を疲労はしていた。
そんな中、クルトは無意識に普段の気だるさが戦闘に現れ……その結果、上手く受け流して傷付かないようにしよう、あまり動かず避けようと紙一重で避けるようになる。
普通に考えれば、疲労が溜まり続けている筈なのに、どうしてそんな動きが出来るのかという疑問が浮かぶも、イブキは大和せ生活していた頃にクルトと同じようなことが出来る侍を見たことがあった。
「いやぁ~~、全然戦えるじゃないっすか、クルト先生。流石聖騎士って感じっすね」
「えぇ、本当にイシュド君の言う通りですよ」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、褒めたからって何も出ないぜ」
ヨセフたちからすれば屈辱的かもしれないが、三人は自分が学生たちと模擬戦を行っている間……ガン見はしていないものの、他の模擬戦をチラチラと見ていた。
なので、イシュドとシドウもクルトが完璧に学生が放った攻撃を受け流し、紙一重で攻撃を回避するところを何度か見ていた。
「いやいや、そんなつもりは欠片もないっすよ。よく疲れてからが本番だとか言うっすけど、マジでそれを体現してたじゃないっすか」
二人がクルトの動きを褒め始めたところで、食堂から本日の夕食が運ばれてきた。
「昔からあんなことが出来たんっすか?」
「出来たって言うか、別にやろうと思ってやってるわけじゃないんだが……まぁ、気付いたら上手く戦れてる時はあったかな」
クルトは学生時代、聖都でも行われる学生同士が戦うトーナメントなどで特別優秀な成績を収めていたはいなかったが、それでもトーナメント自体に出場した経験は何度もあり、疲れてからが本番……それを体現し、時折ジャイアントキリングを起こすこともあった。
その試合では観客たちも大盛り上がりするが、次の試合では数分で負けてしまうといったこともあり、同級生や教師たちからだけではなく、観客たちからも不思議な奴という印象を持たれていた。
「……クルト先生。途中からの動きは、本当に意図的なものではないのですか」
イシュドに言われた通り疲労困憊状態であってもしっかりと夕食を食べながら、本当にあの動きは意図してないのかと尋ねるヨセフ。
「おぅ、そうだぞ。疲れて来たな~って感じ始めたら……最小限の動きでなんとか出来ねぇかな~って思いながら行動するようになるだけだからな」
「最小限の動きで、ですか」
そこに何か意味があるのでは! と思うヨセフだが、残念ながらそれを意識するだけでは同じことは出来ず、同じ道に辿り着くことはない。
「無意識下での動き……っていうのとは、少し違うっすよね」
「あっはっは!!!! さすがにそういう動きは何度も出来ないって。いつだったか……現役時代に一回だけそんな感じの動きを出来たことはあるけど、今日みたいな動きはそんな特別ものじゃないぜ」
あっはっは!! と笑うクルトだが、特別な動きではない……そう断言することで、そのクルトに一回もハードヒットを叩き込めなかったヨセフたちの精神を無意識にガリガリと削っていく。
「どうなんだろうな……俺のあの動きは性格的なもんと、同じ聖騎士の中でも俺が攻撃寄りじゃなく、防御寄りの戦闘スタイルだからこそ、出来る動きなんじゃないかって勝手に思ってる」
クルトも、生徒たちを相手に情報を隠そうとは思っていない。
だが、本当に上手く言葉で伝えることが出来なかったので、それが限界の説明だった。
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